ふたりのはじまり グラスへ伸ばした手が、向かいに座る彼の指に触れる。瞬きの間ほどのぬくもりに、びくり、と大きく揺れて慌てたように離れていった。
「す、すみませんっ」
「いいえ、此方こそ。危うく間違えるところでした」
隣り合って並ぶグラスを、取り違えそうになったのは本当だ。ただ、偶然の触れ合いが生み出した彼の反応は、随分と予想外のものだった。直前まであった些細な沈黙。それは、捲し立てる彼の喋りに打ち消されてしまっている。
-――本当に、見ていて飽きないな。
それでは、胸の内に秘める何かがあると言っているのと同意だ。経験値が足りないのは明らか。だが、そんな打算のない青い純粋を、テメノスは好ましく思っている。
「――で、その時にオルトが……?」
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