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    Rin

    @suki_rinn

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    クリスマスの日に

    #風が強く吹いている
    theWindIsBlowingHard.
    #柏崎茜
    akaneKashiwazaki
    #灰王
    grayKing
    #カケ王
    kingOfTheFlames

    灰王とカケ王窓の外からハイジさんの声が聞こえる。曇った窓をタオルで拭くと、誰かと話している彼の姿が見えた。窓を開けるとカラカラと軽い音が響く。王子は窓枠に肘を乗せ、その場に腰を下ろす。そこで楽しそうなハイジさんが王子の視線に気づき、チラチラ部屋の方を見て来る。彼は口パクで「かぜをひく、まどをしめろ」とだけ言った。
    それもそうだ、と王子はマフラーを巻きコートを着る。今までの笑顔が苦笑いに変わり、ハイジさんは「違う。そうじゃない」とばかり眉をひそめている。早く家に入って欲しい。理由は会話の相手が近所の女子だから、などではない。記念すべきクリスマスの今日、わざわざハイジさんに会いに来たのだろうとか。まさかプレゼントまで渡す気だろうか、とか。決してそういうわけでは。
     この時期に風邪を引くと大変困る。それはあなたも同じなのだから。願いが届いたのか、鼻をすすったハイジさんは軽く会釈し、別れを告げた。
    「……王子。分からなかったのか?」
    腕を組んでいる彼は口を尖らせている。
    「今から説教しに行く」
    「僕の部屋に?」
    「そうだ。だから逃げないように」
    王子を指差し、にやりと口角を上げる。
    「僕よりハイジさんの方が冷えているでしょう。せっかくなので、温めておきましょうか」
    「なにをだ?」
    「布団」
    深い意味も無く囁いてみると、一瞬キョトンとした彼は少し鼻をかき、「今晩きみがいいなら、それで」と満面の笑顔になった。



    アオタケ恒例の騒がしいクリスマス会が終わり、散らかったテーブル担当になった王子は憂鬱な気分でゴミを集めていた。クリスマスが終わってしまう。となれば、いよいよ迎える新年の日。ハイジさんから「あまり気負わないように」と言われたにも関わらず、箱根駅伝スタート地点に立つ自分が瞼に残る。他のことを考えているはずなのに、頭の中ではどこか一日目の姿を意識してしまう。王子は首を振り、空き缶を集めることに集中した。
    もう一人、王子の視線の先にいる彼も、どうやら物思いに耽っているらしい。カケルはテーブルを拭く手を止め、ボロボロの布巾を見つめている。王子が隣に移動してきたことにも気づかず、さっきから微動だにしない。王子はあえて声をかけず、反対側からテーブルを拭くことにすると、突然動き出した彼と目が合った。
    カケルは我に返り「あ」と声を漏らす。王子も「え」とつられてしまう。だって彼が、あまりにも唐突に大声を出すものだから。カケルはそんな王子の姿を見て、ふと笑った。その一瞬で、緊迫していた部屋の空気が変わる。王子も笑みを零し、台布巾に手を伸ばす。
    言葉なく二人して笑っている光景は、辺りから見ると奇妙だっただろう。カケルは何も言わなかった。だから王子もなにも言わない。本当は「カケルがそんな風に笑うようになって良かった」と伝えたかったけど。そんなカケルの笑顔が好きだと、いつか素直に言えたなら。
    階段の下ではしゃぐ双子の声が聞こえる。掌がテーブルの上で近づき、カケルは王子の小指をぎゅっと握った。それは、今晩あなたの部屋に行きます、という二人きりの合図だった。
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