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    waremokou_2

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    ッッッどーーーーーしても書きたかった烏丸さんのはなし
    マフィアパロ

     烏丸邸

     ここ最近の烏丸組は少し騒がしい。と、言うのもつい先日烏丸組の筆頭が死に、後継ぎの筆頭就任式が終わったところだったからだ。新しく頭に命じられた烏丸家の直系男児である左京という男は今まで前筆頭にいたく気に入られていたどころか、烏丸の仕える露草の筆頭にまで可愛がられていたのだから、この男が筆頭になることはまず目に見えていた。が、しかし。左京というのはどうにもやくざに向いていないように見えるのだ。いつもニコニコと温和な笑みを浮かべており、物腰が柔らかく、主張しない。これでほかの組に甘く見られてしまえば烏丸が築いてきた面子は丸つぶれになりかねない。烏丸の古株は左京の一挙一動に目を見張らせていた。まだ若い男だ、極道の何たるかも、社会の何たるかもわからないような若い男。そんな男に好き勝手されるわけにはいかなかった。だからここ最近の烏丸組は、まるで息も止まりそうな緊張がありとあらゆる場所でぴりぴりと火花をあげていた。
     そんな中、いよいよ古株たちが集会を開くまでの事態になってしまった。漆黒に染められた羽織が並ぶ大広間は荘厳で、胃がつぶれそうな緊張感がある。若い付き人はその場に座っているだけで顔を真っ青にし、潰されそうな胃をこっそりと擦る。
    「――これはこれは、皆さまお揃いで」
     襖が静かに開く。烏丸左京が顔を出すと古株たちはいっせいに額を畳に擦り付けた。一糸乱れぬ軍のようなその規律に、しかし烏丸が驚くことなどない。
    「顔をあげてくださいな。それより遅れて申し訳ない。少しこちらで用事がありまして」
     烏丸が部屋の最も奥へと着席した。この男は歩くとき全く音が鳴らないのだ。まるで空でも飛んでいるように。畳が擦れる音も、布擦れの音さえならない。まだ青点の羽織――若い烏には黒一色ではなく、そこに青い紋を入れる。これは烏丸家の中でも若いという印であり、青点というのはつまり未熟の証でもあった。その紋入りの羽織で上座に座る烏丸左京という男はそれだけ、古株にとっては疑わしい存在だったのだ――も脱げないくせに、烏丸左京はあまりにも謎が多すぎた。
    「我々はその〝ご用事〟の話がしたいのですがね」
     最も古い烏丸の爺が、重々しく口を開いた。切られた啖呵に、若い衆はただ震えて顔をあげることさえかなわない。この爺の烏が、若い頭をこの場で切り伏せてもおかしくなかった。皆が古参の考えに賛同するのならばここまで怯える事もなかったかもしれない。問題は、食えない左京にもまた、賛同する者が少なからずいる、ということだ。左京の父・前筆頭によくしてもらった恩義があるもの、左京の思想や振る舞いに賛同する者。今この場は確かに古参派閥が多く占めているものの、左京派閥の人間もいくらかいる。そうなれば、左京派閥と古参の討ち合いになることは必然。新筆頭の着任早々生まれた物騒な空気は今、最高潮に達しようとしていた。
    「ええ、そうですね。私も皆様にお話しせねばと思っていたんですよ」
     つむぎさん、と左京が笑いかけると、彼の側に侍る女――佐々木が小さく頷き静かに戸を開けた。――三ッ蝶の紋に、白の羽織。そして烏丸家の中でも背の張る佐々木をはるかに超える巨漢が、じ、っとその虎の目を見張り獲物の小鳥を見定めているではないか。
    「――三毛縞の坊」
    「清虎さんです」
    「何を考えている」
     どうぞ、と手招く烏丸左京に、男はゆっくりと古参たちの前を歩いた。まるで獲物を狙う虎だ、腹を空かせ、今すぐにでも鳥の頸椎をへし折り肉を食いちぎらん、餓えた獣。そうして上座まで行くと、あろうことかその虎は烏丸の後ろへどっしりと腰を下ろし、さらには足を崩しごろりと寝転がった。その一瞬で、この部屋の中はたちまち殺気づく。もはや、次瞬きした瞬間誰が死んでもおかしくないほどに。
    「――何を、というのは?」
     烏丸はそんな三毛縞に顔を顰めるどころか〝まだ傷が癒えてないのです〟と笑うだけだ。不思議そうに古参の爺烏を見つめた瞬間が、もはやこの細い糸の上に乗った平穏が崩れ落ちた瞬間だった。
