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    ざくろ

    @zakurodoro

    ポイピク初心者。ドロ沼。

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    ざくろ

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    ドラロナ吸隊パロ/ドラルク隊長と部下のロナルドくんのお話。
    軽い怪我描写あります。お付き合い未満のもだもだ話。誕生日とは関係ないネタですスミマセン💦
    赤い退治人をねらい撃ち!3、お疲れ様でしたー

    #ドラロナ
    drarona
    #赤い退治人をねらい撃ち3

    『ドラルク隊の恋愛事情』 血の滲んだ腕と打撲のせいで薄っすら紫色に変色した肩を目の当たりにして、私は大きく舌打ちをした。
    「うっ、あの、すみません」
     バツが悪そうに、目の前の部下が体を強張らせる。私は沸々と湧き上がる苛立ちを抑え、長い溜息をついた。どんなに自身を落ち着かせようと試みても、眉間のシワは消えそうになかった。
     ここは吸血鬼対策課、私が率いる通称『ドラルク隊』の控え室。個人のデスクが3つと、来客用の小さなソファが片隅に置いてあるだけの簡素な一室だ。
     私は今、その来客用のソファに部下であるロナルドくんを座らせている。彼は先程の任務で右肩と腕を負傷したばかりだ。大きな怪我ではないからと頑なに病院に行きたがらないので、私が手当してやることにした。純粋に体を案じているのだが、彼は私の苛立ちを感じ取って完全に萎縮してしまっている。
    「別に怒ってないよ。自分の甘さに苛立っているだけさ」
    「うぅ……」
     ロナルドくんは唸った。どうしても言葉通りには受け取ってくれないようだった。いつもの覇気はすっかり消え失せ、私に暴言ばかり吐く小生意気な態度はどこへやらである。
     私は救急箱を漁りながら逡巡した。放っておけばこの若造はどんどん自己嫌悪で潰れていく。私のこの遣る瀬無い怒りが、自分のせいではないのだと理解させなければならなかった。
     そもそも、私の苛立ちの原因は先程の任務にあった。下等吸血鬼が大量発生したと連絡を受けて我々は出動した。現場は騒然としていたが、危険度Aオーバーの高等吸血鬼が紛れているわけでもなく、普段から吸血鬼相手に戦い慣れた人間からすれば容易い任務だった。
     しかしそこで問題が発生した。こちらが油断した隙に、逃げ遅れた民間人の子供が、避難誘導から外れて道端へ飛び出してしまった。子供という存在はか弱く、知能の低い下等吸血鬼でも獲物に選びやすい。案の定子供の気配に気づいた吸血鬼達が一斉に襲いかかった。私も咄嗟に銃を構えたが一足遅く、誰よりも早く動いたのはロナルドくんだった。反射的に子供を庇い、ロナルドくんは負傷した。彼のファインプレーにより子供は無事だったが、あの時ほど私の肝が冷えた瞬間はなかった。
    「あれだけ現場の避難誘導を怠るなと言っているのに、あいつら……」
     私は苦々しく呟いた。あいつら、とは他の部隊の人間のことだ。あの現場には対策課からドラルク隊以外も駆り出されていた。ならばと民間人の避難はそちらに任せていたのだ。彼ら曰く、吸血鬼の数に圧倒されて誘導が乱れてしまったらしいが、私から言わせればただの怠慢、言い逃れできないミスである。だが、彼らの能力に合わない指示を軽率にしてしまったのも自分であり、結局私は自分の不甲斐なさに苛立つことになった。
     コホンと咳払いをして、改めてロナルドくんと向き直った。彼はこちらの顔色を伺って肩を丸めている。傷口にガーゼを当てながら、私はなるべく優しい声音になるよう努めた。
    「あのね、私はただ自分の判断の甘さが原因で君が傷ついたのが許せないんだよ。だから君に対して怒っているわけじゃない。分かるかね?」
