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    sntkit

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    sntkit

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    モチーフ交換、いわゆるABドラロナです。
    書きたくて書いたけどもわざわざこの衣装を着た理由の辺りがどうも引っかかって素直に公開するのもなとこちらに供養。
    記号は視点変換もしくは場面変換マークとしています。

    意匠を変えたこの夜に 間取りだけは知っている古びた豪邸、その門の内。屋敷の殆どを覆い隠してしまうような陰気な雑木はびこる暗闇で、ロナルドは静かな苛立ちを募らせていた。
     その身を包んでいるのは、彼の象徴の色では無い。
     持ち前の銀髪を覆い隠す、常よりつば広の黒帽子にはいつもの吸血鬼退治の象徴は無く、大きなコウモリの羽が一枚。白いワイシャツに紫の開襟ウエストコート、ご丁寧に銀糸で縁取られた襟は紫。黒くて体のサイズに合ったスラックスはよく伸縮する素材でどんな動きにも着いてくる。
     いつもピアスだけは鮮やかに、しかしそれ以外は銀と紫が控えめにあしらわれた黒装束。
     白手袋に包まれた指先で、ケープについた首元を覆う黒い襟巻を口元まで持ち上げて、退治人は一つ舌打ちを隠した。

     

     動きやすいのが腹立つ服、というのが存在するのだとロナルドはシンヨコの土地に散々思い知らされていると思っていたが、まさかその腹立たしさに上があるとは思っていなかった。
     やたら質のいい、けれど同居人の服の色ばかりにまみれたロナルドは、少しの苛立ちにを抑えて軽く地面を蹴ると、近場にあった広葉樹の又に捕まり屋敷の窓が見える位置まで登る。
     足元なんて少し前から同居人に、出版社のパーティー用にとプレゼントされて暫く履き慣らしていた黒の上等な革靴だ。
     あの時素直に年の功と感心した自分が情けなく思える。今からでも、それはそのクソ砂の悪ふざけとからかいと、楽しそうという思惑ひとつで組み立てられた馬鹿な計画に必要なピースで、多分一つとして良かれと思ってのものでは無いのだと全力で説得しに行きたい。
     潜入するにしても人間が容易に銃を持ち込むことが出来ないシーン、さすがに肩周りを邪魔するダブルのボタンが着いた仕立ての良いジャケットや、下手を打てば首を絞めかねない幅広の黒と紫に銀刺繍の入った高そうなネクタイは拒んできたが、代わりに袖周りの白を隠す短いマントをゴリ押しされて流されてしまったのは、正しい判断だったのかは分からない。ただ、ここが普段の衣装では到底潜り込めない場所であるのは確かだ。普段の赤い服では招待客の使用人に紛れて敷地を出入りする事も出来なかっただろう。
     一つだけ、帽子の飾りをそのままブローチに仕立てた飾りに触れて、紫色に染められた趣味の悪い手斧を握る。
     タイミングはドラルクが標的を上手く釣り出した後。
     ガラスから遠目に見える会場の中、交流と顔合わせを目的としているパーティーは何の滞りもなく回ってゆく。
     そんな中で腹立たしい事に、今日のアイツはとても目立つので初動から一目で把握出来た。
     事前に目星をつけておいた木々に静かに移りながら、今日のターゲットが事をなす部屋を特定するために館の外から追いかける。
     月の光も木々のざわめきも、一つとして移動の邪魔をすることが無い暗闇の中、息を潜めて二つの影を追跡していると、ようやく部屋の中に入るのが見えた。
     
     窓際で翻る赤い裾を追うように、銀の退治人は音もなくその真上の屋根へ降り立つ。

     ◇◇◇◇

     さて、このあからさまな罠に付き合うのはいいが、案内人の話が下手くそなのはどうにかならないもんか。

     トン、と少し強めに靴の底を叩きつけると、使用人の真似事をしてこちらを連れ出している男がちらりとこちらに視線を向ける。
     作った顔を貼り付ける事すら出来ない企みをちらつかせる不細工な笑顔は、無表情よりも無作法だ。

    「竜の御令孫には、退屈でしたかな」
    「いえ、今のは私ののためですよ。その辺はとうに皆さんの知るところと思っていましたが」
    「ああ、カーペットの手入れがなっておりませんでしたな」
    「まあ、館には主人に見合った格があるのは知っておりますので」

