遅刻バレンタインワタイエチョコレート食べたい。
今食ってるものはなんだ言ってみろ。と目の前の男に指で額を弾かれた。痛い。でもそんなじゃれ合いでさえ彼が手加減してるのは、ボクはとうにわかっている。
それからワタルはこちらに一瞥もくれないで、ヒデノリおじさんから貰ったみかんを食べている。大雑把に皮をめくって、白い筋を一つも取らないで食べちゃう。ボクはあの白い筋を限界まで取って食べるのが好き。
「ワタルおみかん好きだね」
「まあな」
デコピンされたおでこから弾かれた感覚を忘れた後。
テーブルの上に置いてある既製品の板チョコを口に入れて、さっきまでチョコレート会社の策略を表していたテレビを見る。テレビはCMを終えて、ボクとワタルが見るものがない時お決まりで見ているお昼番組を映した。最近オープンしたばかりの百貨店の宣伝をしている。にこにこと女性アナウンサーが、マイク片手に洋菓子の店長さんと思しき女性と会話をしていた。
1988