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    しの☆

    @shinoooonxxx

    こちらにはpixivから移動させた松のお話が置いてあります。気になったら覗いて見てください😊

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    保留組は社会人シリーズ3。合格組にバレました。3人で家を出るよ!

    応援を望まないチョロ松と応援出来ないトド松「…なーんかさ、最近あの3人おかしくね?」


    それはとある平日の昼下がり。
    昼食も食べ終え、自宅の2階でダラダラしていたおそ松が不意に口を開いた。
    その場にいるのはおそ松、一松、トド松の3人。残りの3人は当然仕事に出ているが勿論そんな事は知らない。


    「あー、最近平日は3人ともずっといないよね」


    スマホを弄りながらトド松が答える。昨日もカラ松に買い物に付き合って貰おうと思っていたのに、朝から出掛けてしまっていた。


    「…別に、いなくていいじゃん。静かだし。特にクソ松とかいない方が良いし」


    棘のある言い方とは裏腹に、一松の声もどことなく寂しさが滲んでいる気がする。
    それはカラ松達が一緒に働き出してから3ヶ月目の事。不在の多さに薄々は勘づいていたものの、口に出したのはこれが初めてだった。


    「やだやだ、お兄ちゃん寂しいよ!」
    「今までだっていない事あったじゃん」
    「十四松はともかく、カラ松やチョロ松がこんな毎日いないなんてなかっただろー!」
    「彼女でも出来たんじゃないの」
    「それは許さん!」


    一松もトド松も当然兄弟は好きだし寂しさを感じてはいるものの、おそ松みたいにそれを寂しいと口に出来る程素直でもなかった。


    「まあいいや、今日帰ってきたらぜってー聞き出してやる!」


    何を聞き出すのかと、呆れと期待の混じった顔で一松とトド松は目を見合わせた。





    「んで?お前らここ最近いないけど何やってんの?」


    夕飯も済み、銭湯から帰ってきた夜。
    敷かれた布団の上におそ松が座り込み、その両隣に一松とトド松が控える。対峙するカラ松とチョロ松は軽く目配せをし、十四松は珍しく真面目な顔でカラ松の隣に座り込んだ。


    「…流石に潮時か」
    「そうだね、これ以上は無理みたいだし」
    「もういいと思いマッスル!」
    「あ?何の話だよ」
    「黙ってて済まなかった。実は俺達、家を出る事にしたんだ」
    「え、そこから言っちゃうの?」
    「ああ」
    「って待て待て待て!え、何、家を出るって!オレ聞いてねえぞ!」
    「おそ松にーさん、落ち着いてくだせえ」
    「落ち着けってなあ!」
    「僕達、今仕事してるんだ」
    「………は?」


    チョロ松の放った言葉におそ松は勿論、一松とトド松も動きを止めた。


    「え、何…どういう事、チョロ松兄さん」
    「僕と十四松は3ヶ月目かな、カラ松はその前から翻訳やナレーターの仕事をしてて。僕はマネージャー、十四松は経理を担当して3人で事務所をやってるんだ」
    「…ヒヒッ、チョロ松兄さん今日エイプリルフールじゃないよ」
    「嘘でも冗談でもないよ。これ、僕の名刺」


    立ち上がったチョロ松は愛用のリュックから財布を取り出し、入れていた名刺を抜いておそ松の前に差し出した。そこには読めない文字の会社名やtotal support managerと書かれた役職、そしてチョロ松の名前が英語と日本語で印刷されている。


    「…何、これ」
    「だから僕の名刺だってば。勿論カラ松と十四松のもあるよ」
    「はあ!?ふっざけんなよ、そんなの聞いてないんですけど!?何仕事してるって!翻訳?マネージャー?経理!?何だよそれ!」
    「…兄貴」


    激昴するおそ松を遮るように、カラ松の低い声が響く。


    「黙っていた事は謝る、一松もトド松も済まなかった。でもこれは俺が…俺達がやりたい事なんだ。もう隠し通すのも限界だと思っていたし、これからもっと忙しくなってくる。だから俺達は、やりたい事を頑張るために家を出る事にしたんだ」
    「な…んだよ、それ…オレは認めねえからな!」


