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    kanagana1030

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    POIPOI 25

    kanagana1030

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    春趙になっていない二人のグループ温泉旅行。
    多分、次ぐらいで終わる……はず。

    最初 https://poipiku.com/4207395/8117860.html
    次 https://poipiku.com/4207395/8200589.html
    その次 https://poipiku.com/4207395/8317545.html

    期待外れの温泉旅行4 その後は食事後にお膳が下がってからも、皆でわいわいと宴会が続いた。皆の酒量が普段よりも少し過ぎたかなというところで、趙が何気なく立ち上がって部屋から出ていくのが分かった。自分の部屋に忘れ物でも取りに帰るのか、と春日はその背を目で追う。隣ではナンバがほとんど酔いつぶれそうな状態で春日に寄りかかりながら、昔の愚痴をグダグダと言っている。

     もしかして、二人っきりになるチャンスなんじゃねぇか……。

     そういえば、先ほど決心していた趙の好きなタイプを聞き出すことがまだ出来ていない。皆がこの調子だと宴会は長引いて、気が付いたら明日の朝ということにもなりかねない。酔った頭で、よしっと決心して春日はナンバの身体を横に押して立ち上がった。
    「あんだ、春日、どこ行くんだよ」
    「便所だ、便所」
     引き留めようとした腕を払って、趙の後を追う。宴会をしていた足立の部屋の横、自分たちの部屋に戻ってみたがそこに趙の姿はなかった。
    「どこいっちまったんだ」
     普段から趙の行動は春日にはなかなか読めないことが多い。急ぎの連絡が入って電話でもしているのだろうかと、その姿を探して館内をぶらついていると宿の売店付近で、長身を見つけた。
    「ちょ……」
     呼びかけようとした声が途中で止まる。趙の周りには見知らぬ浴衣の女の子達がいて、趙は笑顔でその子たちと話しているところだったからだ。趙よりも頭一つ分以上小さい女性が三人、キラキラした目をして趙と話しこんでいる。
    「えー、おもしろい。お兄さん、面白い人なんですね」
    「いやいや、冗談じゃなくて。本当にそうなんだよ」
    「本当に? ゲームか何かの集まりなんですか?」
    「まぁ、そんな感じでもあるかな」
    「そうだったんだぁ。私たち、ずっとどういう集まりなんだろうって話してたんですよ」
     様子を伺っていると趙と女の子達との会話が聞こえて来て、どうやら元々の知り合いではなく、宿で声をかけられたらしいということが分かる。
     別に春日は趙の外見だけに惚れたわけではないが、男の自分からみても趙は男前だ。現にキャバクラなどに一緒に行っていた時にも、女の子の隣に座ることがあまりない癖に、仲間内で一番モテているのは趙だった。春日はいつもそんなことにモヤモヤとしていたのだが、せっかくの旅先でもこんな思いに悩まされなくてはならないのかと悔しくなる。
     趙は俺たちと旅行に来ているんだと思いながら、春日は女の子達と喋る趙に声をかけた。
    「趙っ」
    「あっ、春日くん」
    「お前、何してんだよ」
    「えっ? ああ、皆、そろそろソフトドリンクが必要かなと思って、売店に買いにね」
     言われてみれば、趙の手にはペットボトルの詰まったビニール袋が下げられている。その気遣いに、どんだけ男前なんだよ、と改めて惚れ直す気持ちとともに、そんなにいい男でなくても良いのに……という捻ねた気持ちがわいてくる。
    「俺も持つ」
    「えっ、いいの。ありがとう」
     趙の手元からペットボトルの詰まった袋を一つ、受け取って手に取る。女の子たちが興味深げに二人のやり取りを見ているのに気づいて軽く頭を下げる。それを見た趙が、女の子たちに向かっていった。
    「これがさっき言ってた俺たち、勇者ご一行の勇者様」
    「えー、本当に? 勇者様なんだ」
     女の子たちが声をあげて笑って、春日はちょっと眉を上げながら趙を見た。
    「なんだよ、それ」
    「いや、この子たちに何の集まりか聞かれたからね。じゃあ、これでね」