    「……はい」
     小さく返事をするロナルドくんの声はか細かった。僅かに肩の力を抜いたようだが、表情は曇ったままだ。どうやら私の言葉の真意は彼に届かなかったらしい。
     真面目なロナルドくんのことだ。大方、器用に立ち回れず負傷してしまったことを反省でもしているのだろう。完璧すぎる兄の影響なのか、彼は自分にやけに厳しい一面がある。ロナルドくんの無鉄砲さには私も普段から注意しているところではあるが、こちらが指摘する前に自責するとは、よく出来た部下と褒めるべきなのか真面目すぎると嗜めるべきなのか。
     少し待ってみても彼が口を開くことはなく、私に弱音を吐くことはなかった。ふむ、と私は顎に手を当てた。彼を癒やしてやろうにも手段がなかった。
     こういう時、相談しやすい同僚が一人でも居れば良いのだが、我がドラルク隊には私とロナルドくんと、アルマジロのジョンしかいない。ジョンは私の使い魔であり、事務仕事を器用にこなす副隊長でもある。今はロナルドくんの隣で使い終わった救急箱を抱えて、心配そうに彼を見ている。ロナルドくんもジョンには心を許しているようだが、生真面目な彼は立場が上である私達には気軽に甘えたりすることはない。そもそも彼の性分として、自分の弱さを誰かに委ねるという選択はなかなかできないのだろう。
     私はふと、かつて上司に言われた言葉を思い出した。ロナルドくんを我が隊に抜擢したいと上司に申し出た時に、釘を差された言葉だった。
    『お前には勿体ないくらいの人材だ。他の隊も彼を指名している。どうしても欲しいと言うなら、他に人員は割けない。それでも良いのか?』
     大嫌いなあのちょび髭親父に念押しされて、私は分かっていますとも、と素っ気無く答えた。どうしてもロナルドくんが欲しかった私は直ぐに頷いてしまったが、あの時無理矢理にでも人員を増やすべきだったと反省している。そうすればロナルドくんの負担も減らすことができた。今回の怪我ももしかすると避けられたかもしれない。
     だが、例え時を戻せたとしても、きっと私は同じ選択をしてしまう。それほどあの時のロナルドくんは魅力的だった。他の人間なんて目に映らないほど、彼は一瞬で私を虜にした。
     当時の私は自分の手足となってくれる優秀な部下を探していた。私は昔から身体が弱く非力だった。故に隊長のくせに使い物にならないと周りからもよく嫌味を言われていた。どんな皮肉を言われたところで痛くも痒くもなかったが、実際、戦いの局面を他の人間に逐一頼らなければならないというのは、なかなかに骨が折れた。
     私の下に就きたいと申し出る者がいないというのも悩みの種だった。私は他の人間より賢く、指揮をとるのに長けていたが、私の考える策はどれも無茶なものばかりでついていける者が少なかった。上の連中が新しく人を増やしても直ぐに辞めて出て行ってしまう。結果的に私の隊は常に人手不足だった。
     そんな折に見つけたのがロナルドくんだ。
     元々彼の存在は入隊前から知っていた。あのヒヨシ隊長の弟となれば噂は嫌でも耳に入る。どんなものかと物見遊山に覗きに行けば、予想以上に見目麗しく、私の目は簡単に釘付けになった。それに加えて彼は新人とは思えないほどの銃の腕前だった。銀の弾丸を全て命中させる様は、恐ろしいほど美しく凛としていた。私はすぐに彼に声をかけた。直々にスカウトすることすら躊躇わなかった。
     彼なら持ち前の運動神経の良さと頑丈さで、私の無理難題な作戦にも適応してくれると思った。なにせ体力テスト、技能テスト共に満点をとった化け物だ。噂によると知能テストだけ及第点ギリギリだったらしいが、そんなところもチョロくて扱いやすいとも思った。
     そして何よりも、今ここで彼に声をかけなければ、彼は他の隊の人間に取られるという確信があった。それだけは絶対に阻止したかった。彼は自分の隣にいなければならない存在だと強烈に感じた。 
