目を開けたままキス 二人きり、の時にしか、見せない表情がある。
頬が赤らんで、睨むように視線を交わして。
部屋には二人分の呼吸音だけが響いて。
ゆっくり、ゆっくり近づいて。肩に手を置き、後頭部に手を支え。溶けてしまうほど見つめ合い、そのまま顔を傾けて、ゆっくり、ゆっくり近づいて。
息と息が交ざる。呼吸が一つになる。湿った唇は思っていたよりも柔らかく、そこから身体が繋がっていく感覚。情熱に浮かされている時の強引なキスもあるけれど、こんな風に大切に、宝物をおそるおそる扱うかのような静かな夜だってある。
頬に触れ、指先でなぞると、低い声が漏れる。ああ、今どんな顔をしてキスに及んでいるのか。ちらりと覗いてみると――彼は、目を大きく開き貫くような視線で俺を見ていた。
「……んっ」
「なんだよ」
「おま、……目、閉じてないのかよ」
「閉じなくたっていいだろ」
平然と言い退けた彼は、何事もなかったかのように続きをしてこようとする。あわててそれを手のひらで制し、己の感情の整理をする。
「……キスって、普通、目を閉じてやるもんだろ」
「オマエだって今目開けたじゃねーか」
「それは、オマエがどんな顔してるか見て見たくなって」
「オレ様もだ」
横柄な態度の恋人は、それが当たり前だと言うふうに言い切った。
「チビがどんな間抜けヅラしてるか見てたいから」
「なっ」
羞恥心で顔が火照るのがわかる。なんでコイツはデリカシーがないんだ。
「オレ様とキスしてる時にしかしない顔なんて、見とかねーとソンだろ」
二人きり、の時にしか、見せない表情がある。
それはお互いに秘密で、お互いに宝物で。
「……集中できない、から、閉じてくれ」
「やーだ。ずっとチビの顔見ててやる」
キスの前の押し問答。果たして勝者はどちらか。