     笑顔を交わして話を打ち切る。この程度に乗ってこないどころか会話を自分のフィールドに持ち込む事すら出来んのかこのジジイ。だいたい竜の一族の名前はそりゃあ大きいだろうがそもそも見合いできそうかどうか測ることが目的の顔合わせの場で親飛び越えて祖父の名前を出している時点で三流丸出しである。お父様だって大層力ある器用貧乏なのだから、この程度の相手に軽視されるいわれは無い。どうしてもそっちに絡めたいなら竜子公、礼節を尽くそうとするならば白銀の狼と名高いお父上くらいは言っておくべきだろう。
     こっちの皮肉が気に触ったのか、耳にひっかかる布を握りしめる音すら小物臭くてかなわん。
     いつもよりも意識して高位の振る舞いをしていると、今日の自慢の衣装を見るために視線を下げることも出来ないのが少々不便だ。いつもより軽い布でできているケープの浮きを止める金細工の鎖が布に軽く擦れる音を聞く。
     そう、今日の私はとっておき、いつもの高等吸血鬼らしい高貴でクラシックな服装ではなく、私の退治人に色を合わせた華やかでゴシックな出で立ちである。
     普段のマントも暖かくていいが、少しトレンチコートにも似たこの仕立ては風通しが良くて動きやすい。足捌きまではっきり見えてしまうから気の抜いた仕草はできないが、その程度この私にはなんの負担にもならないので着こなしやすい服だ。
     あれ、もしかしてさっきのはこの服が御祖父様のマントの色だと思われたから言われたのか?だとしたらとんだ見当違いの深読み野郎である。あの御祖父様だぞ、御父様の顔を立てたくらいでこんな小物になんかしてくるわけあるか。
      そんな事を考えながらもうしばらく歩いたところで、今日の会場から程々に遠い二階の小部屋へと通される。正面に見える開放的で大きな窓は大変都合が良くてよろしい。
     最近、大きな館もちの吸血鬼だと夜はカーテンを開け放つのが流行りだそうだが、平和でいい事だ。
     この私にぜひ相談したい事がある。そういう名目で連れ出されたにしてはテーブルどころか椅子の一脚も無いセッティングは、この男が何者か知っていればどんな目的があるか丸わかりのずさんな内装だ。
     捕まえやすく殺せそうな程度の実力しかないと見積った高等吸血鬼を狙い、その血肉や灰を食らうことで能力の底上げを測る、このご時世に珍しい屍喰らいの高等殺しである。
     恐らく大窓ははめ殺し、一つしかない出入口は脱出を阻止するための細工くらいはされていそうだ。そうして私をサクッと殺してお手軽に竜の血肉を手に入れようって算段だろう。
     警戒されない程度に内装へ言及しながらゆっくりと窓際に歩み寄る。窓の外のいくつかの木の中、もしくはとうに屋根の上、こういう時ばかりはひとつの綻びなく堅実に任務をこなすあの五歳児は、今どこに居てこの部屋を監視しているのか。そういうののプロでは無いから夜に明るい視界でも彼を見つけることは出来ないが、ここにたどり着いていないということは無い。
     窓を背に、さてそろそろ時間だろうか。
     振り返って告げる。

    「さて、この私に相談とはお目が高い。内容をお聞きしましょうか」

     □□□□

     きょうのわたしは、とてもうんがいい。
     そう、思って当然だろう。
     かつては古き血に近かったという落ちぶれた吸血鬼に血を分けられた、その程度の男が開く社交パーティー。今までだって頭の軽い若いバカどもがノコノコと餌になりに来る程度のその場所に、よりによってかの一族で最も弱き竜の子がやって来たのだから。
     大きな窓に広い部屋、一見すぐに逃げ出せそうなこの一室は小さな障害物が多く、窓は高価なはめ殺しのものとなっていて、下手な能力では割れない。
     目の前の変にかぶいた色合いの、吸血鬼らしくない服装をした男は服の飾りとは別の鈍い金属の匂いがする。護身用に何か携帯しているのだろうが、この密室、そしてその体質では応戦することも叶わないだろう。
     家を鼻にかけたような嫌味ったらしい言葉を囀るのも、もうこれが最後だと思うと口角が上がるのを止められない。

