ニューゲーム 鍋の底にある伸び切った麺をよけながら、赤く染まったトックやネギをつまみにソジュを煽る。ハン・ホヨルがアン・ジュノの家で食事をご馳走になるのはこれが初めてではなかった。最初はサムギョプサル、次はカルグクス。ジュノの母親が痩せ身のホヨルを心配して、二人の除隊後は頻繁に食事に誘ってくれた。断った後の悲しそうな反応が耐え難く、ホヨルは都合がつく時には簡単な手土産を持ってジュノの家の食卓に混ざるようになっていた。
ジュノの家の居間には黒い額縁がかけられている。額にはジュノの父親の写真が収められていて、不満げにこちらを睨んでいた。彼は一年ほど前、飲み屋から帰る途中で川に落ちて、翌朝まで見つからずに川底で息を引き取った。ホヨルは自分以外の弔問客が帰った後も、通夜振る舞いのユッケジャンを匙でつつきながら残っていた。隣に腰掛けてきた喪服のジュノは、ホヨルにだけ聞こえるような小さな声でぽつりぽつりと言葉を溢した。
父に殴られる母を助けたくて、子どもの頃は父を殺したくてたまらなかった。大人になって、自分が罪を犯すことが母を苦しめることになると分かって、何もできない自分が悔しかった。父が死んだら笑ってやろうと思っていたのに、そんな気には全くならなかった。父が母に謝罪せず、罪も償わないまま死んでしまったことが許せなかった。何よりも父が死ぬまで何もできなかった自分が許せなかった。
ホヨルはうん、うん、と頷きながら、ジュノの震える背中をひたすらさすった。怒りや後悔を抱えずに生きていられる人間なんているんだろうか。どんなに手を尽くしても、伸ばした指先が届かずに不幸は起こってしまう。俺たちはどうしてこんなに無力なんだろう。鼻の奥が熱くなり、頬が濡れる。ずずっと鼻をすすると、ジュノがティッシュ箱を差し出してくれた。こんな時に他人に気を遣わなくたっていいんだ。ジュノは遠い親戚や父親の知人たちに、長男だからしっかりして家族を支えろと発破をかけられていた。ホヨルはそうは思わなかった。ジュノはこれまでの人生を家族を支えるために生きてきた。やっと肩の荷を下ろして気を抜くことができるようになったのだ。冷め切った赤いスープを飲み干しながら、ホヨルはジュノに甘いものを食べさせてやりたいな、とぼんやりと思っていた。
おわり