     唯一懸念したことと言えば、ロナルドくん本人が私の隊へ入るのを拒むことだった。私の悪名は職場では有名だったし、可能性は充分にあった。本人が拒絶すれば私に決定権はない。
     だが私の心配をよそに、ロナルドくんは二つ返事で私の部下になることを了承した。てっきり兄の部隊に入りたいのだろうと思っていたから、こちらが拍子抜けしまうほどだった。本当に良いのかと再三尋ねても答えは変わらず、私はこの機を逃すまいと上司を説得し、数多のスカウトを跳ね除け、ロナルドくんを私の部隊に入らせた。
     ロナルドくんは期待以上に活躍を重ねた。お陰で私の隊の実績も鰻登りになり、上司からの嫌味も格段に減った。なによりも、彼が私のために働き、自分の意志で隣にいてくれるということが嬉しかった。
     つまるところ、私はロナルドくんのことを気に入っているのだ。今こうしてどうにか元気付けてやりたいと思うのも、個人的な好意があるからに他ならない。
     私はロナルドくんに目を向ける。私が黙っている間も懲りずに一人反省会をしているようだった。
    「そんなに落ち込まなくても、君の人間離れした回復力なら全治一週間程度だろう? 直ぐに復活できるさ。暫くは無理しないで安静に過ごすんだよ」
    「……すみません……」
    「君はさっきから謝ってばかりだな」
     業務に支障が出ることを察してしょげるロナルドくんは、叱られた子犬に似ていた。別にこちらは怒っていないというのに、律儀に項垂れている。こういうところも健気で可愛いんだよなとつい思ってしまい、顰めっ面だった私の顔はくしゃりと破顔した。
    「フフッ。君がしおらしいなんて不気味だな」
    「……ッ、俺だって反省くらいするわ!」
    「あぁやっと戻ってきたな」
     よしよしと愛でるように頭を撫でると、ロナルドくんの頬が僅かに赤く染まる。こんなことで照れるのもまた初心で可愛らしい。もっと優しくしてやりたいところだが、その瞳は不安げに揺らいだままでいる。何にそこまで怯えているのか分からず、私はじっと彼を見守った。視線に気がついたロナルドくんは、おずおずと心細そうに私の隊服の裾を引っ張った。
    「あのさ……一週間も使い物にならねぇのに、俺、ここにいて良いのか?」
    「……は?」
     私は目を見張った。ずっと黙って何を考えているのかと思えば、そんな事で頭を悩ましていたのか。
    「君はたった一週間休むくらいで左遷されるとでも思っていたのかね?」
    「うっ。だって俺、戦うことしか取り柄ねぇし……」
     モニョモニョと口籠る彼に、私は呆れて言葉を失ってしまう。どうも彼は自己肯定感が欠如していると思っていたがまさかここまでとは。
     私は荒々しく頭を掻いた。髪が少し乱れてしまったが、構うことはなかった。
    「はぁ。あのね、逆に聞くが、君はジョンが怪我をして全く仕事ができなくなったとして、この隊から追い出そうと思うのかね?」
    「えっいやっそんなことは」
     慌てたロナルドくんはジョンを見下ろした。ずっと隣りにいたジョンはヌーと寂しそうに鳴く。私は即座に言葉を続けた。
    「絶対しないだろう? それと同じさ。君は此処にいて良いんだ。一週間でも二週間でも、一年でも二年でも、調子が戻るまで休めばいいだろう? たとえ戦力にならなくったって、君には此処に居てくれなきゃ困るんだよ」
    「な、なんで」
    「何でって」
     つい言い淀んでしまう。君が好きだから、なんて口走ってしまったらどんな大惨事になるか分からない。ロナルドくんは理解できないと言いたげに私をソファから見上げた。
    「ジョン副隊長は可愛いし、その場にいるだけで周りを癒やしたりできるけど、俺は、戦闘面で役に立てなかったらただのお荷物と同じだろ……」
     そこまで言ってハッと自分の口を手で覆ったロナルドくんは、思い出したようにスミマセンとまた謝った。何に対して謝罪しているのか分からないまま、私は肩をすくめた。
    「君はどうも自分を卑下しすぎる癖があるな。怪我をしてますます自信がなくなったって感じか?」
