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    雨想、初めての喧嘩(と北村のぷち家出)


    ⚠️過呼吸描写有り

    重い枷を嵌める「雨彦さんの分からずや」
    「そうかい。お前さんの好きにしな」
    「……そう。じゃあ、好きにさせてもらうよー」

     衝動のまま玄関口に掛けてあったコートを羽織り靴をひっかけ家を飛び出す。深夜にしてはかなり音を立てて扉がしまったような気がするけど、そんな事はどうでも良くなるくらい僕は今頭に血が上っていた。
     雨彦さんと一緒に住むようになって、否、雨彦さんとお付き合いをするようになってから。

    ──僕達は今、はじめての喧嘩をしている。



     僕に入っていたドラマの撮影後の打ち上げが終わるのが遅れて。盛り上がった大人に揉まれた僕は、帰りの連絡をすることもままならず気づけば時計の針はてっぺんを回っていた。ようやく解放されて確認できたスマホには、大量のLINK通知に数件の不在着信。……そもそも今日の打ち上げ自体が急遽セッティングされたものだったから、雨彦さんにそれを伝えられていたかどうかすら怪しい。慌ててタクシーを拾ってマンションに帰ったものの、リビングの扉を開けた先には顔面の表情を削ぎ落としたような冷徹な男が立ちはだかって居たのだ。
     視線だけで自分と反対側の椅子に座るように促され、反論する事もせずに座った……までは良かった。口を開いたかと思えば帰りが遅いだの、連絡も無く心配になりプロデューサーに確認してみれば打ち上げと聞かされただの、挙句の果てに成人したてで危険な場に長居するのはどうなんだだの淡々と文句を連ねられていく。最初は反抗する気も無かった。だって、連絡を取れなかったことは本当に僕が悪い。僕達の関係に恋人という名前がついて、ここに共に引っ越すことが決まった時に互いに帰宅時間については必ず連絡をするという約束をしたのだ。……だけど。

    「確かに今日は約束を守れなかった僕が悪かったよー。心配かけてごめんなさい。……でも、僕だってもうお酒も飲める年齢だよ。いつまで雨彦さんの中の僕は十九歳のお子様のままなわけー?」
    「あのな、俺がどれだけお前さんのことを心配していたか」
    「それだけ言われて分からないほど僕だって馬鹿じゃないよー。それに、雨彦さんだって帰りが遅くなるだとか、朝になるだとか言って居なくなるじゃない。そんな曖昧な言葉で突然居なくなる人に、愚痴愚痴言われたくないなー」
    「俺の実家の家業については、再三見ているだろうし説明だってしただろう。それに、出る時は毎度連絡を入れている筈だ」
    「連絡を貰うことと心配をしなくなる事はイコールじゃないと思うんですけどー」

     売り言葉に買い言葉とは、まさにこの事だ。まるで僕が心配していないように言われて腹が立った。確かに雨彦さんにとって清掃屋の仕事がどれだけ大切かは出会ってからの姿を見れば嫌という程分かる。理解もしているし、やめろと言う気もその権利も更々無い。だからと言って掃除をしに行ったと思えば絶対に掃除でつくはずのない切り傷や打撲痕を身体に残して帰ってくる恋人を見て心配しない訳が無かった。

    「もういいよー。僕、ちょっと出るから。そのうち戻るから、雨彦さんは僕に構わないで寝てて下さいー」

     そうして僕達のはじめての喧嘩と、僕の深夜の家出は始まったわけだけど。──家を出て早二十分、雨彦さんからとにかく離れようと通ったことの無い道を突き進み目に付いた公園のベンチに腰かけた所で、僕の心は早々に折れかけていた。というのも、ポケットに入っていたスマホ以外の荷物を何も持っていなければそもそも家に帰った時間が時間だ。店も殆ど空いていなければ時間を潰せるような何かもない。衝動で出て何かをするにはアイドルという大きな枷が嵌められている以上、まずこんな行動を取る事自体が間違いだったというのだ。『Legenders北村想楽、深夜に街を一人徘徊か』なんて週刊誌の見出しが脳裏に過ぎる。そんな事にならないように早めに帰った方がいいのは分かっているけど、でもやっぱりこのままのこのこと家に戻って雨彦さんにまた怒られるのは嫌だった。電車さえ動いていれば、兄さんのところに転がり込むなり出来たのに。
     とにかくこんな所にいては始まらない。何せ時代はキャッシュレスだ。スマホひとつあれば一晩どこかに泊まるなりタクシーで移動するなりどうとでもなる。とりあえず駅前に出よう、そう思って現在地を見ようとロック画面をつければ、右上の電池マークは赤く点灯していた。
     大人しく家に帰って謝るか……こんな事で整いたくなかったなー。歩いたことで多少暖かった身体も、夜の寒気に体温を奪われ末端から冷えてきた。身体が冷えるのと同時に心にまでその冷たい空気が流れ込む。心做しか視界がぼやけて見えるのは、きっと、寒いから。寒くて焦点が合わないのだ。目頭が熱くなったきがするのも、頬を流れる熱さも寒くて身体が暖まろうとしてるだけだ。ぽたぽたと地面にできていくぼやけた水玉模様を眺める。なんで僕、泣いてるんだろう。怒られたのが嫌だったから、言い返してしまったことを後悔しているから、今まで言えなかった不満をわかって貰えなかったから。きっと理由はそれのどれでもあって、どれでも無い。

