後日、付箋の意味をめちゃめちゃ彼に聞かされた珍しいな。零さんが私の家に忘れ物なんて。
リビングにある二人掛けに丁度良いサイズのソファーの隅で発見した物を手に取った梓は、まじまじとそれを見つめた。
それとも持ち運ぶのに不便だから捨てておいてという意味で置いていったのだろうか。
梓の恋人である降谷零の忘れ物、それは雑誌で、表紙には幸せそうに微笑む男女の姿があった。
女性のモデルは、昨年からブライダル事業に参戦することを表明したフサエブランド新作の華やかなウエディングドレスを纏っており男性も抜群のスタイルを活かした王道の白いタキシード姿で女性の腰を抱いている。
それにしてもこの忘れ物、結婚情報誌ってもしかしたら零さんの仕事で必要になったのかしら。
恋人は特殊な警察官だ。その可能性は大いにあると判断した梓は、雑誌を捨てず万が一また彼に必要な時がきたら渡そうと大事に仕舞っておくことにした。
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「あら、零さんたらまた忘れ物してる」
休日のリビングでTVでも観ようかとソファーに座った梓は、テーブル上の真ん中に置かれた雑誌を目に映して、「今度は和装だ」と呟いた。
今回の結婚情報誌の表紙では男性は紋付き袴、女性は白無垢姿で両者とも奥ゆかしい笑みを浮かべている。
今度は雑誌の頁の所々に付箋までしてあるので本格的に仕事に必要なのだろう。
付箋を目にしてキリッと引き締まった表情になった梓は、また雑誌を引き出しの奥に大事に仕舞うことに決めた。
この場所に恋人の零がいれば、どうしてそんな意味に取ってしまうのかとツッコミを入れるシーンだがこの部屋にいるのは彼女とカーテン内に入り日向ぼっこでぬくぬくご機嫌な顔をして眠る三毛猫だけ。
ツッコミ役不在のまま看板娘が彼が残した結婚雑誌の意味を知るまで―――あと○○日。