    「うっ」
     小さく呻くだけで言い返して来ないところを見ると図星らしい。私はこめかみに手を当てて首を横に振った。この問題は思ったより根深そうだ。恐らくこの場では解決しない。
     私は無言でジョンに視線を送った。アイコンタクトでこちらが言いたいことを察したジョンは、快くヌンヌンと頷いてくれた。
    「ねぇロナルドくん。これから我が家においでよ。沢山ご馳走を作ってあげる」
    「……え?」
     きょとんと目を丸くしたロナルドくんは、突然の提案に時が止まったかのように動かなくなった。想定内の反応だったので、私は構わず話し続けた。
    「あぁどうせなら泊まってもらった方がいいかな? 君、そのままじゃお風呂も満足に入れないだろうし。濡れタオルで体を拭いてあげるよ」
    「……え? え?」
     展開についていけずロナルドくんは何度も瞬きを繰り返した。数秒経って漸く状況を理解したらしく、勢いよく仰け反ってソファの背もたれに頭をぶつけた。あまり派手に動くと傷が痛みそうなものだが、本人は気にする余裕すらなさそうだった。
    「なっなんで!?」
    「だってそうでもしないと、君は愛されてる自覚が湧かないだろ?」
    「愛!?」
    「愛」
     オウム返しするとロナルドくんは耳まで真っ赤に紅潮させた。言葉にならないまま、口をパクパクさせる姿はまるで金魚だ。
    「つまりね、君は私やジョンに愛されているのだから、怪我をしている時くらい素直に甘えなさいってことだよ」
     人差し指でツンっと額を突くと、ジョンも私を真似て小さな手でロナルドくんの手の甲をちょんと突いた。
     彼は私とジョンを交互に見て口籠った。気恥ずかしいのか尻のあたりをもじもじとさせている。
    「あ、ありがとう……ございます」
     やっと彼の口から聞きたかった言葉が聞けて、私はホッと息をついた。満足げに頷けば、ジョンも嬉しそうに笑った。
    「そう、それでいいんだよ。じゃあ今日はもう仕事を切り上げようか。帰りにスーパーで食材を調達しなければ」
     いそいそと私が帰る支度を始めると、ロナルドくんも慌てて立ち上がった。鞄を手に取ろうとしたところでピタリと動きが止まる。力を入れた時に痛みが走ったらしく、鞄すら満足に持てない自分に嫌悪感を抱いているようだった。私は直ぐに彼の代わりに荷物を持ってやった。クソ雑魚と揶揄されてもこれくらいはできる。少しは紳士らしいところを見せないとね、と彼に目を向ければ、何故かロナルドくんは眉間のシワを深くしたままこちらを睨みつけていた。普通は感謝するなり嬉しがるなりする場面だと思うが、彼にとっては違うらしい。
    「君は私に優しくされるのが嫌いなのかね」
     私が苦笑いすると、ロナルドくんは肩眉を上げた。何を思ったのかハァと短い溜め息をついた。
    「…………そうじゃない。気を抜くと勘違いしそうになるから顔に力入れて耐えてんだよ、です」
    「勘違い? 耐える? なにが?」
    「うるせぇ。こっちの話、です」
     取ってつけたような敬語を吐いて、彼は私から視線を逸らしてしまう。私は腑に落ちないまま、深く考えもせずに歩き出した。直ぐにロナルドくんの肩にジョンが乗る。ヌーヌーと話しかけ、ロナルドくんは困ったように首を振った。
    「え? 勘違いじゃないって? いや、でもあの愛してるは多分そういう意味じゃないと思うし……」
     小声でぼそぼそと何かを話しているが、私の耳には届かない。私のジョンと内緒話ができるなんてロナルドくんぐらいなものだが、恐らく彼には自覚がない。私がたまに二人に嫉妬していることも知らないだろう。そういう鈍感なところも愛しいが、この際じっくり教え込んでやるのも悪くない。私は帰宅後のもてなしメニューを考えながらほくそ笑む。さて今日はどんな愛を囁いてやろうか。愛しの一人と一匹が私を追いかけてくる足音を聞きながら、私は鼻歌を口ずさむのだった。