    ──雨彦さん、僕のこと嫌いになったかなー。

     嫌われるのが怖かった。私より仕事が大事なんでしょう。そう言われて別れた女がいたと聞いていた。結局今の僕は、その女の人と大差が無いんじゃないか。でも、不安で心配な気持ちを隠し通して深夜に寝床を出ていく雨彦さんを見送り続けられる程、僕は都合のいい恋人であり続ける事は出来ない。本当なら不要な怪我をして帰ってくるのは辞めて欲しい。共に過ごせると思っていた筈の夜を一人、大きなベッドの片側が冷えていくのを感じながら過ごすのはもう嫌だった。直接そういってしまった訳じゃないけれど、あの敏い雨彦さんが僕の持ったその感情に気づかないわけが無いだろう。
     ただ僕の帰りが遅くなっただけでこんな事に発展するくらいなら、最初から打ち上げは断っておけばよかった。でも、今日この喧嘩が起きなかっただけで、きっといつか同じ終着点に辿り着く口論が行われていたと思う。もう家を飛び出してから半刻以上経っているけど、雨彦さんからの連絡なんて無い。もういい、なんて言って飛び出してきたんだから来なくて当然なはずなのに、数時間前にはあんなに沢山入っていた通知が恋しくなった。誰もいない公園に一人でいることが急に心細くなって、小さなベンチの上で膝を抱える。もう、僕のことは心配でも何も無くなったのかなー。そう思えば思う程悲しくて、止まりかけていた涙が再び溢れ出した。

    「……ごめん、なさい」

     何かに縋るように零した謝罪の言葉は、誰にも拾われぬまま闇に溶けた……はずだった。ベンチの上で俯いて膝を抱え込んでいた僕の頭を、誰かが撫でる。その指の長い大きな掌を、走ってきたのかいつもより少し汗の匂いが混じった柔らかな和の香りを、月の明るささえ覆い隠してしまうくらい長い長い影がのびる長身を、僕は嫌という程知っている。頭を上げて顔を見たかったけど、女々しい部分を見て別れようなんて言われたら耐えられる気がしなかった。膝を抱く力を強めて、何も見えないように真下を向く。

    「…………北村、」

     あめひこさん。口に出そうと思った返事の代わりに、涙が頬をつたう。元から何を考えているかなんてよく分からないこの人の感情を、顔も見ずに推し量ろうだなんて軽率だった。怒っているのか、それとも呆れられているのか。目の前に立つ男が一体何を考えているかが分からなくて怖い。情けない心の中までも見られないように、膝を抱え直す。
     心臓が締め付けられたように痛くて、耳鳴りがする。こんな情けない姿を見られるくらいなら、僕を置いて早く帰って欲しい。こんな寒いところに一人で置いていかないで。
     矛盾した感情を整えたくて小さく深呼吸をしているのに、なぜだかどんどん息は乱れていく。息を吸えば吸うほど頭の中はぼやけて、寒さのせいか冷えきった指先もびりびりと痺れる。──これ、過呼吸だ。そう気づいた時にはもう遅かった。目の前がちかちかと霞んで、これ以上息を吸ったらダメだって分かっててもまるでそれしか知らないみたいに身体は酸素を求め続ける。びくりと震えて制御出来ない身体が、自分のものじゃなくなったみたいで怖かった。目の前の人に助けを乞いたくても口からはヒューヒューと空気が漏れる音しか鳴らない。どうしよう、僕、このまま息が出来なくなって死んじゃうのかなー。なんだか他人事みたいだなー。なんて、ぼやけた思考で考えてたら冷たくなった身体がいきなり暖かい何かに包まれた。

    「落ち着け、北村」
    「ッは、ひッ──」

     落ち着くって何をどうすればいいんだろう。力も入らないし、息もうまくできない。落ち着けるものなら、もうとっくに落ち着いてる。何をするのが正解なのかも分からなくて、首を横にふるので精一杯だった。
     背中に回された腕が離れたかと思うと、両頬を大きな手で支えられる。顔をあげられた拍子に膜を張っていた涙がぼとりと落ちた。視界に薄らと見える雨彦さんは、上手く見えないけどなんだか酷く焦っているみたいだ。ぼやけた視界の中目線があったのを確認すると、雨彦さんがぐいっと近づいてくる。だめだよ、こんな外で。誰に見られちゃうか分からないよー。そう言いたいのに、小刻みに吐き出される空気が邪魔をする。そしておでこがくっついているんじゃないかってくらいまで雨彦さんの顔が近づいてきた。

    「っは、ぁ……っあ、ひこ……さっ」
    「聞こえるか、北村。無理に喋ろうとしなくていい」

     こくん。小さく頷く。すぐ近くから使い慣れたシャンプーの香りがして、酷く安心する。俺とあわせて息をしな、と雨彦さんが言ったから、深呼吸をする雨彦さんに合わせて僕も息を深く吐き出した。吸って、吐いて。ただそれだけの簡単なことすらこの人がいないと出来ないなんて、僕は重症なのかもしれない。
     