    「その前に、雑談でもいたしましょう」
    「雑談?何か話題がありましたかな」
    「あー、ああ。まあ、飲み物でも用意いたしますよ。そこの棚にシングルブラッドの赤を準備しています。その繋ぎにでも……今日のお召し物は、今日の日のための仕立てですか。良くお似合いですな。赤がお好きで」

     くるり、背を向けて壁際のカップボードキャビネットへ向かうと、目の前のガラスの張られた開き戸からグラスを二つ取り出して下のキャビネットの天板へ並べた。元々寝室として設計されていた部屋だが、持ち主から買い取った際に簡単なグラスと小鍋とカトラリー、開き戸の中に過去の獲物の血を貯めたボトルと不味い灰を飲み下すためのブラッドワインは常備している。レイアウトに多少の違和感はあるが、この部屋に来た者は業者以外全て腹の中におさめているので問題は無い。
     コルクを抜いて、棚に並んでいた中から一番手前にあった背の低いグラスにワインを注ぐ。栓はしておかなくても少しすれば食事の伴になるので、口を開けたまま放置した。
     そうしてグラスを盆にも載せずに運んで差し出すと、ひらりと赤いコートの裾を翻してさも当然のように受け取られる。
     
    「この服ですか。何か着る機会があればと少し前にね。お守りのようなものです」
    「服が、ですか」
    「服が、とも言えますし色が、とも言えますね」
    「ははあ、貴方と縁近い方のものですか」
    「おや。私に相談を、と言う話ではありませんでしたか」
    「何かおかしなことを申しましたか」
    「いえ、なるほど俗世とは縁遠い方だ」
    「不勉強ながら、どういう意味か伺っても」
     
     もう殺してしまおうか。そう思って真っ直ぐ獲物を見つめた瞬間。

    「そんなんだから今更古臭いやり口でこっすいマネしてんだろド三流って意味だよ」

     バリン、と大窓が割れる。
     あっけに取られて破損の中心に視線をやると、やけに目の前が開けている事に気づく。それに考えを巡らせるよりも早く危機感に任せてその場を飛び退くと、それは大きく派手な音を立てて背後のカップボードへと突き刺さった。
     先程蓋を開けたままにしていたブラッドワインが反動でごとりとカーペットに着地し、その中身をドクドクとカーペットへ広げる。
     呆然と、窓を割ったであろうものへ視線をやると、それは大きな斧だった。灰色がかった太い取っ手、紫色に染められた側面にはひし形に紫の石が嵌っているのに気づいて、苛立ちと怒りが頭を染め上げる。
     竜だ。
     強者が気まぐれに弱者をいたぶるように、賢い生き物が力で制圧されるように、大木が木陰で低木を殺すように、小魚を餌にまんまと釣られてしまった。
     ちくしょう、ちくしょう!あの弱い吸血鬼さえ俺の餌場に来なければ。逃げてやる、逃げてやる、逃げ切ってやる!こんな所で終わる俺じゃない、もっと、もっとまだ全然やれるんだ、俺は強くなれる。今までだってクソ不味い死体を食べて、食べて、俺は俺を賢くここまで築き上げてきたんだ。こんな所で死んでいい存在じゃない!
     
     割れた窓、運悪くドアとの間には斧が刺さった棚ひとつ、十歩先の目の前に落ちている黒い布と一緒の塵の山くらいは掴んで持って行けるだろうか。ぐるりと部屋の中を見渡すと、俺よりもずっと窓の近く、男が一人立っていた。 
     窓から吹き込む風がその帽子を落として見えた頭は銀、竜の息子か、と停止する思考。
     しかしその肌の色は高貴な色をしていない。黒を纏った人間は、素早く塵の山に手を突っ込むと、銀色の塊をその中から取り出す。
     人間ならば俺より下だ、殺せる。
     そう襲いかかろうとした瞬間、身体と首に走る衝撃。もはや何が起こったか、思考を止めた頭で牙をむきだし頭だけでも持ち上げる。
     薄れる意識の中、硬質な青に真っ黒の瞳孔を浮かべたガラス玉が、無表情にこちらを見下ろしていた。

