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    sntkit

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    sntkit

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    読み切りwebオンリーありがとうございました、楽しかったです!

    一応前日譚となっているやつ
    「天使様のゆうことにゃ」
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16930806

    愚か者に花束を! 長く生きたものは変化を恐れる。
     
     そんな言葉があるけれどさ、この言葉って多分人間みたいな命の短い生き物の、しかも感性が固定された歳の考えを示した言葉だよね。
     だって期限ある短い命なら、誰だって好きなものに囲まれながら安穏と過ごせるのであればそれ以上の幸福ってないでしょう?そこに変化なんていらないし、自分なりの苦労と幸運の末手に入れた場所であるなら余計手放したくないし、もっといいものがあるよなんて他の連中に言われても、本当に今自分が持っているものよりも優れたものがあった時なんか幸福だった過去の自分がみじめになるかもしれないもの。
     吸血鬼なんかはほら、長く生きすぎてしまった結果「刺激が欲しい」なんて言い出してちょっとした不良行為をはたらく輩はいっぱいいる。高等殺しなんかはさすがに表立っていないけれど下等共を陰惨な方法でからかって遊んだり、折角の人間を無駄遣いしたりとか……ああ、メインはこの話じゃないのに脱線してしまったね。嫌だな。冗長な語りとか前口上とか、そういう古臭い吸血鬼らしさっていうのは最近じゃちょっと違う事してる自分カッコいいとか思ってるやつらしかやらなくなったじゃないか。そっちと並べられるくらいならまだ彼に似てきたとか言われる方がまし。
     彼って誰って?ああそうそうそっちだよ。私が話したかったのは他でもない。

     変化が嫌いな吸血鬼の根城を、一瞬でスポットライトの当たる舞台へと変えてしまった一人の退治人についてだ。

    愚か者に花束を!
     彼に初めて会った時の衝撃を今でもはっきり覚えている。なんてったってとっても強い力で押し開かれたドアにばあんと挟まった衝撃だ。中々忘れる事なんて出来ないさ。
     なんて冗談、冗談。あ、ドアに挟まれたのは本当。だけど彼ったら当然そんなくらいで終わる人間じゃなくってさ、退治する前に死んでしまった吸血鬼と、そんな吸血鬼を退治しに来た歴戦の退治人の戦いが今まさに始まるかもしれないっていう時に仕切り直しもせずにこちらの話に付き合ってくれるんだ。いや、彼が職務にだけ忠実な退治人じゃなくって本当に良かったよね、だって私が彼の前で何回死んだことか!多分普通の退治人だったら、あの邂逅はさっさとその塵ごと海や川に流されてつまらない幕引きを迎えてただろう。その場合発生する後の面倒事とか考えたくないけど、うちの血族のこととか。
     そうして私のゲームデータが死んだり私が彼の血を飲んだり、朝日を浴びてうっかり死んだりして彼が帰ってしまった後、風の噂で人気シリーズ作品の最新作が発売延期になったって聞いたんだ。ちょっと調べればすぐにそれが彼の作品だって分かってさ、ジョンに彼がどんなに強烈な人間だったかって話すためにも全巻買ってしまったよね。
     人間にとってはバトルアクションに分類されるだろうそれはバトルシーンを派手だと感じるくらいのゴアに分類される作品に仕立てられており、作中の彼が対峙する数々の吸血鬼はちょっと今の時代血族がこれやってたらたしなめるか関係を見直すくらいには酷い悪事を畏怖たっぷりに行っている。なるほど自分もこんな風に書かれたら非常に気持ちいいだろう。しっかり手ひどく人間に殺される姿まで書かれている部分も含めて暴力や流血表現の有る大人向け道徳みたいな側面もあるかもしれない。自身の強さによほどの自信がある者や悪役願望がある者、格好よく死にたい者には逆効果だが、人間社会に生きる善良な吸血鬼や、過去の経験から人間と距離を置きたいタイプには戒めという意味で効果的なんじゃないかな。まあこの作品の裏で実際九百九十九の吸血鬼が死んでいるらしいけど。
     彼の作家としての能力もあってかなるほど人間吸血鬼どちらが読んでも不快になりすぎる事のない作品は、一見格好つけのような文体のくせぐんと読者を物語の傍まで連れ込む。その読みやすさにどんどんページをめくっていると、ある途中のページから「ロナルド様」の腕が突然伸びてきて彼が主役な舞台の観客席、しかもその最前列にエスコートされるような感覚。そうして一巻分きっちり幕を引いた彼の演目で灯る熱狂はいともたやすく読者の手を次の巻に連れていくのだ。
     娯楽への造詣が深い使い魔と共に最新刊までしっかり読み込んで、伸ばした手の先に続きが無いというのは中々がっかりする。これの続刊が発売延期だなんて、まさにその千体目の獲物が自分だったくせにすっかり読者になってしまっていた私がそんな事をジョンに愚痴を言うと、私の心優しく聡い使い魔は何かに気づいているかのようにヌシシと柔らかく笑った。