     徐々に呼吸が落ち着いていくと共に視界ははれて、至近距離にある雨彦さんが安堵していくのが見える。僕のこと、心配してくれたんだ。ただそれだけの事実が嬉しくて、たまらなかった。頬を包んだままの大きな掌に触れたいと思った。けど、呼吸が落ち着いたことで硬直がとけた体は未だ痺れて上手く動かない。ぼーっと目の前で揺れる二つの紫陽花色を見ていたら、僕の気持ちを察されていたのか、右頬に触れていた手はいつの間にか冷えきった僕の指先を暖めようとしている。でも暖めようとする雨彦さんの手もいつもより冷えていたから、指先の温度はあまり変わらなくて。ふふ、と笑いが口の端から零れた。

    「少しは、落ち着いたかい」
    「……うん。ありがとう、雨彦さん」
    「これ以上冷える前に帰るとしようか」

     ぎゅう、と緊張が緩んだはずの身体に再び力がこもった気がした。帰っても、いいのだろうか。拭え切れない不安から身体がベンチから立ち上がるのを拒む。それを察していたのか。一度立ち上がっていたのに再び僕の前にしゃがんだ雨彦さんが僕と同じ高さで目を合わせる。今目を合わせたら、僕の抱え込んだ不安も、雨彦さんへ向けたどろどろで薄暗い感情も全て見透かされてしまいそうなのに、不思議と目を離すことが出来なかった。

    「お前さんがいない家は随分と広くて、静かで、色褪せてみえる。お願いだから、もう出て行くなんて言わないでくれ」

     すまなかった、と。目の前の男に頭を下げられて思わず固まってしまう。約束を破り口論をして勝手に家を飛び出した挙句、取り乱して調子を崩したのは僕だと言うのに。どう考えても謝るべきは僕のはずなのに、その感情には心当たりがあり過ぎて謝らないでとは結局言えなかった。

    「……僕も。あの家で一人になるのは、寂しいんだよー」

     兄と二人で住んでいた頃と、広さは対して変わらないのに。あの頃は多忙な兄さんがほとんど家をあけていたし、お互いに生活リズムも合わないからと一人でいる事がしょっちゅうだった。でも、心細さも寂しさも感じた事などたった一度も無かったのだ。

    「僕も、帰っていいのー?」
    「何を言ってるんだ。彼処はお前さんの、俺達二人の帰る場所だろう?」
    「……うん、そうだねー」

     よろよろとベンチから立ち上がり、雨彦さんの隣に並ぶ。まだ息の整い切れてないふらついた身体を支えるように、雨彦さんが僕の肩に手を回した。こんなところ、誰かに見つかったら。そう思ったけど、それを咎める気には今はどうもなれない。そんなことより、早く家に戻って意外と寂しがり屋だと分かった隣の大きな恋人を抱きしめたいと思った。
     僅か一時間と少しの僕の初めての家出は、そうして幕を閉じたのだ。



     この感情を共有したところで雨彦さんが家業の手伝いに行くことを辞めるわけでは無いのは分かっている。それに、アイドルとして人気が出てきている今、きっと今日みたいに各々が打ち上げや個人の仕事で家を離れる時間だって今まで以上に増えるのだろう。でも。どうしても言葉の足りない僕達にとって、あの場所がそういう所だと、二人とも同じ感情を共有しているのだということを知っているという事実は僕達にとってすごく大きな、重い重い枷になった。
     ──都心から地下鉄で十五分、駅から歩いて十分のマンションの五階の角部屋。その場所に二人揃ってからはじめて外れるその重い枷を互いにかけて、今日も僕達は家を出る。
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    DONE12/24ドロライ「クリスマス」お借りしました。
    だいぶお題からそれだけどクリスマス要素があるので許されたいと思っています
    #雨想版一週間ドロライ クリスマス「あしひきの山の木末の寄生とりて 挿頭しつらくは千年寿とくぞ――」
    「大半家持か。流石だな。お前さん、これが何だか知っているのかい」
     流石というなら、専門でも無いのにさらっと出典元を答えられる雨彦さんの方だと思う。それよりも。
    「髪に飾るにはまだ少し早いけどねー。それ、ヤドリギでしょー?そのリース、どうしたのー?」
     僕が昨日雨彦さんの帰りを待つよりも先に寝落ちてしまった時にはそのリースは飾られていなかったはずだ。
     真っ赤な実が差し色にあしらわれた、ヤドリギの枝をぐるりと丸く形取ったリース。世界中の子供達が真っ赤な帽子のおじいさんの来訪を待ち望んでいるこの時期には確かにこの枝を使ったリースやオーナメントを見かけることがある。でも、僕はもう十九歳でクリスマスプレゼントを待ち望むような年齢でもないし、雨彦さんだってわざわざツリーやオーナメントで家を飾り立てるような性質とは思えない。突然現れたそれは、正直に言って今のこの家の中で結構浮いている。
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