     趙が女の子たちに手を振って、促すように春日の背を軽く押した。女の子たちの名残惜しそうな声を背中に聞きながら、趙と並んで歩き始める。
    「いいのか?」
    「えっ? 何が?」
    「モテてたんじゃねぇの」
    「何の集まりなんですかって聞かれただけだよ」
    「ふーん、可愛い子達だったけどな」
    「何? 春日くん、興味のある子がいた?」
    「はぁ? いねぇよ、そんなもんっ」
     こちらの気も知らないでからかってくる趙に腹が立って少し声を荒げると、何故か、趙が一瞬、サングラスの奥の目を揺らした。その意味をはかりかねているうちに、すぐにその目は細められていつもの笑顔になった。
    「そうだよね。春日くんにはすでに思い人がいるんだもんね」
    「う、うるせぇ」
     改めてその話を蒸し返されて、ドキドキしながら悪態をつく。趙が声を上げて笑うのを見ながら、今が趙のタイプを聞き出すチャンスなのではと思う。
    「あ、あのよぉ」
    「ん? 何?」
    「趙はさ、す、好きなタイプとかあるのか?」
    「えー、何? コイバナの続き?」
    「ま、まぁ、そんなもんだ」
    「好きなタイプかぁ。あんまり考えたことなかったけど……あえて言うなら明るい子かな」
    「明るい子? 賑やかなのがいいのか?」
    「うーん、そうじゃなくて。なんかさ、俺ってこんな風に見えて、案外考えこんじゃうタイプなのよ。だから、俺とは逆に色んなことをなんてことないって言ってくれる子の方が一緒にいて楽だなぁって」
    「そうなのか」
     なんだか意外だったが、確かに趙は底が読めないところがある。立場的にも今まで自分が想像もつかないような苦労にさらされていることもあっただろうことを思うとそういうものなのかも知れないと思う。
    「明るい子か……」
     春日も明るい奴だとはよく言われることがある。と言うことは、そこは趙のタイプではあると言うことだ。そう思うと何だか力が湧いてくる。
    「まぁ、でも、タイプとかってさ、意味ないよねぇ。結局、好きになっちゃった人が好きな人だもんね」
     浮いた春日の気持ちを挫くように趙が少し諦めるような調子でそんなことを言い出す。その様子に、もしかして、趙に思い人がいるのでは、と嫌な予感がしてくる。
    「な、なんだよ。趙にも気になる奴がいんのか?」
     聞こうとした声が上擦らないように、平静を装えるように、慎重に聞く。趙が春日の顔をチラリと見た後で「ふふ、気になる人を言いあうの、まるで修学旅行みたいだね」と小さく笑った。
    「そうだね。気になる人はいるかな」
     趙の予期せぬ答えに心臓が止まりそうになる。
    「えっ!? だ、誰だよっ」
    「えー、誰って、春日くんだって、好きな人教えてくれなかったじゃん」
    「そ、それは……」
    「ねぇ、そんな事よりさ。夜も更けたことだし、ちょっと大浴場、覗きに行ってみない? 俺、皆の話を聞いて、どんな感じなのか気になってたんだよね」
     すでにその話題に興味を失ったかのように、趙はそんな提案を投げてくる。春日としては、頭の中は趙に気になる人がいる件でいっぱいで全くそれどころではないのだが、楽しそうな趙の様子にひっぱられて、二人で大浴場へと向かった。
     廊下の大浴場の表示を追っていくと、ふんわりと湿度が上がり段々と湯の香りがしてくる。色違いの大きな暖簾が見えて、趙とともに男湯と書かれた青い暖簾をくぐって中に入る。スリッパを脱ぐ小上がりに他の人のスリッパはなく、脱衣所にも人の姿はなく静かだった。
    「誰もいないねぇ」
    「そうだな。皆、あらかた入り終わった時間帯なのかもしれねぇな」
    「チャンスじゃん。入っちゃおうよ、春日くん」
    「へっ? む、無理だろっ」
    「誰もいないんだから平気、平気」
    「で、でもよぉ。途中から誰か入ってきて、墨が入ってのバレたら宿を追い出されねぇか?」
     せっかくの宿から自分の不手際で追い出されるようなことがあったら、皆に申し訳ない。しかし、趙はまるでそんなことは気にならないのか、脱衣所のかごに買ったビニールの袋を置いて、意気揚々と浴衣の帯を解き始める。
    「大丈夫、大丈夫。どうにかなるって」
     軽くいう趙が帯を抜いて、浴衣を肩から落とすのを見て、慌てて視線を外す。
     趙と風呂? そりゃあ、温泉旅行が決まってから何度も妄想したことではあったが、こんな風に突然、念願がかなうとは思っていなかったので心の準備が全く出来ていない。
     もじもじと帯を解いていると背中から趙の声がした。
    「春日くん、早くぅ。俺、先に行ってるよ」