    言うなり立ち上がったおそ松が、カラ松に思い切り拳を振り上げる。


    「にーさん!ダメ!」


    ゴスッ、と鈍い音が響いて、おそ松の拳は十四松の顔面で受け止められた。


    「っ、十四松!」
    「ダメだよにーさん…カラ松にーさん、明日大事な打ち合わせがあるんだ…顔、腫らしちゃダメ」
    「ちょ、十四松、口切れてる!」
    「チョロ松、下に行って十四松を手当してやってくれないか。俺は兄貴と話をするから」
    「分かった。…一松、トド松」
    「っ、なに…」
    「一緒に来て。お前達には僕から説明する」
    「……分かった」


    その場に長兄2人を残し、4人は階段を降りる。
    チョロ松は氷を取りにキッチンへ、弟達は無言のまま居間に入った。


    「…大丈夫?十四松」
    「ん、大丈夫」


    氷と濡らしたタオルを持ってきたチョロ松が十四松の手当をする間、一松とトド松は無言でその様子を眺めていた。


    「よし。お前あんまり喋らなくていいからな、僕が説明するから」
    「ん…オナシャス」
    「…カラ松庇ってくれてありがとな」


    軽く十四松の頭を撫でて、チョロ松は黙ったままの弟2人と向き合った。


    -----


    「黙ってた事は謝る、ごめん」


    開口一番チョロ松に謝られて、一松とトド松は顔を見合わせた。さっきの言葉通り、嘘や冗談なんかではないのだろう。チョロ松も、その横にいる十四松も、真剣な目をしている。


    「…なんで言ってくれなかったの」


    ぼそり、一松が静かな声で問う。


    「軌道に乗るまでは、と思ったんだ。それにおそ松兄さんが怒るのは目に見えてたしね」
    「だからって」
    「仕事にも慣れて順調にいくようになって、事務所にしてるマンションに空き室が出たから部屋を借りた。僕達3人はそこで暮らす事にしたんだ。勿論家から通えない訳じゃない、今までも通ってたしね。でもこれから本当にカラ松忙しくなるし、ずっとお前達に隠し通すのはやっぱり無理だし。だからちゃんと基盤を固めてから話すつもりだった」
    「…カラ松兄さん、翻訳してるって」
    「ああ、外国の本なんかを翻訳してる。他にも仕事あるけどそれがメインかな」
    「…翻訳ってどんなの?」
    「色々やってるよ、企業パンフレットとか童話、医学書まで手広くね」
    「は…」


    チョロ松の話は2人にとって初耳の事ばかりで、目を丸くさせる以外何も出来なかった。
    あのカラ松が。ナルシストでイタくて変な服ばかり着てるカッコつけでヘタレなカラ松が?ぐるぐるする頭に、更に静かなチョロ松の声が響く。


    「十四松は経理と電話応対をしてくれてる。僕はマネージャーと言ってもまだまだ見習いみたいなもんだけど、簡単な交渉なら1人でやれるようにもなってきた。スケジュール管理しながら、十四松と一緒に英語も習ってる」
    「チョロ松にーさん、すげえ発音いいの!」
    「十四松だって覚え早いだろ。…そんな訳で僕達は今、やりたい事をやってるんだ。おそ松兄さんは認めないとか言ってたけど、そんなの関係ない。僕達はもう大人で、やりたい事が出来る。認めてもらう必要なんかないんだ」


    そう告げたチョロ松の声はあくまで静かで、それでも決意を秘めたように凛としていた。その声に押され、2人は口を開けずにいる。


    「…応援してくれなんて、そんな甘えた事は言わない。ただ、僕達がやりたい事をやってるって事だけ分かってて欲しい」
    「…十四松兄さんは?どうなの」
    「おれ?楽しいよ!」
    「…そう」
    「ごめんねトド松。一松にーさんも。でもおれ、カラ松にーさんとチョロ松にーさんと一緒に頑張っていきたいんだ。凄く楽しいんだ、仕事」
    「十四松…」