     それから当事者の私ですら理解が及ばないくらいの超展開で、どうしてか彼の物語のいちキャスト、もしかしたら準レギュラーくらいになって時折依頼に連れてかれるようになった私は、彼という人物がひとえに魅力的な展開を求めてスリルがありそうな場所に首を突っ込む狂人作家ではない事をすこしだけかいま見る。
     例えばそう、私と一緒に現場に赴いた彼が言う「いいネタ」は、原稿に向き合う彼にとって「扱いづらい」とか。完成した原稿を監督のような目線で追いかける彼の「及第点」は退治人として技術を磨く彼にとっては「まだ足りない」だとか。
     自分でネタを取ってきて、自分でそれを舞台のようにドラマチックに仕立てて監督して、そうしてまた新しいネタと向き合うための糧にする。彼にはまるで一人永久機関とも言える自己完結癖と飢えがあるのだと気づけたのは、相棒みたいな立場に納まって年単位の時間が流れた後だった。
     この吸血鬼に対して決して好意的とは言えない世の中で、私を連れて歩くその意味を誰よりも理解しているはずなのに人間の依頼人の所にも私を連れて行ってしまうし、吸血鬼の家をちょっとしたお宿か休憩所みたいに扱って気軽に寄って来てしまうし、この前なんて仕事帰りのはずなのにうちでお酒飲んで椅子座ったまま寝ようとしたんだよ。あの時はホットミルク飲ませて、掃除だけしていた客間を貸したんだっけ。
     世間一般には吸血鬼殺しの退治人ロナルド様を気取っているくせに、うかつなんじゃないかってくらい私を連れまわしていいように扱う。無謀者と言うには優しくて物事をよく理解しているし、自由そうなくせにその実物事を抱え込む悪癖がある。そんな彼に腹が立つかって言われたら多少はそうだけど、でもそれを超えるくらい彼と遊ぶ日は楽しくて、それこそ急に家に来ても歓待しちゃうし、急な呼び出しには文句を言いつつも応じちゃう。無茶苦茶な依頼の時とかは早く終われと思う時の方が多いけど、それこそ家で彼と遊んでるときなんかはこの時間が永遠に続けばいいなんて思ってしまうくらいには。子供っぽい?いやいや吸血鬼らしいって言って欲しいな。ああ、また随分と今回のロナ戦の裏話みたいになってしまったかね。
     そう、ロナルド君の物語は面白いだろう?君もここまで読んできたクチなら分かるだろうけど、ロナ戦は『千体目の戦いサウザンドウォー』から徐々に作風が変わっていくのが分かる。丁度、私が彼の依頼の先々に現れるちょっかいキャラとして少しづつ出始めるころから。話題性が足りない分、行き先で偶然会ったていの私を内容に入れる事でエピソードを濃くして些細な吸血鬼被害なんかも書けるようにしたんだろうね。あれ、実は大概前日とかに彼から業務連絡みたいな呼び出しの連絡が来てるんだよ。まったく、私が趣味に生きる吸血鬼な事を彼には感謝してほしいくらいだ。そうじゃなきゃ当日に駆けつけるだなんて出来やしないだろうから。
     いや、ニートじゃないよ、在宅ワーク在宅ワーク、ご職業は自営業です。あと、ロナルド君の相棒。なんちゃって。
     あれ、これ話ちゃんと繋がってるかなあ。いやね、私が言いたいのは、身を削る程仕事熱心で退治人も作家も超一流をキープし続けるある種不健全な彼が、少しづつ変化していくのが嬉しくて楽しいって事。そして、その変化が彼の文章にもしっかり表れていて、ただの私の自意識過剰じゃないんだってわかった事。
     最近の彼の舞台は、背景にちゃんと待っているものが居て、隣には相棒の気配があって、彼一人でキャストのすべてを回しきる必要が無い。彼は、敵と己ばかりの孤独な舞台にはきっともう、立たないで済むようになるよ。
     そうしたらきっと舞台監督の彼も、退治人としての彼だって変わらざるを得ない。だって自分が立っている足場が変わってしまうんだから。こんなうれしい変化、一読者としても喜ぶほかの選択肢ってないでしょう。
     彼が来たことで世間とゲームでしか繋がっていなかった吸血鬼が少し変わって、そんな吸血鬼と関わる事で彼の未来も少し変わる。これから先、何か困難な事が起こるかもしれないけどさ、今の変化があんまりにも些細なのに劇的で、過去も未来もどうだってよくなっちゃうよね。『前後を切断せよ、みだりに過去に執着するなかれ、いたずらに将来に望を属するなかれ、満身の力をこめて現在に働け』だっけ。今精一杯幸せに向かってるなら過去とか未来に意識を散らす事なんてない。きっとなるようになるなんて、ちょっといいように解釈しすぎかな?