    「一体何を考えているのだと聞いているんだ、若造!」
     屋敷が震えるほどの怒号とともに、立ち上がった爺の烏に壮年の烏までびくりと肩を震わせる。ましてや付き人の青点など、もう気絶してしまえればどれほど幸せだろうと、恐怖にこみ上げる胃液を必死で飲みこんだ。
    「それがそんじょそこらに転がっとる子猫じゃないことくらいわかっとろうが」
     今にも左京に掴みかかりそうな老烏に、佐々木は僅か左京の前に出ようとする。しかしそれは黒羽織が静かに制した。そうなればもう、彼女は大人しく彼の後ろに座ることしかできない。だが問題はなかった、もしこの状態で爺烏が烏丸に飛び掛かったとしても、それが左京の目を啄むより先に彼女は爺烏の首をねじ切れた。それに左京がいらぬというのならば、彼女にはそれ以上の心配は必要ない。烏丸左京の判断を疑うことは、彼女の中には存在しなかった。大声で怒鳴る爺が一人、震える大人たち、そしてやはりニッコリと少女のような笑みを浮かべる烏丸左京の異様な空気の中でも、三毛縞はぐ、っと伸びをし、あくびを一つ落とす。こんな厄介な家族問題に巻き込まれるのは御免だったが、匿ってもらっている以上烏丸左京の面子は守りたい。
     ――そう、三毛縞がただの野良猫だったならば、佐々木同様毛色の違う部下というだけで済んだ。問題は三毛縞の置かれている状況である。爺どもが一斉に烏丸左京の能力を疑うことになったのも、三毛縞組との厄介な火種を何のためらいもなく持ち込んだからだ。そも、この清虎という男はすでに、三毛縞家とその傘下である禅門との間で揉めに揉めた厄介な存在である。すでにあちらは和解済ではあるものの、未だその灰の中で火種はくすぶり続けている。またいつ轟々と燃えはじめてもおかしくない。そんな三毛縞組の清虎が、組を抜け出しあろうことか烏丸左京に拾われたという。無条件に匿ってやり、傷を癒し、飯を与える左京の判断には、古参も、そして左京派閥も大いに反対だった。禅門とならまだしも、その何十倍も厄介な三毛縞、禅門、一織すべてと交戦するには、烏丸だけの問題では済まされそうにない。露草組や、傘下をともにする古谷家や秋月家も巻き込むことになる。比較、温厚な露草の人間とは違い、三毛縞の組は非常に血生臭い一面がある。だからこそ、蜘蛛の糸さながらの脆く、危うい不可侵条約を何代にもわたり守ってきたというのに、左京はその糸をあっけなく払ってしまった。
    「これはお頭一人の問題じゃあない。それくらいわかってるでしょう」
     爺烏は努めて冷静にそう零した。堪えた怒りで彼の両拳はぶるぶると打ち震えていたが、それでも筆頭に対する忠義として、彼は若造である左京に対し、そう言った。烏丸左京はちらりと爺の顔を見上げた。幼い頃、青空のような目に見上げられながら、慣れぬ子供の相手をしたことを爺は思い出した。今ではもう、夜の海さえ思うような深く暗い青になってしまったその瞳を、爺にはまるで別人のようにさえ見た。
    「――つむぎさん」
     左京はニコリと笑って、佐々木を呼んだ。承知、と小さく返事をすると、彼女はすっくと立ちあがりそして――まるで風が通り過ぎたような、一瞬の出来事だった。一八五センチ・八三キログラムの巨体から放たれた拳の一撃は、爺の側で左京を睨みつけ、立ち上がる佐々木と爺の前に飛び出す古参の一人の鳩尾あたりにめり込むと、確実に肋骨を砕き肺の中央四割を破壊した。白目を剥いて仰け反った男は、そのままバタリと畳に倒れこむ。畳の目を掻き蹴り、のた打ち回りながらむせ返るたびに血反吐を吐き散らす。男は今、つぶれた肺に溜まった自らの血で、畳の上でじわりじわりと溺れ死んでいく自らに抗っている。一斉に、皆が立ち上がりいったいこれは何事かと、戦き死にゆく幹部の一人を見つめることしかできなかった。
    「な、なにを……」
     へたりこむ爺の前に、立ち上がった烏丸左京は畳に散った血を指さし、菩薩のような笑みで爺を見下ろした。びくびくと打ち上げられた魚のようにのたうっていた男はもう、ゆっくりと動かなくなっていった。つん、と鼻を刺すアンモニアの異臭に、三毛縞は退屈そうに眉を顰める。
    「これは、黒色である」
     烏丸左京ははっきりとそう言った。
    「これは、何色か」
     烏丸はにこりと笑い、怯え逃げる烏どもに問うた。
    「――く、黒色です」
