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    ココイヌWebオンリー「ここに居させて」の展示小説です。

    誕生日が嫌いなイヌピーの暗い話。
    アジトでココにケーキを食べさせてもらいます。

    【ココイヌWebオンリー展示】小説「誕生日は嫌いだ」誕生日は嫌いだ
     ぼやけた街灯の足元に座り込み、携帯で時間を確認した。
     ――二十三時五十二分。
     着信とメールの履歴が溜まっているが、確認せずに携帯を閉じた。
    「チッ」
     日付を跨ぐまで喧嘩をしていたかったのに。雑魚相手だったから中途半端な時間に終わってしまった。今から他の相手を探すのも面倒だ。左手が痛くて見てみると、手の甲の皮がベロリと剥けていた。感覚がない。右手も突き指したらしく、人差し指がズキズキと痛む。
     曇った夜空をぼーっと眺め、斜め前の自販機に視線を移す。缶コーヒーの付近に蛾が一匹たかっていた。飲み物を買うにも金を持ってないので、俺はただ蛾を目で追っていた。
     ポケットに突っ込んだ携帯が振動する。相手は分かっているが、俺は出ない。

     
    『青宗、おめでとう』
     ケーキを持った赤音がいる。台所で母親が料理をしている。
    『ほら、見て! 苺たっぷり』
     ピンポーン
    『あっ、ねぇはじめくんじゃない? プレゼント持ってきてくれてるかもよ』

     
    「イヌピー」
     はっとして目が覚めた。あのまま座り込んでうとうとしていたらしい。目の前にはココがいた。
    「やっと見つけた。電話取れよ」
    「…………ワリィ」
    「ほら、アジトに帰るぞ」
     上手く躱す言葉が浮かばず、仕方なくココの後ろについて行った。特攻服を着たココの背中を見つめる。
     俺があの日死んでいたら、ココは誕生日にお供えしてくれただろうか。
     いや、そもそも、俺が最初からいなければよかったんじゃないか。
    「イヌピー?」
     ココが振り返った。
    「……何?」
    「いや、付いてきてるか心配になっただけ」
     そう言うとココはまた前を向き、俺たちはアジトへ戻った。

    「ほら、ケーキ買っといたぜ。十二時過ぎてんじゃん」
     ココがランタンを灯すと、テーブルの上にケーキの箱が置いてあるのが見えた。
    「ワリィ」
    「そこはありがとうじゃねぇの?」
     生きてるのが俺でごめんって意味だよ。というのは決して口に出さない。俺はお供えだと思って食べることにした。
     ココが箱を開けると、カットされたショートケーキが二切れ入っていた。
    「ホール買いたかったけどアジトじゃ包丁もフォークもねぇしと思ってさ。すまねえ」
    「別に、何でもいい」
     ケーキを掴もうと手を伸ばすと、ココが急に俺の手を掴んだ。
    「怪我してんじゃん」
    「あー、そうだな。こっちはたぶん突き指した」
     反対の手も見せる。
    「先に言えよ。手当てするから待ってろ」
    「ココ」
    「あ?」
    「先にケーキ食いたい」
    「えぇ……」
     俺はさっさとこの儀式を終わらせたかった。ココは悩んだ後ケーキを手に取るとフィルムを剥がした。
    「ほら、食え」
    「え?」
    「手、痛いだろ。こうしてやるから食え」
     ココがケーキを俺の目の前に突き出してくる。俺は一瞬戸惑ったが、そのままかぶりついた。
     甘い。苺が酸っぱい。甘い。美味い。
     もう一口、かぶりつく。次の一口を食べたとき、ココの親指を少し噛んでしまった。飲み込んで、また食べて、ココの手に付いたクリームを舐める。ココの表情を伺うと、真面目な顔して俺を見つめていた。俺はすぐに目を逸らした。
     食べ終えて顔を離すとココの指が俺の唇を撫でた。
    「クリーム付いてる」
     ココは掬い取るとそれを自分の口に運んだ。俺は驚いて、カッと熱くなった。
     大丈夫。暗いからどうせバレてない。
    「ごちそうさん」
     俺がそう言うとココはハッとして救急箱を取りに行った。

     だから誕生日は嫌なんだ。
     本当はココが俺を探しに来るのを期待していた。
     電話がかかって来るのも知っていた。
     ケーキを用意してくれるだろうと思っていた。
     俺なんかのために、俺なんかのために。

     だから、誕生日は嫌なんだ。

     口の中は甘くて、両手はズキズキと痛かった。


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