     ああ、悠長に語っているうちにもう幕が降りてしまった。それじゃあ。
     
     え?私はどこに行くのかって?そんなの楽屋に決まってるじゃない。ちょっと彼の物語に招かれただけの君たちと、彼に招かれた私では当然たどり着く場所も違うよ。
     ああ、ここで出会ったよしみに楽しい事を教えてあげる。私はね、彼をこのまま、たとえ一人芝居じゃなくなった劇場だとしても、その支配者で居させる気は無いんだ。だってそんなのつまんないしフェアじゃないでしょ。私をこの席、なんなら舞台演出にまで引きずり出したのは彼なのに、彼だけは変わらない椅子に座ったままこちらを俯瞰しているなんて、ちょっとずるいよね。
     だから私も、彼を引きずり落としてやろうと思うんだ。
     舞台を俯瞰する神様から、舞台の外側、観客席からも立ち去ったロビーで、等身大に慌てふためく人間に。ああ、きっと愉快だろうね。監督も役者もすっかりかなぐり捨てた彼は一体どんな顔で、どんな温度をしているんだろう。もちろんそんな所まで君たちに見せる気はないけど。
     
     それじゃあ、誰ともつかない読者の誰か。
     次の巻も、私の退治人をご贔屓に頼むよ。
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    sntkit

    DONE読み切りwebオンリーありがとうございました、楽しかったです!

    一応前日譚となっているやつ
    「天使様のゆうことにゃ」
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16930806
     長く生きたものは変化を恐れる。
     
     そんな言葉があるけれどさ、この言葉って多分人間みたいな命の短い生き物の、しかも感性が固定された歳の考えを示した言葉だよね。
     だって期限ある短い命なら、誰だって好きなものに囲まれながら安穏と過ごせるのであればそれ以上の幸福ってないでしょう?そこに変化なんていらないし、自分なりの苦労と幸運の末手に入れた場所であるなら余計手放したくないし、もっといいものがあるよなんて他の連中に言われても、本当に今自分が持っているものよりも優れたものがあった時なんか幸福だった過去の自分がみじめになるかもしれないもの。
     吸血鬼なんかはほら、長く生きすぎてしまった結果「刺激が欲しい」なんて言い出してちょっとした不良行為をはたらく輩はいっぱいいる。高等殺しなんかはさすがに表立っていないけれど下等共を陰惨な方法でからかって遊んだり、折角の人間を無駄遣いしたりとか……ああ、メインはこの話じゃないのに脱線してしまったね。嫌だな。冗長な語りとか前口上とか、そういう古臭い吸血鬼らしさっていうのは最近じゃちょっと違う事してる自分カッコいいとか思ってるやつらしかやらなくなったじゃないか。そっちと並べられるくらいならまだ彼に似てきたとか言われる方がまし。
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