添い寝(晶♂シャ)昼間に飲む珈琲のカフェインが体内に残っているのか、いつまでたっても眠気が来ない。そんな夜が数日も続いて、さすがに疲労が溜まってきた。そんな俺を見たシャイロックが、赤い瞳を優しく細めて「では、私が眠れるようにしてさしあげます」と言ったのは今朝のことだ。バーを臨時休業にしたシャイロックは、今、仰向けに横たわる俺の横で添い寝をしている。てっきり、寝付きがよくなるドリンクかなにかを渡されると思っていたのに、———どうしてこうなったのか。
「あ、あの、シャイロッ」
「心配しないで、私はここにいます。賢者様が眠るまで、ずっと」
いやいや、それが問題なのだ。ほのかに香る彼の匂いが鼻をくすぐる。人形のように整った顔やしなやかな体が密着し、体温を感じて心臓が高鳴っていた。シャイロックの体、あったかいな。俺と同じリズムで呼吸するんだ。当たり前のことなのに、彼のひとつひとつが胸の柔らかいところを撫で、くすぐってくる。
だって、俺はずっと、シャイロックを特別に想っていた。
波のように情をたっぷりかけてくれたかと思えば、掴もうとするとサァと引いていく。彼の掌の上でもつれ踊る俺を見て、愉しんでいるかのようにも感じた。西の夜の色男にうつつを抜かすなんて、身が滅ぶのが先か、心が枯渇するのが先か。わかっているのに、今在る隣の体温に、体は正直に反応してしまう。
ばくり、ばくり。早鐘の心臓の鼓動が聞こえないように。そんなことに集中して眠気など来るはずもなかった。ただ、俺のためだけに店を遅く開けることを決めてくれた優しい彼のために、寝たふりでもしよう。そう、俺は目を閉じた。
刹那。シャイロックの吐息混じりの甘音が、左耳を包む。
「———賢者様」
その声は、ひどく色を含んでいた。ばくり。
「…ここに来る前、私は脚の指をぴかぴかにしてきたんです。ヤスリで削って、ネイルオイルを塗って、それは、丁寧に、丁寧に」
ひたり。彼の足の爪先が、俺の脚に当たる。
「確かめたく、ありませんか?」
シャイロックの爪先が俺の太腿に着いたのが先か、俺の指が彼の唇を捉えたのが先だったか。赤い瞳に映る俺の欲情した情けない獣の顔が、ゆうらりと満足げに揺れた。