     △△△△

     ガラスの散乱する部屋の中、おそらく沢山の破片が刺さってしまった傷だらけの革靴で踏み込んで、壁に刺さった斧を抜く。サテツのようには行かなくとも、この重さの斧を片腕で正確に投擲出来るようになったのは成長だろう。

    「あーうるさ、もう少し大人しく制圧出来んのかねゴリ押しゴリラ」
    「うるせえな、俺だって割らないで済む部屋なら割らねえように入ったわ」
    「ハイ嘘、今回の作戦で窓以外のどっから入るつもりだったんだ言ってみろ素手で最初から窓殴って鍵開けようとしてた空き巣一歩手前ルド」
    「お前も事前で窓以外無いって言っただろーが鳥頭のバカ砂おじさん知らねーうちに勝手にヒトの悪趣味な服仕立てやがって身体ぴったりなのが怖いくらいなんですけどそっちこそ犯罪手前だろスレスレルク」
    「鳥頭はお前じゃボケナス衣装外注してる人間のスリーサイズなんて注文次第でどうとでもなるわバッチリベストまで着てるくせに今更文句とは三歩歩けば忘れるだけあってなんにでも突っかかると見える」

     不用意に動けばまた死にそうなガラスの山の中から再生した吸血鬼を小休止に一度殺すと、腰のベルトに括り付けておいたロープを使って今回の敵性吸血鬼をしっかりと捕縛する。
     縄目が固く結ばれているのを確認してから、屋敷周辺で待機している吸対へ作戦成功の連絡。これで屋敷に居る一般参加者の避難誘導と、高等吸血鬼殺しの証拠がしっかりと残るこの部屋の保全、そしてVRCへの連絡まで行ってくれるそうだ。
     最初はただの迷子捜索として舞い込んできた依頼が、ここまで大きな話に発展するとは。
     吸対が到着するまでの間、手斧を片手に、対象からは目を離さず服についたガラス片をパタパタと引っ張り落とす。この服でも革手袋が付いていて良かった。でなければ今頃手はズタズタになっていて、銃は撃てなかったかもしれない。

    「ああ、無理に落とそうとしなくていいからな」
    「は?このまま帰ったら危ないだろ」
    「私がガラスまみれ埃まみれの男にドラルクキャッスルマークIIへの侵入を許すと思うかね、ジョンがヒナイチくん達の車で着替え持って待っててくれてるから適当な空き部屋借りて着替えるぞ」
    「ジョンこっち来てんのかよ危ないだろ」
    「下手な誰かと居るよりもヒナイチくんの傍の方がよっぽど安全だろ」
    「それは……」
    「まあ君がその服を気に入ったと言うなら仕方ない。今回のでダメになっていなければしっかり私が破片を落としてクリーニングしてやろう。革靴はまた育て直しになるかもしれないがね」
    「気に入ってねえ。そもそも着せる予定も着る予定も無い立派な服をわざわざ勝手に俺の分まで仕立てんなよもったいない。だいたいもう着ねえだろ」
    「は?勿体ないかどうかは私が決めますぅーそもそも私の金で勝手に作ったもんなんだから君にとやかく言われる筋合いは無いね。むしろ今回役に立ったんだから先見の明もセンスも抜群でお洒落に金を惜しまない私を褒めそやせ崇め奉れそーれ畏っ怖、いっふ」
    「ダルい飲みサーのコールか」
    「私の畏怖コールをダサい言い方すんじゃねえ」
    「畏怖コールの方がダサいわクソ大好きか」
    「粗野なボケ造には高等吸血鬼のハイセンスが理解できないと見える。嘆かわしいな」
    「それがハイセンスなら一生理解出来なくていいわ。そういやお前、ちゃんと斧当たる前に死ぬか避けるかしたんだろうな」

