タイトル考え中 最初から両想いであるとは解っていても、それでも、この未熟な恋を成就させるべきではないと、ワタルは判断していた。
ヒビキがどれだけ真剣に考えて好きだと伝えてくるのだとしても、それがまだ若くて未熟な精神であるが故の気の迷いであったとしたら、ワタルは到底立ち直る自信がなかったのだ。
「ワタルさん、僕、貴方のことが大好きなんですよ。」
「ありがとう。俺も、ヒビキくんの元気なところが好きだよ。」
煙に巻くようにして「親愛」の感情を乗せ、何度も伝えてくれているヒビキの「恋情」に答えを返す。
その答えは真であり、嘘でもあった。
ワタルの「恋情」は醜く、ドロドロと嫉妬深く、独占欲に塗れている。その醜く重苦しい感情と同じ温度では、到底ヒビキを幸せにはできないと、ワタルはそう判断していた。幸い、自制心には自信があった。だから、自分の中の恋情を心の奥深くに堰き止めていた。
しかし、もう、その恋情は、心の中で堰き止めておけないほどに膨れ上がってしまった。
それは、嫉妬と独占欲が故に。
「ワタルさん、どうしたんですか?」
あんなことがあった後だというのに、ヒビキはいつもと変わらぬ様子で微笑んでいる。そのせいで「ヒビキがこういった事態に慣れている」ことが分かってしまい、余計に、心の中の醜い恋情が膨れ上がる。
ヒビキが、怪しい男に襲われそうになっていた。
山の中、偶然通りがかったワタルが思わず険しい声で呼び止めると、男はワタルがカイリューを連れているのを見ると、慌ててその場から立ち去っていった。ヒビキと、連れ歩いていたバクフーンは、痺れ粉をくらっていたらしく、ヒビキに至っては身動きができない状態だった。
慌てて常備していた薬を飲ませ、ワタルの自宅まで連れて帰ったのが、3時間ほど前の事。
ワタルの自宅で休養して、ようやく痺れが取れてきたヒビキは、まずボールの中で休んでいるバクフーンに礼を言い、そして、何があったのかを話した。
端的に言えば、不意打ちをくらったのだ。
山の中、バクフーンと歩いていたところに、突如として男が痺れ粉を浴びせてきたという。ポケモンに指示したというよりは、あらかじめポケモンから採取した粉を浴びせたようなものだったのだろう。そう言えば、男は首にスカーフを巻いていた、とワタルは更に険しい顔になる。