泣くということ 君はよく泣く。
嬉しくても、悲しくても、寂しくても、怒っていても、泣く。
最初の頃、僕にはその涙がよく分からなかった。
悲しかった、悔しかった、腹が立った、もちろんその感情の理屈は判る。
ただ、逐一感情が涙の粒となって流れ出る様が、兎にも角にも不思議で仕方がなかった。
その上、君は「泣くのは嫌い」だと言う、直ぐに泣く自分が嫌いだとも。
こいと本人は気付かれないように繕っているつもりだろうけど、生憎隠すことに関しては下手くそな君は、その表情や声色から、今にも泣きそうだとか、泣いていただとかを隠せていた試しがない。
そうだ、気付けば僕は〝泣く〟と言う行為そのものを、忘れてしまっていた。
意識して忘れた訳では無い、気付けば〝泣けなく〟なっていただけだ。
心を殺した?
違う。
感情を押し殺している?
それも違う。
僕にとって〝泣く〟と言う行為が、必要のないものになっていただけで、きっと短い人生の道中で、邪魔になって放り投げてしまった荷物の一つだった、ただそれだけなのだと思う。
ただどうも、その荷物は、僕から見て、君にとっては必要不可欠なように思う。
感情の整理、自身の気持ちと向き合う時間、そして、相手の痛みに寄り添う、そういう気持ちが全て、涙という形で表面に現れる。
ああ、そうか。だからきっと、あの時僕の話を聞いて、泣いたんだ、まるで自分事かのように。
いつだってこの世界で生きていくには、感情の鈍さが必要で、取り繕って偽る事も必要で、時には気付かぬフリも必要だ。
僕なりにそう思うからこそ、そのうちの何一つ出来ているようには思えない、そんな〝心〟でこの先やっていけるの?
そんな君への大きなお世話でしかない言葉が、僕の心の隅に顔を覗かせる。
まぁなんにせよ、そう思ってしまう限りは、僕は君から目が離せそうにないらしい。
根無し草で気楽に生きて死んだ僕が、こいとの声に、心に応えると決めた時から、きっとこうなることは決まっていた。
そう思って、いつもと変わらない目の前の笑顔に、ただ笑顔を返すのだ。