相性 side.T「あー、笑った笑った!ね、やっぱり昔の動画使うの正解だったでしょ!」
そう言って特徴的な睫毛をキラキラ躍らせるアズサ。暖房の効いた車内から見える都会のイルミネーションが、窓を走り抜けてゆく。
「ハヤトの父ちゃんもだいぶ笑い堪えてたしな〜!アキタは出すの本気で渋ってたけど、ハヤトもあれで緊張解けたみたいだし、やり甲斐あったよな〜!しっかし、よくあんな昔の動画残してたもんだぜ。」
「あら、保存どころか、なんなら当時のあんた達が映ってる動画もまだ公開中よ。量はあるだけあった方がいいの。その方が視聴者も飽きないでしょ?」
「げ!あん時の動画、まだあるのかよ⁉︎……ぶれねぇなぁ、アズサ。」
「むしろなんで知らないのよ、ツラヌキ。チャンネル登録、してないんじゃないの?」
「してるって!中学ん時それでオマエに怒られてるだろ!ちゃんとそっからしてるし見てるから!……たまにだけど。」
タクシーの後部座席にふたり。スーツとドレスの間に、引き出物ふたつ分の距離。
ショッキングピンクのドレスなんてこの歳で……と思わせない程しっくりきているのがなんだか悔しくて、素直には褒めてやれなかった。こっちは未だにスーツなんて着慣れないというのに。
「でもよ、アズサはこの辺なんだろ。残ってアキタ達と飲んでても良かったんじゃないのか?」
「さっきも言ったけど、明日は早いの。それに、せっかくテレビに呼ばれたのに浮腫んだ顔で出られないでしょ。あんたはタクシー代折半できるんだから、ありがたく思いなさいよ!」
まあ、テレビって言ってもBSなんだけどね。そう呟くアズサは、今や正真正銘の 有名インフルエンサー だ。個人のSNSや動画チャンネルが主な活動拠点だが、テレビで見る事も増えてきた。本日の主役、ハヤトが幸せそうで何より!と笑顔で話してはいる。が、こいつはハヤトにくっ付いて、大宮支部の一員と呼べるまでになったのだ。本心は、全くもってわからない。
「ね、ツラヌキ。あんた、ほんっっとにいないの?彼女。」
「うるせぇなぁ……そうだよ。大学生出てちょっとして別れてから、ずっっっっといねーよ。それがなん……」
いつの間に引き出物ふたつ分の距離を縮められていたのか、気付けば目の前にアズサの顔。
自分のはちゃっかり窓際の席に置いたくせに、オレのは下に置くのかよ。
「ね、ツラヌキ。立候補してもいい?」
ミラー越しに見えるのは、帽子を目深に被り、表情の見えないタクシードライバー。フロントガラスはイルミネーションを抜け、もう駅が近いと告げている。
真横には、大人になって かわいい だけじゃなく 綺麗 も手に入れた顔。本当は空気読みの気回し屋のくせして、相変わらず、自分が世界の中心 みたいな顔してる。
「わたしたち、相性いいと思うんだけど……どう?」