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    mondlicht1412

    こちらはいろいろ雑多に

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    mondlicht1412

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    祓本の夏五。
    夏が見た悪い夢。

    #夏五
    GeGo
    #祓本

    【祓本夏五】悪い夢 見慣れた後姿があった。しかしどこか違和感がある。
     無造作に遊んでいる白銀の髪が、きっちり短く切り揃えられきっちり整っている。そしてらしくないスーツを着ていた。お決まりのステージ衣装となっている、黒の上下ではなくて、なんというだったか…そう、いわゆるリクルートスーツ。
    「悟…?」
     半信半疑でその名前を口にする。間違いなく彼だと思うと同時に、まったくの他人のようにも思えて、なんとも奇妙な感覚だった。
     声が小さかったせいなのか、彼が振り向くことはなかった。それがなぜか拒絶されているように思えて、焦りが浮かぶ。
    「悟、」
     さっきよりも大きな声で呼び、同時に何かに突き動かされるように走り寄る。今度は気づいてもらえたようで、ゆっくりとこちらを見た。
     だが。
    「悟…?」
     やはり間違いなく彼だった。この青い双眸は他にはない。
     それなのに、こちらを見る青は困惑で揺れている。口にはしないが、お前は誰だとその目が問うている。
    「あの、すみません、どこかでお会いしましたか…?」
     困り顔も、初対面だと強張って少し小さくなる声も間違いなく彼のものだというのに。なぜそんな他人行儀なのか。
    「五条!」
     私のこと、わからないの。思わず掴みかかって問いただそうとしたとき、遠くから複数の呼ぶ声がした。唐突にぞろぞろと現れた、同じスーツの集団。
     しかしなぜか――顔がない。いや、あるにはあるのだが、認識できない。
     頭が痛くなる。私は、どうにかなってしまったのか。
     しかし彼は打って変わって、ほっとしたような笑みを浮かべ、スーツ集団へ応えた。
     それはいつもなら、私に向けられるはずの表情だ。
    「どうしたんだ?」
    「いや、それが…」
    「あれ、こいつ知ってる。お笑い芸人だろ」
    「そうそう、前テレビで見た」
    「俺も見た!Jー1グランプリ、決勝まで行ってたよな。確か、俺たちと同い年で」
    「なんでここにいるんだ?」
     顔なしたちが、次々と話し出して、ますます混乱する。
     私は確かに芸人で、この前初出場したJー1グランプリでは惜しくも2位に終わった。
     しかしおかげさまでそこから注目されるようになり、テレビ、雑誌、ラジオ――多方面からお呼びがかかって現在進行形で忙しい日々を送っている。アルバイトと小劇場のステージだけだったスケジュール帳はあっという間に黒くなり、休む暇もない。それは間違いはない。
     ないのに。
    「なんだよ、五条知り合いだったの?」
    「言ってくれよ、すげぇじゃん!」
    「違うよ、きっと誰かと間違えてんだ」
     そんな私の隣に立つのは、君だろう?昔から、私より一歩も二歩も先に進んでなおもずっと前を見据えて。それでいてときどきこちらを振り向いて手を差し伸べてくる。一緒に歩く頼もしい相棒で、ともに支えあってきた親友で。
    「やべ、時間だ」
    「行かねぇと」
    「そうだね。あ、あの、知らなくてスミマセン。芸人さん、だったんですね」
     なのに、なんで、他人事のようにそんなこと言うのだ。
    「がんばってくださ」
    「…んで、」
    「は?」
     気づけば、真新しいスーツに包まれた腕を掴んでいた。びくりと身体が震える。
    「なんでそんなこと言うんだ。君は、私の相棒だろう?!」
     一緒にいるのはあいつらじゃない。君は、こちら側の人間だ。目が揺れる。逃げ出そうと身体が動く。
     そんなことさせない。君は、君は…!













    ――――る、

    ――――ぐる、








    「傑!」



     聞きなれた声と、頬を軽く叩かれた感触に目が覚める。目と鼻の先には心配そうに覗き込んでいる顔。
     ――ああ、悟。私の知ってる悟だ。
     思わず腕を伸ばし、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。苦しいと文句を言いながらも、逃げようとはしないことにほっとする。
    「嫌な夢でも見た?」
    「…変な夢だった」
     そして最悪な夢だ。
     悟が、私のことを知らない。そして私を置いて知らないヤツラのところへ行こうとする。そしてなによりも――芸人じゃなくて、私の相棒じゃなかった。
     自分でも驚いた。想像以上にショックを受けている。
     悟と一緒にいられない?あのステージからの景色を、同じ目線で見ることができない?
     そんなこと、そんなこと。
    「傑?」
     訝しげな声に、大きく深呼吸をして、腕の力を抜く。少し寝ぼけた目が見つめてきて、ああ起こしてしまったのかと今更思い至る。
    「ごめん、起こしたね」
    「いや…いきなり名前呼んで掴んでくるから、何事かと思った」
     どうやら夢とごちゃまぜになってしまったらしい。もう一度ごめんと告げて、顔を寄せる。昂ぶった熱はすでに過ぎ去り、今は穏やかな時間が流れている。
    「…ねぇ、聞いていい?」
    「何」
    「もしこの道に進まなかったらって、考えたことある?」
    「…何なの、硝子と同じこと言って」
    「硝子?」
     思わぬ名前にくっつけていた額を離す。硝子とは、高校時代からの腐れ縁の友人で、今は医学部に通っている。
    「中学校の同級生と偶然久しぶりに会ったらしくて、この春から新社会人になってたとか言ってたな」
    「…そっか、私たちってそういう年か」
     そういえばそうだ。新たな道に踏み出した者、すでに極めつつある者、同じ年でも進む道は様々だ。
    「で、なんて答えたの?」
    「――”考えたこともない”」
     ふ、と力が抜ける。たったその一言で。再び頭をぎゅうぎゅうと抱き寄せる。なんなの、マジで。不満を漏らしながらも、やっぱり嫌がることはない。
    「…これからも、よろしく」
    「意味わかんねーんだけど」
     落ち着いたんならもう寝るよ。仕返しと言わんばかりにぐりぐりと痛いくらい頭を押し付けられたあとで、再び横になる。眠かったのだろう。すぐに寝息が聞こえてきた。
     改めて、申し訳ないことをした。明日起きたらまた謝ろう。
     芸人ではない悟。私の相棒ではない姿。もし本人がそれを望んだら、私は受け入れられるだろうか――いや、無理だな。少なくとも、今の時点では。
     嘘をついたって仕方がない。それが、紛れもない本心。
     まあつまりは。


    「こっちが現実で、よかった」
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