Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    komaki_etc

    波箱
    https://wavebox.me/wave/at23fs1i3k1q0dfa/
    北村Pの漣タケ狂い

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 145

    komaki_etc

    ☆quiet follow

    漣タケ

    #漣タケ

    おやすみ 事務所のソファで寝ていたら、枕代わりのクッションの下で、スマホがブルブルとうるさくて目が覚めた。朝のアラームとして置いているだけなのに、なぜ夜中に起こされなきゃならないんだ。表示を見ればチビからだったので、画面に指をスライドさせ着信に応じる。
    「……んだよ」
    「悪い。寝てたか」
     チビの声が片耳に響く。寝起きの頭はまだふわふわとしていて、まるで目の前にいるかのような錯覚に陥った。
    「何の用だ」
    「オマエ、今日はどこ泊ってんだ」
    「事務所」
    「そうか、ならよかった」
     今夜は少し冷えるから。そう言ってほっと息を吐くチビが見える。大きなお世話だ、多少の肌寒さなど寝ていれば紛れてしまうのに。
    「用がねーなら切るぞ」
    「……なくちゃだめか、用」
     チビの声はいつもより張りがない。さては夜の空気に飲まれたか。チビはチビらしく早く寝ちまえばいいものを、台本でも読み込んで心が引っ張られたのだろう。部屋の隅にある観葉植物がさわさわとこちらを窺う。
    「眠れねーのかよ」
    「少し。オマエはどこでも寝れていいな」
     挑発のつもりか、乗ってやろうかと思ったが、おそらく違う。今のチビに突っかかってもなにも面白くない。チビが眠くなるような話題はなにかあったろうかと、知らぬ間に思いを馳せていた。
    「……今日の顔弄るヤツ、オレ様のファンだったな」
    「メイクさんか。確かにそんなこと言ってたな」
     他愛もない話。わざわざ口にするまでもない話。チビが求めるならしてやろう。いつもなら一蹴して笑っているところだが、なんだか今夜は付き合ってやってもいい気がした。隣に体温のない夜が自分にとっても久々で、ビルの窓の、ブラインドの隙間から零れる夜景が頼りなくて、チビの細い声は存外耳に心地よかった。
    「……チビは、どうだったんだよ」
    「え」
    「今日」
     チビの一日なんて興味ないけれど、どうだっていいじゃないか、そんなこと。お互いの声だけが繋ぎとめるこんな夜には、しがらみなんていらない。
    「……オマエ、今日、泊りに来るかと思ってた」
    「そーかよ」
    「……だから、……なんでもない」
     おそらく、チビの布団の横に、オレ様用の布団が敷いてある。他の誰でもないオレ様のために。
    「さみしーか」
    「そんなこと言ってない」
     嘘が下手だ。ふ、と笑いを零して、毛布をかけなおす。チビの家の毛布も事務所の毛布も、同じくらい薄っぺらだ。
     ずず、と何かをすする音が聞こえた。ホットミルクでも飲んでいるのだろう。チビは眠れない夜、ホットミルクを飲む。オレ様も何か飲もうかと、事務所の冷蔵庫を開けた。
    「冷蔵庫、たぶん何もないぞ」
    「なんでわかんだよ」
    「歩く音と、開ける音がした」
     何でもお見通しだ、と言われた気がしてむずがゆくなる。こっちだって、チビのしていることはお見通しだというのに。
    「……眠れそうか」
    「オレ様はチビと違ってどこでも寝れるからな」
    「悪かったって」
     チビの声がやわらかくなってきた。そのうち眠りにつくだろう。こんな、数分、声を聞いただけで眠くなるなんて、チビはどこまでもチビだ。
    「……眠く、なってきた」
    「よかったな」
    「ああ。サンキュ。……おやすみ」
     ソファに戻り、毛布をもう一度かぶりなおす。ここは風がない。車の通る音がする。
     隣にチビのいない夜。空っぽの布団の横で寝てるであろうチビの、小さな声。
    「おやすみ」
     アラームが鳴るまで、スマホはもう振動しないだろう。クッションの下に放り、改めて目を閉じた。
     世界の帳を下ろしながら、チビの声を反芻する。「なんでもない」と言ったチビのことを、抱きしめたいと思った。「ここにいる」と言いたかった。それが叶わないのなら、まあ、おやすみくらい、言えてよかった。
     朝起きたら、チビに会いに行こうと思った。ロードワークから帰ってきたチビをびっくりさせてやろう。うっすらと意識を手放しつつ、明日の予定が決まったことにほくそ笑む。
     あとは朝の自分に任せて、微睡の中に落ちていった。おやすみという言葉に浸りながら、夜はとくとくと更けていく。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💙
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works