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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    あんまり漣タケじゃない。タケルがジグソーパズルを漣とやる話

    #漣タケ

    ジグソーパズル タケルくんもやってみて、と小さな手のひらから受け取った小ぶりな箱には、たまに見かけることのある夜の絵が描かれていた。姫野さんは「ゴッホの絵、なんだって」と教えてくれて、嬉しそうに顔を綻ばせた。
    「かのん、パパと一緒に一回やったから。なおくんとしろうくんにも貸したの。二人ともむずかしかったって言ってたけど、かのんは二日でできたんだよ」
    「へえ、それはすごいな」
     どこでこの絵を見たのか思い出せないが、おそらく有名な絵なのだろう。青い夜空が広がる下、街並みの中に、黄色く塗られた店が光っている。あたたたかな、美しい絵だと思った。整然とした石畳はどこか優雅で、星の輝きはやわらかだ。
    「タケルくんに貸してあげる!」
     ジグソーパズルなんて、何年ぶりだろう。小さい頃、施設で数度やった記憶があるけれど、それっきりだ。ピース数は少し多そうだけれど、果たして出来るだろうか。細かい作業は苦手な方だ。
    「ありがとう。やってみるよ」
     姫野さんの楽しそうな笑顔を見ていると、こちらまで釣られてしまう。ひとまずはやってみよう、出来たら写真を撮って見せてあげよう。こんな機会でもない限り、パズルをやる機会なんてない。脳にいい刺激になるかもしれない。
     俺は賢さんから紙袋を貰い――事務所には貰い物のお菓子の入っていた紙袋が溜まっている――、ひとまず持ち帰った。今日はもう予定がない。家事とトレーニングを済ませてから、取り掛かってみることにした。
     そんなわけで、俺は今、ジグソーパズルと対峙している。やり方なんてとうに忘れていたから、四つの角をまず見つけ出すということを思い出すのにも時間がかかった。青緑と、青白いの、そして濃い灰色と薄い灰色。四つ角にピースを置いて、溜息を吐いた。
     これは、わりと途方もない戦いになるかもしれない。姫野さんのパパには簡単だったろうが、俺は不器用だ。とりあえず、凹凸のない辺があるピースを探し当て、角から埋めていくことにした。
    「……何してんだ」
    「うわっ」
     気付かぬ間に熱中していたらしい。いつのまにか家に上がり込んでいたアイツに声をかけられるまで、俺は一心不乱にパズルをはめていた。首が痛いことに気付き、大きく伸びをする。
    「床に散らばってんの、なんだ」
    「ジグソーパズルだ。やったことないか? 姫野さんが貸してくれたんだ」
    「じぐそー……? んだソレ」
     上着を脱ぎながら、興味津々と言った様子で覗き込んでくるアイツに、めずらしいな、と驚く。こういう細かいものには関心を示さないと思っていたのに。
    「冷凍庫に白飯の残り入ってるから、チンして食っていいぞ」
    「メシは食ってきた」
    「……そうか」
     ますます珍しい。コイツが家に来る理由はふたつ、メシにありつきたい時と寝床にありつきたい時だ。俺はいつからか、アイツがいつ来てもいいように、多めに米を炊くようになっていた。
    「んで、どーやんだソレ」
    「一枚の絵になるように組み立てていくんだ」
    「……モノズキなヤツ」
    「けっこうおもしろいぞ」
     ほら、と言いながら、へこんだピースにでっぱっているピースをはめる。ぱち、と音がして、その箇所だけ、絵が具体性を帯びる。少しずつ絵が現れていく様子はわくわくする。
    「オマエもやるか? 青いとことか黄色いところは、わりと目印になってわかりやすいぞ」
     アイツは黙ったまま青いピースを手に取って、そのままウロウロ動かしたあと、ぴたりと当てはまる箇所にそれを置いた。愉悦を覚えたのか、そのまま二つ目のピースに指を伸ばす。
    「箱に絵が描いてあるだろ、手本にするといいぞ」
    「チビ、競争な」
    「え」
     アイツはにいっと笑ったかと思うと、手元のピースをぱちんと埋めて、俺に宣戦布告をする。俺たちのひざの間で輝く夜空は悠々と輝き、俺たちの騒ぎなんか知らずにそっぽを向いている。
    「どっちが早く埋められるか勝負だ!」
     これはそういう遊びじゃないのに。ゆっくりと時間をかけて楽しむものなのに。きっと言っても無駄だ、それよりも負けたくない、俺も次のピースを手に取って、ウロウロと動かした。石畳は似たような色合いの範囲が広い。
     二人とも、しばしの間無言だった。ぱちん、ぱちんという音と、うーん、という唸り声だけが交わされた。時折首を回してコリをほぐしながら、俺は箱の絵を眺める。これは実際にある店なのだろうか。ゴッホってどこの国の人だっけ。海外に行ったことはあるけれど、こんなしゃれた店に訪れたことはない。いつか行くことになったら、こんな風景を自分の目で見られるようになるかもしれない。
    「……いつかさ」
    「ああ?」
    「いつかさ、行こうぜ。ここ」
    「……どこだ、ここ」
    「さあな。知らない」
     テキトー言ってんじゃねえ、とこちらを見もせず言うアイツは、否定はしなかった。夜に灯る店にアイツは似合わないかもしれないけれど、異国の街で静かに過ごせるような大人になれたらいい、と考えてみる。
    「これで最後」
     ぱちん。絵の全貌を見て、俺たちは満足げに息を吐いた。繊細な作業を完璧にこなしたという達成感。どうだ、と言わんばかりにアイツが俺を見てきたので、俺も負けじと胸を張った。
    「オマエが来るまでに、俺があらかた揃えてたんだ。俺の勝ちだ」
    「右ッ側ほとんどやったのはオレ様だ!」
    「じゃあ左側をやったのは俺だ」
     完成した作品を壊さないように、いつもより小声で張り合った。お互い、部屋の中まで風景に溶け込んだような気分になっていた。不思議な魅力のある絵だと思った。
     俺はスマホで写真を撮ると、さっそく姫野さんに送ろうとしたが、少し考えてやめることにした。姫野さんは二日かかったと言っていたのに、こんなに短時間で仕上げたことを伝えるのは少し罪悪感がある。それに、アイツと二人でやったのも、反則技を使ったような気がする。俺一人じゃこんなに早く完成させられなかった。
     明日以降、事務所で会う機会があったら直接見せよう。その時、アイツも手伝ったことを伝えよう。えー、ずるい、と言わせてしまうかな。でも姫野さんもパパとやったんだし、いいよな。
     せっかく出来上がったパズルを崩してしまうのはもったいなかったが、俺たちはばらばらに戻したそれを、そっと箱にしまった。またやりたくなったら自分で買えばいいのだ。箱に描かれている絵はどこか得意げだった。
     その後、荘一郎さんからミルクパズルを貸してもらった俺たちはとんでもない苦悩を味わうことになるのだが、それはまた別の話。
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