     その声に大浴場の自動ドアが開く音が続く。気軽に言ってはくれるが、こちらは趙に片思いをしている身で、一緒に風呂に入るなんて一大決心のいることなのだ。
     でも、迷っていてもしょうがないと、えいやと全裸になって趙の後を追った。脱衣所との境の自動ドアをくぐると、先ほどとは比べものにならないぐらいの湿度を持った大量の湯気に襲われる。素っ裸で大量の湯気の中、広い空間にいることが落ち着かない。視界がくもる中で目を凝らしていると、奥の方にぼんやりと肌色の人影が見えた。
    「春日くん、湯船に入る前にシャワーをしておいでよ」
     そう声をかけてくる趙はすでにシャワーを終えた後らしく、大きな湯船に向かっている。春日も慌てて洗い場に行き、かけ湯としてのシャワーを浴びて、湯船に向かった。広い湯船にはすでに趙が気持ちよさそうに浸かっていて、遅れてきた春日を見て顔を上げた。
    「大きいお風呂、最高だね」
    「そ、そうか」
     幸いなことに湯は濁り湯で、ざぶんと浸かってしまえば上半身しか見えない。慌てて身体を沈めて、趙の方を伺う。湯気の中、いつもより輪郭の淡い趙は何とも色っぽい。そして、趙が言っていたように、趙の左肩には何かの模様のような黒い刺青が入っていた。いつも隠れている趙の肌が目の前に惜しげもなく晒されているのがなんだかいやらしいことというより不思議で、思わずじっと見ていたら、趙の視線が再びこちらを向いた。
    「なになに?」
    「あっ、いや、わりぃ」
     裸の肌をじっと見るのは不躾だったなと慌てて視線を前へと向ける。
    「本当に墨が入ってんだなと思ってよ」
    「ああ、これね。まぁ、俺は周りに入れてる奴が多かったしね。入れるのが普通だったよね。春日くんだってそうでしょ?」
    「まぁ、そうかもしんねぇな」
     趙が湯の中をざぶりと動いて、春日のそばに来たのでどきりとする。
    「ね、春日くんの龍魚、見せて」
    「えっ? あ、ああ」
     趙に湯の中、背を向ける。
    「おおっ、やっぱりカッコいいね。鮮やかで生き生きしてて」
    「そ、そうか」
     趙の視線が自分の背中を舐めているのかと思うと落ち着かない。
    「龍魚くんも春日くんの背中に生きられて嬉しいね」
     趙の指が背中を滑る気配がして思わず、肩を揺らしてしまう。
    「あっ、ごめん。くすぐったかった?」
    「あ、ああ、ちょっとな」
     くすぐったいだけでなく、なんだか変な気持ちになってきて、慌てて趙と距離を取る。趙は逃げて行った春日を追うでもなく、両腕を湯の中にくぐらせて湯をかいた。
    「なんだかさ。変な感じだよね。こんな風に人と裸で風呂に入ってるなんて」
    「そ、そうだな。趙はちいせぇ頃、銭湯とか行かなかったのか?」
    「うーん、行ったことないねぇ。泊りで皆で大きなお風呂に入るような行事も、修学旅行とか林間学校とか? 基本的に参加させて貰えなかったしね」
    「そうなのか?」
    「うん。危ないって言われてね。まぁ、実際、昔から常にボディガードがついてたし、さらわれかけたことも何度もあったから、危なかったんだろうねぇ」
     趙は他人事のように言ってのけるが、幼い趙の身に危険が迫ることがあったなどと聞くとこちらの肝が冷える。
    「そりゃあ、難儀だったな」
    「まぁ、でも、俺にとってはそれが普通だったよ。春日くんもだろ? 生まれた環境、育った場所、周りにいた人達が俺たちの普通だったよね」
     言われて、改めて自分の過去に思いをはせる。確かに自分の境遇が世間一般では「可哀そう」と評されるものだと気が付いたのは、他の人間の生活を知ってからだった。幼い春日にとっては、ずっと桃源郷での日々が普通で当たり前だった。
    「そうだな。確かになぁ……」
     他人から見てどんなに奇異な生育環境でも幼い春日にとってそれは至極真っ当な生活だったのだ。そして、それは幼い趙も同じだったのだと思うと、改めて自分が趙天佑という男に惹かれる理由が分かった気がした。
    「だから、趙は普通に拘んねぇんだな」
    「ん?」
    「趙ってよぉ、なんか人のいいとこも悪いとこも全部ひっくるめて評価しないで、それがそいつだからって見てくれるよな。だからかな。俺、趙といるとめちゃくちゃ楽なんだよなぁ」
     趙の側にいると楽に呼吸が出来る気がするのは、趙が「普通」に拘ることなく自分を見てくれているからだと思う。だからこそ、自分は趙天佑という男に惹かれるのだと嬉しくなり、改めて趙の方を見ると、趙は何故か顔を伏せるようにしてそっぽを向いてしまっていた。
