ある雨の日。 電車通勤をしている道満は帰り道、家の最寄り駅を出たところで大雨とカチ当たった。こんなに雨足の強い今日に限って傘を持っていない。諦めて上着を頭から被り、鞄を豊満な胸に押しつけて足に力を入れたところで見知らぬタクシー運転手に呼び止められた。
「蘆屋さんですか?お電話で伺った通りの方ですぐ見つけられました」
思わず頬が引き攣るが、にこにこと笑う運転手は何も悪くないので怒れない。丁度道満のスマホに晴からタクシーを呼んでおいたと連絡が入った。
道満は一般家庭育ちだが、同棲している恋人の晴明は不労所得で生活できる絵に描いたようなボンボンだった。
5分と掛からない距離でタクシーを呼ぶのは止めろと前に言ったのにまたやりやがったと、見ず知らずの人のよさそうな運転手の手前抑えたが、内心キレ気味になった。けれども、その時とは違って今日は雨だ。帰っても怒鳴るのは良くないと、乗り込んだ車内で深呼吸する。
982