     ふと気づいて先ほど手元に引き寄せたばっかりの斧に木くずしかついていないのを確認する。対吸血鬼用の中でも殺傷力の高い大型刃物である手斧は、普段のハエ叩きなんかとは威力が違うし対吸血鬼用麻酔弾のように手加減が出来るものでもない。この再生能力に長けている吸血鬼が生き返れないって事は無いと思うが、万が一があった時にこいつを心配する人間はシンヨコに沢山いる。
     手のひらでなでるように斧刃の刃先にすべらせると、ガラスを割った時に少し欠けてしまったのか美しい黒刃にわずかな欠けがあった。ほんの少しの布の繊維と飛び散った木くず、そこに一片の血も塵もついていないのを見て、ふと中断していた会話に気づく。軽く伏せていた瞼を持ち上げて視線を戻すと、いつの間にか手近な壁際に移動して寄りかかっていたドラルクがじいっとこちらを見つめていた。

    「なんだよ、まさか本当にぶち当たってたとかじゃねえだろうな」
    「なんでも、ちゃんと窓ガラスの割れた音にビビッて死んだとも。それよりねえ、やっぱりこの服取っておこうよ」
    「……なんで?」

     さっきまで、俺が気に入るなら置いておこうくらいのニュアンスだったはずの言葉がくるりと意見を変えた。その、こちらに問いかけるふりをして実のところどうするかはとっくに決めているような口ぶりにつっかかってやろうと思って真っすぐ見据えたその目に、言葉を飲み込むものを感じてずいぶん簡素な疑問を選ぶ。すると目の前の男は、射抜く視線は一つもごまかさずに口元だけ軽薄さを含ませた笑みを浮かべて返した。

     「なんでも。ね、いいでしょ」

     この、自分の意見が通ると信じて疑っていない声。分かりやすくいつもと違う様子でこんなことを言えばこっちが流されるだろって打算もたぶんちょっと混ざってるこいつのワガママの通し方が、どうにも誠実じゃない気もしてなんだか気にくわないので。

    「やだ、ボロボロだし、取っといても使えねえだろ」

     そうしてぶった切ってやるのも、偶にはアリだろ。目に見えてぶすくれて、分かりやすく軽い言葉でやいのやいのと文句の山を並べ立てるドラルクに一つ怒鳴り返す。
     遠くに響くパトカーのサイレンとほぼ同時に、現場を押さえるためにヒナイチが一玉一包みを抱えて弾丸のごとく飛び込んでくる。そうしてこの一件は、実行犯逮捕という形で日常へと戻ってゆく。ドラルクを抱えて山を下りるの面倒だから、吸対のパトカーに乗せてくれないかななんて考えながら、俺は取り合えず、世界一優しく思慮深い、着替えを持ってきてくれたマジロにお礼を言った。

     後日、衣装の仕立てにかかった値段の領収書をふざけた面で持ってきたクソ砂に退治人トルネードアッパーカットを決めて、そのあまりの額の衣服を事務所のタンスに置いておく恐怖に耐えかねた結果ドラルクの親父さんの城で保管してもらう運びとなり、結局捨てるのに失敗したのはまた別の話だ。
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    sntkit

    DONE読み切りwebオンリーありがとうございました、楽しかったです!

    一応前日譚となっているやつ
    「天使様のゆうことにゃ」
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16930806
     長く生きたものは変化を恐れる。
     
     そんな言葉があるけれどさ、この言葉って多分人間みたいな命の短い生き物の、しかも感性が固定された歳の考えを示した言葉だよね。
     だって期限ある短い命なら、誰だって好きなものに囲まれながら安穏と過ごせるのであればそれ以上の幸福ってないでしょう?そこに変化なんていらないし、自分なりの苦労と幸運の末手に入れた場所であるなら余計手放したくないし、もっといいものがあるよなんて他の連中に言われても、本当に今自分が持っているものよりも優れたものがあった時なんか幸福だった過去の自分がみじめになるかもしれないもの。
     吸血鬼なんかはほら、長く生きすぎてしまった結果「刺激が欲しい」なんて言い出してちょっとした不良行為をはたらく輩はいっぱいいる。高等殺しなんかはさすがに表立っていないけれど下等共を陰惨な方法でからかって遊んだり、折角の人間を無駄遣いしたりとか……ああ、メインはこの話じゃないのに脱線してしまったね。嫌だな。冗長な語りとか前口上とか、そういう古臭い吸血鬼らしさっていうのは最近じゃちょっと違う事してる自分カッコいいとか思ってるやつらしかやらなくなったじゃないか。そっちと並べられるくらいならまだ彼に似てきたとか言われる方がまし。
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