    ◇◇◇

    「ほら、見てくれよジョン。ドラ公のやつあんなに呑気な顔して。ドキドキしてるのなんて俺だけなんだよ」
     俺は少し離れたところからドラルクの背中を追いかける。「ヌンのことは副隊長って呼ばなくても良いよ」「敬語もいらないよ」と言う優しい言葉に甘えて、砕けた口調で話しかければ、ジョンは顔は困ったように首を傾げた。
    「ジョンは優しいよなぁ。こんな俺の片思いを応援してくれるんだから」
    「ヌー……」
    「昔あいつに助けられたガキが俺だってことに気づいたのも、ジョンだったもんなぁ」
    「ヌン!」
    「まさか助けた本人が忘れてるとは思わなかったけど」
    「ヌー……」
    「あっ、いや、別にジョンを責めているわけじゃ……」
     慌ててマジロの背中を撫でる。こんなにも可愛くて愛しい存在なのに、俺のガキの頃の記憶にはジョンの姿はない。ドラルクに助けられたあの日、確実に傍にジョンもいたはずなのに、俺の目に強烈に映ったのはこちらに手を差し伸べるドラルクの姿だけだった。あの時の高揚感と衝撃は忘れられない。何度も何度も思い出しては胸が苦しくなる。もう一度会いたい、役に立つ人間になりたい、そう願い続けて俺は今に此処にいる。初恋だったと言えばドラルクは嗤うだろう。
    「ロナルドくん、ジョン、もう少し急いでくれ」
     向こうからドラルクが急かす声が聞こえてくる。こっちの気も知らないでいい気なもんだ。簡単に自宅へ招くところを見ると、俺のことをペットか何かと勘違いしているに違いない。
    「まぁ、それでもいいけど」
     独り言をぼやいてドラルクの側に駆け寄れば、ふいに優しい眼差しに射抜かれた。ドキリと胸が高鳴って、ドラルクを直視できなくなる。慌てて視線を逸らしてもこちらに向けられる視線の熱は変わらなかった。
     最近はいつもこうだ。ドラルクは愛しいものを見るような目で俺を見る。その気なんてないくせに、やけに甘く優しい声をかけてくる。その度に俺の鼓動はおかしくなって、どう対応したらいいか分からない。期待させるようなことはしないでほしい。自惚れて痛い目を見るのは嫌だ。慌てて緩みそうになる顔に力を入れる。こんなにドキドキした不安定な状態で一晩ドラルクの家に泊まれるのか、自信はない。
    「また険しい顔をしてるな。悩み事か? 顔が赤いところを見ると、知恵熱でも出したのかね」
     的はずれなことを言いながらドラルクは笑う。これで吸血鬼対策課随一の頭脳と言われているのだから馬鹿げた話だ。俺の長年の恋心にこれっぽっちも気づかないヤツがそこまで優秀なはずがない。ジョンの方が余っ程隊長としての器が備わっているように思える。
     内心悪口を並べながら、俺はドラルクの後姿を眺めた。ガリガリの細い体をしているくせに歩く様は優雅で凛としていてかっこいい。音程のズレた鼻歌すら愛しく思えてくる。よく見れば袖口が赤く汚れていて、負傷した俺に手を差し伸べた時についた汚れだと気がついた。
     眺めれば眺めるほど胸がキュンと鳴って苦しくなる。恋は盲目とは言い得て妙だ。コイツの部下になって憎たらしい部分も沢山見てきたはずなのに、好きという感情が全てを覆い尽くしてしまう。
    「あー……クソ。なんでこんなことに……」
     勝手に熱くなる頬を手で隠して、忌々しく呟いた。
     どうせ好きになるならもっと美人なお姉さんが良かった。よりにもよって、何故この性悪クソ雑魚おじさんに助けられてしまったのか。
     ジョンはヌシシ♡と可愛く笑った。小さな手が俺の頬を突いた。
    「ヌンヌイヌヌイ?(運命だからじゃない?)」
     上手く聞き取れなかったが、なんだか物凄く恥ずかしいことを言われた気がした。なんて言った? と聞き返しても、楽しそうに尻尾を振るだけで誤魔化されてしまう。
     昔からジョンはこちらの想像以上に全てを見透かしている時がある。ドラルクと俺を交互に見て笑う姿は確実に何かを知っている。それが何か尋ねてみても、含み笑いを浮かべるだけで教えてはくれない。
    「ジョンはずるいよなぁ」
     俺が肩をすくめると、ジョンはドヤ顔で胸を張る。ふさふさの胸がふわりと膨らむ様子を見て、俺はまぁいっかと笑みを零すのだった。




    【完】 
     



     
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