    暫く誰も口を聞かなかった。そんな沈黙を破ったのはトド松の大きな溜息。


    「あーあ、なんだよー。ボクがバイトした時は全力で潰しに来たくせにさあ。2人とも…カラ松兄さんも、勝手にやりたい事見付けて知らないうちに頑張ってるとか狡くなーい?」
    「おい、トド松」
    「…でも、羨ましい。ボクは嘘ついて見栄張ってバイトしてたけど、兄さん達はちゃんと自分のままでやりたい事やってんだもん」
    「トド松…」
    「頑張ってなんて言わないからね!」
    「…ああ」


    だって兄達が頑張ってるのは充分伝わったから。頑張ってる人に頑張ってなんて、頑張ってない自分が言える事じゃないと思うから。言葉の途切れたトド松に代わって、一松が口を開く。


    「…いつ、出てくの」
    「近いうちに…契約も済んで必要なものも揃ったからね。だからどっちにしろ今週中には言うつもりだったんだ」
    「そう」
    「…一松にーさん、ごめんね」
    「なんで十四松が謝んの、別にぼくは」
    「…寂しくさせちゃう、から」
    「…は?」
    「一松にーさん、おれ達の事凄い良く見ててくれて、誰よりも兄弟好きだから…寂しくさせちゃうなって」
    「…馬鹿だな、ぼくは大丈夫だよ十四松」


    そう、だって家を出るとか仕事したとか、そんなのは自分達が六つ子だと言う確かなものに比べたらどうでも良い事だ。働こうが何しようが、兄弟だという事実は何も変わらないのだから。


    「それより十四松、電話応対とか出来んの?また飛び込んで受話器取ったり変な聞き違いしてんじゃないの?」
    「大丈夫!おれ、ちゃんと出来るよ!ね、チョロ松にーさん」
    「うん。十四松はちゃんとやってるよ」
    「へえ…」


    信じられない、と言いたげに一松がチョロ松を見た時、階段を降りてくる足音が聞こえた。全員が目を向けると襖を開けて入ってきたのはカラ松だった。


    「カラ松…おそ松兄さんは?」
    「怒りながらだったが話は聞いてくれた。何も言わずに布団被って不貞腐れてしまったが…」
    「そう…やっぱりそういう反応かあ」
    「あと、十四松」
    「あい!」
    「ごめんな、痛かっただろう」
    「へーき!」
    「そうか、ありがとう。…一松、トド松」
    「何…」
    「チョロ松達から聞いたと思うがそういう事だ。俺達はこの家を出て頑張っていくよ」
    「…好きにしたら」
    「ああ…」
    「もー!カラ松兄さんいなくなったら誰が荷物持ちしてくれるの!?」
    「おそ松に頼めばいい、…アイツが寂しくならないように構ってやってくれ」
    「えー、おそ松兄さん?やだー、一松兄さん付き合ってよ!」
    「やだし。何でぼくが」
    「いいじゃん!ね?」
    「……買い物1回につき猫缶3個」
    「えっ、…2個!2個で!」
    「交渉成立」


    ニッ、と笑う一松の肩をちょんちょんと十四松の指先がつつく。何かと思い視線を向けると、十四松は無言で台所へ立つカラ松の背を指差した。


    -----


    「…おい、クソ松」
    「…ああ、どうした一松」


    台所で、多分人数分のお茶を淹れようとしてたらしいカラ松が振り向き、いつもと変わらない笑顔を浮かべる。
    一番気にかけてくれた、それでも一番素直になれなかった兄に近付き、一松は服の裾をぎゅっと摘んだ。


    「一松?」
    「…黙ってた事も、家を出てく事も許してやるから…一言だけ言わせろ」
    「…ありがとう。何だ?」
    「向こう向け、こっち見んな!」
    「お?おお…」


    ぐるり、背中を向けるように押されて流しに向き合う。その背にこつんと、一松の額が押し付けられる感触。


    「無茶すんなよ、体気を付けて。…今までありがとう、カラ松兄さん」
    「っ、いちま…」
    「こっち見んなっつったろ!」
    「あ、ああ、でも」


    どれ程の勇気を持ってくれたのか、今まで一番酷い扱いをされてきた弟からの最高のエール。


    「ありがとう一松…兄貴とトド松の事、頼むな」
    「は、やだね。…でも、たまに帰って来るなら聞いてやんない事も、ない…けど」
    「ああ、勿論。家を出たってここが俺達の生まれ育った家である事に変わりはないんだから」
    「帰ってくる時は猫缶忘れんな」
    「猫缶と…手羽先の美味いの土産に帰ってくるよ」
    「約束だからな」
    「ああ」
    「…行ってらっしゃい、カラ松兄さん」
    「…ん、行ってきます」


