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    Rin

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    その“好き”って

    #影国
    shadowland

    影国 告白をした時、国見は握っている紙パックの人差し指に力を込めた。透明なストローから苺ミルクの液体が溢れる。真白なシャツに映えるピンク色。国見は慌てる様子もなく、汚れた制服をティッシュで拭き、恐る恐る言った。
    「その好きって、どの好き……?」
    「どの好き、ってなんだよ…」
     そもそも言葉の意味がわからなかった俺は、ネットで調べることにした。あの日は気が動転してしまい、間抜けた声で「そりゃ…好きなんだろ…お前のこと…」なんて言ってしまった。国見は気まずそうに視線を逸らし、「へえ…そっか…」と言って飲み干した紙パックを畳んだ。
    「最近よく…それ飲んでるよな」
    「うん」
    「好きなのか」
    「うん。あ、このジュースみたいな好きってこと?」
     このジュースみたいな?好きってこと?全くわからない。国見は至って真面目のようだが、何を言っているかさっぱりだ。俺が返答に困っていると、国見は
    「自販機がバレー部でジュースが部員で、「部員の一人として」と言うので、「そうだ」……だが、他と同じだと思われても困る。こういう時の俺は察しが良い。
    「国見が苺ミルクで、他のジュースと比べると、苺ミルクは一番美味い。俺は国見が絶対に美味いと思ってる」
     と加えた。国見はなぜか複雑な表情をして、「俺が美味しい……?」と呟く。
    俺は自信を持って「ああ。美味い」と答える。それから間が空いたが、国見が反対を向いてしまったので、その表情を見ることはできなかった。俺は後ろに突っ立ち、次の言葉を待っている。
    「あ。もしかしてバレーが上手いってこと?上手いと美味いをかけてる?」「何言ってんだ?」「いやこっちの台詞」
     困惑していた表情が少しずつ笑顔に変わる。久々に見た笑顔につられて、俺もつい口元が綻ぶ。
    「わかってくれたのか?俺の……」と、当然わかっているだろうが念のため確認してみると、国見は笑ったまま「う〜ん。なんだろ、ごめん。わかんない」と言ったのだ。
    あれだけ説明したのに…?わかんない…!?
     去っていく国見の背中を目で追い、俺は「影山〜」と呼ぶ日向の元へ走った。そして、現在である。今振り返ってみても「わかんない」と言った国見は、それはあり得ない程可愛かったが、告白が通じなかったことも事実だ。
    「その好き、は…友だちとしてですか…それとも恋愛として、か……そういうことか」
     国見が聞きたかったのはこれかもしれない。俺は小さな携帯の画面を覗き込む。「恋人として好きか、判断するポイント…ずっと一緒にいたいと思えるか」当たり前だろ。国見となら、高校を卒業してもそれからも一緒にいたい。
    「ふとした時に会いたいと思えるか」
     買ったばかりの椅子がキイ、と音を立てる。昔ポスターを貼り、剥がした時残ったらしいシール跡を見つめ、「会いたいに決まってんだろ」と声に出た。
    好きだ。やっぱり間違いなく、俺はあいつのことが好きだ。時計の針が23時を告げたのに、今すぐ会いたいと思うくらい。ただそれがどうすれば国見に伝わるのか。俺にはまだ大きな課題が残っていた。

    「そんなに美味いのか?飲んでみようかなぁ〜苺ミルク」
     花巻さんが自動販売機をトントンと叩く。ジュースを選ぶ時の癖だ。
    「及川さんに言わないって約束できますか」
    「え、なに突然?言わねえけど」
    「俺、影山から苺ミルクって言われました。しかも美味いって」
     花巻さんは咥えていたストローを落とす。
    「人選ミスしてない?」
    「金田一じゃややこしいことになるし」
    「ややこしいってことはわかってんだな」
     そりゃあ、本当は。影山から素っ頓狂な告白をされて3日。最初は友達として好きなんだろうな、なんて気を抜いてたら話の方向性が違う。もしかして俺のこと、別の意味で好きなの?と勘繰り始めたら、居ても立っても居られなくなっていた。逃げ帰るように背を向けて、影山になにも言えなかったことを今は後悔している。
    「そりゃ好きってことだろ、金田一はバナナミルクってとこだな」
    「で、影山は苺ミルクが一番美味いって」と加えると花巻さんは一瞬で無表情になる。
    「今更だがなんで飲料に例えた?」
     と聞くので、いきさつを話すこと5分、花巻さん「あ〜ややこしいな。こんなこと北一出身の金田一や及川たちには言えないよな」としみじみ呟いた。
    「それで、返事どうすんの?」
    「やっぱりいりますよね」
    「そりゃそうだろ。たぶん影山待ってるぞ」
     確かに俺にも、毎日ソワソワしている影山が想像つく。
    「しかしあの影山がなぁ、国見を…」
    「どこが良かったんですかね」
    「さあ…影山って独占欲強そうだよな。及川大丈夫か?馴れ馴れしくするなって言っとこうか?」
     花巻さんが楽しそうに笑う。
    「独占欲が強いのはわかります」
    「な」
    「影山らしいですよね。でもそういうところが、す……」
     咄嗟に言葉を止めると、彼は「へえ〜」と言って俺の肩を叩いた。花巻さんの口元はニヤリと笑っている。
    「違いますからね」
    「いやいや」
    「俺なんにも言ってないですからね」
     必死に言ったものの花巻さんは何も言わず、笑顔で去ってしまった。さっき、俺、なんて言おうとしたんだろう。力が入った紙パックのストローからジュースが溢れる。とにかく影山に連絡しておこう。早く。なるべく早く。
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