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    ざくろ

    @zakurodoro

    ポイピク初心者。ドロ沼。

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    ざくろ

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    赤い退治人を狙い撃ち4開催おめでとうございます👏
    *30年後ドロでお誕生日ネタ
    *タイトル通り天然誑しのロナルドくんのお話
    *お誕生日要素は薄いですゴメンナサイ
    *パスワードはロくんの誕生日4桁
    *此方の作品を再録した新刊を10月に発行予定です🌠準備号としてもお楽しみください(再録本には書き下ろしも入ります)

    #ドラロナ
    drarona

    天然誑しの退治人 ロナルドくんは天然誑しだ。これは私の思い込みなんかではなく純然たる事実である。
     彼の周りには彼と出会ったことで人生を変えられた人間があまりに多い。最早ストーカーの域を越えてしまっている半田くんや、お近づきになるためにオータムに就職したサンズ女史は言わずもがな。あのフクマさんでさえも、ロナルドくんのブログに強烈に惹かれて今に至るというのだから恐れ入る。聞く所によると腕の人ことサテツさんも退治人を志したきっかけはロナルドくんだったらしい。人のみならず無機質のメビヤツまでも虜にしてしまったのだから、彼の誑しぶりは最早プロ級である。一体どこまでやれば気が済むのかと、こちらがいくら注意したところで意味はない。彼の人を惹き込む言動は全て無自覚であり、直そうにも直せない癖のようなものだからだ。まさに天然たる所以でもある。悪い虫がつかないように目を光らせなければならない私の身にもなってほしい。
     こちらの気も知らないで、彼の誑しぶりは留まるところを知らず、どんどんその魅力を加速させていく。最近に至っては計算され尽くした言動で相手をころりと落としてしまう。今まで無自覚に相手の求めるニーズに応えてきた若造が、時間をかけて自分の強みを知り、周りの求めるロナルド様像を学んだのだ。こうなればもう彼は敵なしといっても過言じゃない。今となっては呼吸するよりも容易くファンサをこなし、気障な台詞もさらりと言えてしまう完璧なロナルド様が出来上がっている。
    「君さぁ、いい加減人を誑し込むのは止めたらどうだ」
    「あ? ……なんだよ、またその話か」
     ロナルドくんは先程ファンだと名乗る女性から貰った花束を大事そうに抱えていた。仄かな花の香りを楽しんでいるようで、珍しく穏やかな笑みを浮かべている。五十路になっても衰えない肉体と、ムカつくほど綺麗な顔立ちが花束によく似合う。まるで絵画のようだと、通り過ぎる人々が自然と彼に目を奪われる。そんな光景が余計に気に食わなくて、私は更に苛立った。
     こちらの言葉にロナルドくんは一瞬顔を顰めたが、何を思ったのか直ぐに鼻を高くしてニヤリと笑った。
    「男の嫉妬は見苦しいぜ?」
    「はぁ!? 勝ち誇った顔をするなアホ! 言っておくがこれは忠告でもあるんだからな!」
    「忠告ぅ?」
     片眉をあげて怪訝そうな顔をする彼は、やはり何も分かっていないようだった。私は怒りのままに人差し指を目の前の胸板に突きつけた。
    「そうだ! 見知らぬ人間からホイホイ物を貰いよって! あの人も本当に君のファンか分からないだろう!」
    「いやファンだろ多分。明日が俺の誕生日だって知ってたし。この花束も誕生日プレゼントだって言ってたし」
    「はぁーもう、これだからチョロルドは! この前の一件をもう忘れたのか!」
    「あー……」
     勢い良く捲し立ててやると、頬を掻いてバツが悪そうに苦笑した。どうやらこちらの言い分を全く分からないわけではなさそうだった。
     この前の一件、というのは今から一ヶ月前に遡る。丁度今日と同じような仕事の帰りの道、ロナルドくんのファンだと名乗る女性が現れたのだ。開口一番執着とも取れる思いの丈を一方的に浴びせるような人間で、正直私は初めから気に食わなかった。だが紳士故に顔に出さないよう努めた。初めこそ彼女の熱量に押され、たじたじになっていたロナルドくんも、直ぐに順応してスマートに会話していたように思う。彼の場合はシンヨコの変人に慣れすぎたせいで、多少のことには驚かなくなってしまったのかもしれない。
     結局その女性とは数分話した程度で別れたが、去り際に押し付けられる形でプレゼントを手渡された。プレゼントの中身はお手製の縫いぐるみで、存外可愛らしいデザインのものだった。
