好き司は時々、ふとした瞬間に思うのだ。
――類は、よく人を嫌いにならなかったなって。
幼い頃から、類が受けてきた言葉や態度を、司はすべて知っているわけじゃない。
けれど、聞いた話や、ふと漏れる記憶の断片、たまに見せる寂しげな目――
それだけで、想像できてしまうくらいには、傷つけられてきたんだとわかる。
悪意の言葉を平然と浴びせる大人たち。
自分より力を持つ誰かに押さえつけられる毎日。
あんなふうに冷たくされて、笑顔の裏にある嘲りを知って、
それでもなお――
類は「人が好き」だと言う。
人とお喋りするのが楽しい、
笑い合える時間が嬉しい、
誰かが喜んでくれると、心があったかくなる。
そんなふうに、当たり前みたいに言える類を、
司は心の底から「すごいな」と思った。
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