吸血鬼になりたい 年寄りは脇の下が甘くなる、とロナルドは思った。すぐ人の懐に入って、飽きたらすぐ居なくなる。ドラルクなんてそんなもんだと思っていたから、もう何年も一緒にいるのが不思議でならない。しかも、どうも、ロナルドの懐に入るだけじゃなくロナルドはドラルクの懐にも入っているらしいと最近気付いた。もしかしたら、ジョンとは比べ物にならないだろうけど、家族みたいな、そういうものに匹敵するくらいは、自分はドラルクの、吸血鬼にとって大事なものになってしまったみたいだ。
嗚呼、いっしょに、いてほしいといったのは、おれなのに。
かみさま、どうして俺は人間で、どうしてアイツは吸血鬼なんでしょう。
どうして俺は退治人で、どうしてあいつをいつ何時置いていくかもわからない。
かみさま。
神なんていない。
神様の形をした生き物は、多分吸血鬼と呼ばれるもので、俺にとってきっとそれはドラルクで、嗚呼、俺のかみさま、俺のドラルク、お前をいつ残して逝くかもしれないだなんて、冗談が過ぎる。
一緒にいて欲しいと言ったのは俺なのに。
「なあ、ドラルクの親父さん、人間ってどうやったら吸血鬼になれんのかな」
「決まってるだろう。吸血鬼が人間を吸血鬼にしようと決めて牙を立て、血を吸い、」
「あー退治人だからそういうのは知ってんだけど、そうじゃなくて」
ドラウスが首を傾げる。
「そうじゃない?」
「方法じゃなくて。どうせなるならドラ公に吸血鬼にして欲しいと思ったんだけど、どうやったらアイツ、その気になるかなって」
へへ、とロナルドが笑う。たしかに、ドラルクの許可なくロナルドを吸血鬼にすることはドラルクの怒りを買うだろう。しかし。
「頼めばすぐにでもしてくれると思うが」
「ハァー? どの面下げて頼むんだよ」
「想いあっているのだろうお前達は。今更だ」
ハァーとドラウスもため息を吐く。
「頼んでみなさい。頼みづらかったら私から頼んでも良い」
「いやそれは親父さんに悪いだろ、いいよ、」
慌ててロナルドが止める。
「全く。ポールくん、君はもはや私の息子と言っても過言ではないのだから、素直に甘えられるようになりなさい」
「へっ」
息子、と言われてロナルドがじわじわ頬を緩ませて、ふにゃふにゃと笑う。
「あ、ありがとよ。親父さん」
「礼もいい」
気が済むまでドラウスはロナルドに説教をして、ロナルドはその度にふにゃふにゃ笑って聞いていた。