    「趙?」
    「……春日くんってさ、ホント、そう言うのてらいがないよね」
    「何だ? てらい?」
    「女の子たちが春日くんに次々に落ちていくのが分かるって話だよ」
     趙が湯の表面を手で払って、近づく春日の顔にかけてきた。
    「わっ、何すんだっ」
     春日も仕返しとばかりに、手ですくった湯を趙にかける。しばし、二人でわーわーとはしゃいで湯の掛け合いをしていると、脱衣所から人の声がしてきた。ぎくりとして動きを止めて、大浴場の入口の方を振り返る。
    「ちょ、趙……」
     不安に駆られて、趙を見ると趙は「大丈夫だよ」と浴槽の脇に置いてあったタオルを手に取って、刺青を覆うように肩にかけた。確かにそうすると趙の刺青は隠せるのだが、春日の刺青は背中全体に入っていて春日にはどうにも隠しようがない。軽くパニックになっていると、脱衣所への扉が開いて、中年男性が三人ほど肩を並べて入ってきた。
    「はい。春日くん、立って、立って」
     趙が春日を促すようにそんな声かけをしてくる。でも、湯の中で立ち上がってしまったらそれこそ入ってきた他の客たちに墨が丸見えになってしまう。そう立ち上がるのを躊躇っていると、趙が春日の後ろに回り込んだ。
    「俺が春日くんの背中、隠すからさ。ほら、立って」
     趙に両脇を抱え上げらえるように立ち上がると、ちょうど入ってきた人たちが春日たちの存在に気が付いて、こちらへと視線を向けたところだった。曖昧に笑って会釈をすると、向こうも曖昧な会釈を返してくれる。
    「さ、行こう」
     趙の両腕が春日の腹に回って、背中に趙の身体が触れる。裸で肌を合わせていることに慌てる春日を趙が背中から促して、二人は湯から上がった。歩き始めても触れたままの趙の身体を春日としては意識せずにはいられなくて、小声で後ろの趙に囁く。
    「ちょ、趙っ。近けぇんだけど」
    「身体が離れたら見えちゃうだろ。ちょっと我慢して」
     分かってはいるが、これが出来る我慢なら春日も声を上げない。湯に浸かり温まっている趙の肌が自分の背中に触れている。少し意識しただけで、なんだか良からぬ方に意識が向きそうで、慌ててそうならぬように気持ちを反らす。遅れて入ってきた人が、くっついて歩いている春日と趙に不審げな目を向けてくる。が、すぐに若者二人でふざけているとでも思ったのか、興味を失ったように視線をそらして行ってくれるので、ほっと息を吐く。
     脱衣所への自動ドアをくぐって、脱衣所に誰もいないことを確認すると趙がやっと身体を離してくれた。
    「ミッションコンプリート。ほら、何でもなかっただろ」
     春日としては、何でもなくはなく、むしろ問題大有りだったことだったが、それをどう伝えればよいか分からない。ので、春日は無言のまま、慌てて自分の脱いだ浴衣へと向かった。濡れた肌に構わず浴衣を羽織って、帯を締める。
    「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。誰か来たらまた俺が隠してあげるって」
     後ろから聞こえる趙ののんびりした声に恨めしささえ覚える。が、趙に助けてもらったのは確かだ。自分一人だったら、背中の刺青のこともあり、きっとこんな風に大浴場には入れなかっただろうなと思う。
    「趙は最初からこうなること、分かってたのか?」
    「ん?」
     振り返ると趙もすでに浴衣を羽織って帯を締めていて、趙の肌が隠れてほっとする反面、少し残念だという気もする。
    「まぁ、大浴場だしね。途中から人が入ってくるかもなぁとは思ってたね」
    「そうか。ありがとうな」
    「どういたしまして」
     にこっと微笑むその顔が誰よりも可愛いんじゃないかと思ってしまうのは、惚れた欲目だろうか。
    「ドリンク、すっかり温くなっちゃったねぇ」
     売店で買ったドリンクを再び手に提げて、大浴場を後にする。ちょっとヒヤヒヤしたことだったが終わってみれば楽しかった。こんな趙と二人っきりの時間がこれで終わってしまうかと思うとやりきれないような寂しさを感じた。せっかくの温泉旅行で、せっかくの趙との時間はこれで終わり。後は皆との団体行動が待っているだけだろう。夢のような時間が終わってしまう。
    「あ、あのよぉ、趙」
     意識せずとも気がついたら、足を止めて趙を引き留める声が出ていた。
    「んー?」
    「部屋に帰ってもうるせぇだけだし、ちょっと二人で飲まねぇか?」
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