    「へぇ。あの人器用なんだなぁ」
     渋い顔でそれを見下ろす私の傍らで、ロナルドくんは呑気にそんな感想を述べた。あの時の間抜け面は今でも忘れられない。再三言い聞かせているというのに、何年経っても警戒心の薄い男であることに変わりはなかった。私はため息を一つ零して、どことなく悍ましいオーラを発するその縫いぐるみを奪い取った。問答無用でハサミを入れると、一瞬ロナルドくんの口から「あっ」と声が漏れたが、鬼の形相をしている私を見てそれ以上は何も言わなかった。縫いぐるみの中から出てきたのは小型の盗聴器と、夥しい女性の髪の毛だった。その場が一瞬で凍りついたのは言うまでもない。
    「あの時はびっくりしたよなぁ」
    「びっくり!? びっくりで済ますのか君は!」
     思わず私は舌を巻いた。あの後警察に連絡したりギルドマスターやフクマさんに相談したりと慌ただしかったというのに、なんでもないようにこの男は言うのだ。ここまで来ると能天気という言葉では片付けられない。つい絶句していると、ロナルドくんは困ったように眉を下げた。
    「そう怒るなって。あの時は確かにやばかったけど、でも特例中の特例だろ? 応援してくれるファンを一人一人疑ってかかるわけにはいかねぇよ」
     目くじらを立てる私を気にも留めず、ロナルドくんはまた手元の花束へ視線を落とした。花を慈しむ趣味なんていつから出来たのか、嬉しそうに目を細める姿は儚げで美しく、そして形容しがたいほど腹ただしい。
     この男は何も知らないが、彼の言う『特例』は今回に限ったことではない。過去にも何度か世間で言うところの『やばいやつ』がロナルドくんに接触しようとしてきたことはある。なにせ私は三十年近く彼と共に暮らしているのだ。誰よりも彼の危機を敏感に察知できる場所にいる。何か異変を感じ取る度に、フクマさんや半田くん、お祖父様の力までも借りてそいつらを退けることに成功してきた。ロナルドくんに敢えてその事実を伝えてこなかったのは、彼の目が曇ることを恐れたからだ。純粋に人助けをしたいという彼の志を守りたかった。我ながら健気だったと思う。
     だが結果として、彼はああいった人間を見ても物怖じないことを知った。私の今までの努力は徒労だったわけだ。間抜けな話である。とはいえ、心配事が尽きないのは変わらないわけで。
    「君のその危なっかしさ、いい加減どうにかならないのかね?」
     皮肉混じりにわざとらしく肩を落としてみせても、ロナルドくんはカラカラと笑うだけで悪怯れる様子もない。
    「俺はこれで良いんだよ」
     なんて軽々しく言ってのける始末だ。全く手に負えない。
    「良くないわアホ。誰が苦労すると思ってるんだ」
     言いながらこめかみがぴくりと引き攣ってしまった。一発ぶん殴ってやりたいところだが、反作用で私が死ぬだけなので可能な限り鋭く睨みつけてやる。彼は怯むどころかこれまた楽しそうに白い歯を見せた。
    「まぁ一番迷惑をかけるのはお前だろうな。……でもだからこそ、俺はこれで良いんだよ」
    「はぁ? 何を訳のわからないことを……」
    「だって、お前が守ってくれるんだろ?」
     さも当たり前のようにそう言って、彼はふわりと柔らかく笑った。胸元に抱え込んだ花束が余計に顔面の美しさを際立たせていて、私は茫然と口を開けたまま固まった。
    「……それ……本気で言ってるの?」
    「ん? 当たり前だろ?」
     疑い深く半眼のまま蒼い瞳を覗き込んでみても、曇りのない視線に変わりはなかった。昔の彼なら今頃顔を真っ赤にしているはずなのに、これっぽっちも照れていない。どうやら彼は大真面目に言っているらしい。
     私は彼の不器用さを知っている。昔の彼なら守ってもらうなんて発想は絶対に出来なかった。独りで全てを抱え込む難儀な性格に、幾度となく苛ついてきたのだから間違いない。それが今はどうしたことか、こちらが驚くほどあっさりと私を頼ろうとしている。そういえば明日は彼の誕生日だ。人間はいくつになっても成長し続ける生き物らしい。
     かつては自分の力だけで全てを片付けようとしていた人間が、漸く私に寄りかかることを覚えたのだ。こんなにめでたいことはない。にも関わらず素直に喜べないのは、きっと彼が自分を大切にしていないという点において然程変わりがないからだ。
     喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、この感情をなんと表現していいか分からず、目頭を押さえながら私は天を仰いだ。ここまで絆されてしまっては無駄な抵抗な気もするが、やはり何か苦言を呈さなければ気が済まなかった。
    「君さぁ……天然誑しだとは思っていたけど、まさかこの私まで誑し込むつもりかね」