     若い衆の一人が、今にも吐き戻しそうな酷い顔色で、震えた声でそう答えた。
    「よろしい。では、あの男は、烏である」
     烏丸は、寝転がった三毛縞を指して言った。青と黒の瞳が一斉に、三毛縞に向けられる。退屈そうに欠伸を落としながら、冗談めかし手を振ってみせる三毛縞に皆がごくりと唾をのむ。
    「――あの男は、猫か?」
     烏どもはいっせいに、首を垂れ左京の言葉に否と鳴く。三毛縞はまるで軍さながらの統率に、にゃははと気楽に笑って起き上った。左京にはそれでよかった。再び元の座に腰かけると、畳を張り替えないといけませんね、と少し困ったように微笑み、ついでに縁も、気分を変えて新しいものに変えるのはどうでしょう、と佐々木に振り返る。では手配しておきます、と彼女もまた、烏丸の後ろへ控えた。ただ、三人の男が未だ、この部屋で立ち尽くしている。恐怖で汗を滴らせ、青い顔で、今にも死んでしまいそうな表情で。
    「こ、こんな事、許されるはずがない……」
     露草組に報告させてもらう、あそこの頭がこの暴挙を許すはずがない。震えた声でそう呟きながら、とうとう、内へ忍ばせていた長物を取り出した。誰もが、ただ只管額を畳に擦り付け目をきつくつむり、自分はこの場で物言わぬ石になってしまえと強く祈った。
    「――許されるはずがない、ですか」
    「そうだ、許されるはずがないだろう! これは暴挙だ!」
     そうだ、そうだと三羽が大声で鳴き喚く。かちかちと、刃を持つ手が震える音が切れそうな静寂にけたたましく響いている。
    「――なぜ、許されねばならないのです」
     しかし、答えた左京の声にもはやこの場にいる烏は皆一斉に息さえ奪われた。それは烏丸左京から聞いたこともないほどに冷たく、恐ろしい声色であった。
    「な、なに、」
    「許し、というのは、身分の低い者が身分の高い者に請い、それを認められることで許されるのでしょう」
     なぜ私が、お前に〝許される〟必要があるのです? どさり、と三話の烏が崩れ落ちた音が響く。
    「私は許せ、と言っているのでも、お願いをしているのでもないんですが……」
     尻を突き、震える男に烏丸は可笑しそうにくすくす笑う。
    「さて…… つむぎさん、彼らは――」
     ――烏ですか? 左京の言葉に、彼女が立ち上がる。息をのみ消え入ろうと身を小さくする烏たちの前で、三毛縞が〝こわいねえ〟と呑気に笑う。啖呵を切った男を掴んだ瞬間、側に侍っていた男が一人、転がるように逃げ出した。あと一寸で襖に手が届いた――が、それまでだった。烏丸が投げた長物は、確実に男の喉を一直線に貫いている。床のラインと美しく平行になげられた刃を、喉にぶら下げたまま男が崩折れる。伸し掛かられた烏はひいと悲鳴を上げて飛びのいた。佐々木はその間に男の首をひとつへし折り、二人目の男を掴み上げた。命乞いする男にも、烏丸はにこりとほほ笑み佐々木に頷く。
    「清虎さん、我々烏丸はあなたを歓迎します」
    「ハハ、アンタ、俺をダシにしたんだな?」
    「おや、人聞きの悪い。まあこちらの問題も同時に解決しただけですよ」
     ゴキン、と脊椎の外れる音に、烏たちはびくりとまた小さく震える。三毛縞はもう物言わぬ烏が床に落ちていくのを見てまたにゃははと笑い、差し伸べられた手を取った。アンタ気に入ったぜ、と手を握る三毛縞に、左京は嬉しそうにその嵩高い男の肩をぽんぽんと叩く。
    「世話ンなるんだ、あのお嬢ちゃん同様好き勝手使ってくれや」
    「おや、それは楽しみですね。これから少し忙しくなりそうなんですよ」
     言うじゃねえの。なんておどけてみせても、いずれ来る道ですよと笑う烏丸左京は三毛縞から見ても狂っている、というに相応しかった。三毛縞は烏丸の反乱分子を排除するためのみならず、三毛縞家や禅門、一織さえまとめて潰すために利用されたのだ。同い年だというこの少女然とした男に、三毛縞はとうとう腹の底から大いに笑った。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
    2725

    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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