鍵 住宅街を抜けた通り沿いの駐車場の隣には、安いだけが取り柄のアパートが建つ。朝も昼も、夜間でさえも大型車が通り過ぎる特有の騒音と振動が絶えない場所。そこが実家を離れた堅の棲み家だ。
もっとも繁華街育ちの堅にとっては甲高い嬌声も四輪車の騒音も聞きなれた音のひとつであって、今更疎ましいとは思わない。
堅の小さなバイク屋は相変わらずの絵に描いたような自転車操業で、店と質素な部屋との行き来を繰り返す毎日が堅の日常だ。堅実に繰り返される日々の中、店を閉めたそのあとに、息をついて横になる場所があればいい。
その夜、帰宅したのは19時を過ぎてのこと。ガチャリ、と差し込んだ鍵の感触が不自然だ。掛けたはずの鍵は開けられていた。元より簡素な部屋に狙われるような金目の物はない。
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