     どうにかこうにか捻り出した文句は、我ながら意味不明で、負け惜しみのようだと思った。だが何故かロナルドくんは瞬きを繰り返した。自覚がないのかと目を見張れば、彼は予想外の言葉を口にした。
    「……何言ってんだ? そんなの今更必要ねぇし……お前はもうとっくに手遅れだろ?」
    「…………はぁ!?」
     今度は私が目を丸くする番だった。あまりのことに言葉が上手く出てこなかった。こちらが目を吊り上げる一方で、ロナルドくんは悠長に背伸びをした。
    「それより明日の飯は何? また今年もケーキ作ってくれんの?」
    「ちょっ、ちょっと待て! 今のは聞き捨てならんぞ!」
    「え……」
     めげずに食い下がると、やっと私の方を見たロナルドくんは途端に肩を丸めた。何を勘違いしたのか「ケーキねぇの?」と弱々しく呟くものだから、私は行き場のない怒りを持て余して震える他なかった。やめろ、と脳内で警鐘が鳴り響く。その潤んだ目でこっちを見るな!
    「〜〜〜ッ、あるに決まってるだろ! 馬鹿デカいのを作ってやるさ!」
    「よっしゃあ!」
     やけくそ気味に吐き捨てると、目の前の男はまるで子供のようにガッツポーズをした。
     そうじゃない、そうじゃないのに。最早話を戻すのも億劫で溜息しか出てこない。本人を目の前にして「手遅れ」なんて言える図太さは一体誰から学んだのか。考えなくても分かってしまう自分が嫌で思考を止めた。
    「今分かったぞ! 君は全然天然なんかじゃない。この期に及んで私を誑かそうとする、悪魔みたいな男だ!」
    「ひっでぇ言い方だなぁ。あ、でもそれなら吸血鬼のお前とお似合いなんじゃねーの?」
    「うぐッ……! あのね、言っておくけど先に君を射止めたのは私の方なんだからな! 自惚れるなよ!」
     こちらが憤慨すると、ロナルドくんは何を思ったのか、ふむと自分の顎に手を当てた。流し目で私の方をちらりと見遣り、可笑しそうに喉を鳴らす。その余裕たっぷりの動作すらも鏡を見ているようで、私は羞恥に耐えきれず下唇を噛んだ。
     まさか私を煽るためにわざとやっているのか。だとしたらこいつは天然なんて生優しいものじゃない。もっと狡猾で、計算高い。身に覚えのあるそれに、漸く私は理解した。
     これは私が三十年間教え込んだ愛情そのものだ。
     自分が念入りに仕込んだ罠に嵌まるなんて、誰が想像できただろう。逃げ道は私がこの手で念入りに塞いできた。今更逃れることなんて出来やしない。ロナルドくんが言い放った『手遅れ』とは言い得て妙だ。彼はもう全部知ってしまっている。どうすれば私に愛され、どうすれば私を射止められるかを。
     慈悲深く今日まで延命されてきた私は、ついにトドメの一発を食らうのだ。とびっきりの笑顔を武器に、見えない銃口を突き付けられて。
    「自惚れさせたのはお前なのに。不憫なやつ」
     引き金が引かれるその瞬間、私は彼の耳が真っ赤に染まっていることに気がついたのだ。
     


    【完】


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    ざくろ

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    *お誕生日要素は薄いですゴメンナサイ
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    *此方の作品を再録した新刊を10月に発行予定です🌠準備号としてもお楽しみください(再録本には書き下ろしも入ります)
    天然誑しの退治人 ロナルドくんは天然誑しだ。これは私の思い込みなんかではなく純然たる事実である。
     彼の周りには彼と出会ったことで人生を変えられた人間があまりに多い。最早ストーカーの域を越えてしまっている半田くんや、お近づきになるためにオータムに就職したサンズ女史は言わずもがな。あのフクマさんでさえも、ロナルドくんのブログに強烈に惹かれて今に至るというのだから恐れ入る。聞く所によると腕の人ことサテツさんも退治人を志したきっかけはロナルドくんだったらしい。人のみならず無機質のメビヤツまでも虜にしてしまったのだから、彼の誑しぶりは最早プロ級である。一体どこまでやれば気が済むのかと、こちらがいくら注意したところで意味はない。彼の人を惹き込む言動は全て無自覚であり、直そうにも直せない癖のようなものだからだ。まさに天然たる所以でもある。悪い虫がつかないように目を光らせなければならない私の身にもなってほしい。
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