    ぱっと手が離れる感触、ぺたぺたといつもより早足で立ち去る足音。きっと今一松の顔は耳や首まで真っ赤だろう。見られないのは残念だが、それでもカラ松は上機嫌で人数分のお茶を淹れて居間へと戻った。






    「じゃあ、行ってきます」
    「体に気を付けるのよ、何かあったら電話しなさい」
    「大丈夫だよ母さん、ちゃんとやっていくから」
    「兄さん達、今度遊びにいっていい?」
    「勿論!いつでも大歓迎!」
    「おーい、そろそろ行くぞ」
    「あ、はーい。……兄さん、まだ不貞腐れてんのかな」
    「昨日の夜も一言も口を聞いてくれなかったからな。まあ仕方ないさ、そのうち分かってくれる。なんたって俺達の兄貴なんだから」
    「…そうだね」


    日曜日、カラ松達が家を出る日になった。玄関先で話す賑やかな声が届いてない訳はないのに、おそ松は顔を出さなかった。
    だけど何も言わずに家を出るなんて出来なくて、せめて声だけでもとチョロ松が口を開く。


    「おそ松兄さーん!行ってきまーす!」


    絶対に聞こえるだろう声で、2階に向かって叫ぶ。それを見たカラ松と十四松も。


    「兄貴!弟達の事頼んだぜ!」
    「にーさああああん!行ってきマッスル!」


    そのまま全員で暫く窓を見上げていると、小さく開いたそこからサムズアップした手がちらりと覗いた。
    誰より兄弟が好きで一番子供っぽくて、離れてしまう事や変わっていく事が怖い長男の、何より嬉しい応援だった。


    「よし、じゃあ行くか!」
    「うん。じゃあ、皆元気でね」
    「またお土産持って帰って来マッスル!」


    カラ松が借りたレンタカーの窓から顔を出した十四松がいつまでも手を振る。それが見えなくなるまで見送って、家に入った。


    「…おそ松兄さん」


    2階に上がった弟2人が見たものは、窓ガラスに額を押し付け、にんまりと口元が緩んだ兄の姿。


    「…あーあ、行っちまったかあ」
    「何で見送ってあげなかったの」
    「あ?だって、別に離れ離れになる訳じゃねえもん。いつだって会えんだしさ。…それより兄ちゃんちょっとパチンコ行ってくるわー」
    「ちょっとおそ松兄さん!」
    「…トド松、いいから。…行ってらっしゃい」
    「おー、勝ったら猫缶な」
    「期待しないでおくよ」


    ひらひらと手を振って部屋を出ていくおそ松を見送り、トド松は一松に詰め寄った。


    「ちょっと、なんでほっとくの!?」
    「…長男だからさ、1人になりたい時もあるんじゃない?」
    「………ああ、そういう事ね」
    「そ、そういう事」


    いつもいつも気楽そうに見える長男だからこそ、こんな時は1人で気持ちの整理をさせてやりたいと、そう言外に匂わせた意図をちゃんと汲み取る。


    「…さーて、ボクも仕事探そうかなあ」
    「……マジで」
    「…多分」
    「じゃあぼくも」
    「えっ」
    「…なんてね」


    ヒヒッと笑う一松につられ、トド松も楽しそうに噴き出した。


    「ね、明日猫カフェ行かない?」
    「…行く」
    「おそ松兄さんも来るかなあ」
    「どうだろ、寂しがり屋だから来るんじゃない?」
    「そしたら奢ってもーらお」
    「金なんか持ってないだろ、あのギャンブル松」
    「うーん、今日は勝ってきそうな気がするなー」


    にっ、と笑うトド松の言葉が本当になったと知ったのは、帰宅したおそ松の手に有名なケーキショップの箱が握られていたから。
    猫カフェに行く約束もして、3人は広く静かになった部屋を見回した。

    これから少しずつ、残された自分達も何かが変わっていくんだろう。
    そんな不安も3人でいれば大丈夫だと、何故かそう思えた。




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