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    いなーさ

    @ottonounkohunda

    すたおのSS保管置き場です

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    いなーさ

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    お題ディレナ

     アームロックに立ち寄った一行は、旅の休息も兼ねて自由時間を作ることにした。ディアスが昼寝をする場所を探して街の奥の方へ歩いていると、やまとやの店前の立て看板とにらめっこしているレナを見つけた。
    「……何を百面相してる、レナ」
     声をかけると、レナの顔がぱっと輝いた。
    「あっ、ディアス。ちょうどよかったわ」
     何がちょうど良かったのか全くわからないが、何となく獲物として発見された小動物の気分になる。
    「ここのお店ね、メニューにショートケーキがあるみたいなの。でも他のケーキや飲み物もおいしそうで……。色々食べてみたいけど、一人じゃ難しいなぁって思って」
    「それで俺に付き合えということか……」
    「……ダメ?」
     レナがしょぼくれた顔でディアスのマントの端を掴む。これではまるでダメとは言わせぬ頼み方ではないのか、とディアスは思った。
    「……頼みすぎるなよ」
     レナの頭を軽くポンと叩いて、ディアスは先に歩いて店のドアを開けた。小腹は空いているので、確かにちょうどいい。



    「ご注文は何になさいますか?」
    「えーっと、ショートケーキと、チョコレートパフェと……ねぇディアス、チーズケーキも頼んでもいい?」
    「……好きにしろ」
     心底うれしそうにレナはメニューの品名を店員に向けて指差している。次のページをめくると飲み物の一覧が見えた。
    「喉も乾いたし、何か飲もうかな? ディアスは?」
    「余ったら手伝ってやる」
    「ありがとう……! じゃあ、この“胸のときめき”をください」
    「……お前、どんな飲み物なのか知っているのか?」
     レナは首を横に振るが楽しそうだ。
    「わからないけど……ときめきっていう名前が素敵じゃない?」
     なるほど、こんな幼馴染のような夢見がちな女子が、名前だけで積極的に頼むのだと、ディアスは宣伝方法に少し感心した。店員がメニューを下げて、厨房の奥に声をかける。
    「ハースラワン入りま〜す」
     全ての注文が通じたのを見届けて、レナは頬を緩ませる。
    「ふふ、ここにディアスと来れるなんて思わなかった。昔はよく、うちに来てお母さんの料理、こうして一緒に食べてたわよね」
    「……さあな、覚えていない」
    「私もセシルも、嫌いな食べ物があって残そうとした時、ディアスが言ってたのよ?」
     ───『ほら、せっかく作ってくれたおばさんに悪いだろ。おいしいよ、食べてごらん』
     そう言って、今のように向かいの席に座っていたレナと妹に、直接口に運んでやったら、二人とも一生懸命食べていた。
    「頑張って飲み込んだ後、ディアスがたくさん褒めてくれて、頭撫でてくれて……。私、うれしかったなぁ」
    「そのうち大きくなってきたら、いつまでも子供扱いするなと言って怒ってきたのにか?」
    「もう、やっぱり覚えてるんじゃない!」
     レナの膨れっ面が収まった頃、店員が注文したものを運んできた。
    「お待たせしました、まずケーキ三点お持ちしました。もう一度参りますね」
    「わぁ……! 見てみてディアス、どれも綺麗でおいしそう!」
     この一日で最も瞳をキラキラさせて、レナは手を組んで喜んでいる。ディアスはレナの一番手前にショートケーキを置き直した。
    「失礼しま〜す、続いてこちらご注文の胸のときめきです」
     テーブル中央に置いた飲み物を一目見て、ディアスは言葉を失う。
    「………これって」
     ストローが二本、泡が浮かんだジュースの中に入っている。二本は複雑に絡ませられ離れなくなっている。レナは、二本が中央部でハートを形作っている所を人差し指でつついた。
    「…………これを俺に……飲めと………」
    「……あ、あのねディアス」
      レナが頬を染め、顔色を窺うように小さい声で言う。
    「私、これ恋愛小説で読んだことがあって、ずっと憧れだったの……。一緒に飲んでくれない?」
    「………」
     外堀を埋められている。こんなことを言われたら了解するほかにないだろう。とてつもない抵抗感はあったが、ディアスは渋々頷いた。
    「うれしい……ありがとう」
     レナがニコニコしながらストローに口をつける。仕方ない。ディアスもレナに倣う。ハートの部分が一回転しているので意外と吸うのに力がいる。レナが一生懸命吸っているが口まで届かない。ディアスはグラスを斜めに傾けてやる。前髪同士が触れる。
    「んっ……。わぁ、爽やかでおいしい……!」
     正直なことをいうと、色々な感情が入り混じり味なんてディアスにはわからなかった。レナが満足しているなら良しとする。
    「レナ、時間がなくなる、早く食べろ」
    「そうね。えーと、チョコレートパフェが溶けるから早く食べなきゃ……でもショートケーキも先に食べたいし……どうしよう……」
    「俺がパフェを先に食べる。お前は好きなものを食べたらいい」
    「うん……」
     レナは返事をしたものの歯切れが悪い。チョコパフェを口に運ぶディアスをじっと見ている。もしや、と思いディアスは問う。
    「………少し欲しいのか?」
    「うん……ちょっとだけ…」
     恥ずかしそうに両手を頬に当てる。ディアスはスプーンを追加でもらえるよう、店員を呼ぼうと手を上げるその前に、レナの口があーんと開いたのが見えた。
    「…………レナ……お前それは……」
    「あっ、ごめんなさい! 子供の頃の話してたら昔の癖を思い出しちゃって……」
     レナが我に返り、慌てて口を手で押さえる。
    「…………いい、ついでだ、そのまま口を開けていろ」
     レナは顔を真っ赤にしていたが、じゃあ、と小声で言うと遠慮がちに再び開けた。
    「ふぁ……」
     レナの恥じらった表情と声が、違う方向へ妄想を掻き立てられてしまう。ディアスは脳裏を打ち消すように素早くスプーンを捩じ込んた。
    「……こっちもおいしい!」
    「…………」
     能天気な声に力が抜けていく。
    「あの……良かったらディアスもこっち食べて?」
     ショートケーキが一口分刺さったフォークを、こちらの方に向けてくるのを見て、ディアスは頭を抱えた。
    「……レナ……お前は……」
    「私ね、一回くらいは逆に食べさせてみたいなって、実は思ってたの。お願い、ダメ?」
     小さい頃に甘やかしたツケが今自分に回ってきている。当時の自分を今ほど責め立てたことはないだろう。
    「………もうやらんぞ」
     ディアスはぐい、とフォークを持ったレナの手首ごと掴み、そのままケーキを自分の口へ運んだ。呆気にとられていたレナが、やがてふふっと穏やかに笑う。
    「ねぇディアス、私今すっごく楽しい」
    「俺には苦痛でしかないがな……」
     大きなため息をついた後、ディアスは頬杖をついて窓の外の景色を見ていた。

     一部始終を遠くから見ていた店員が、キッチンに向かい声をかける。
    「店長〜、あれで付き合ってなかったらおかしくないですか?」
    「おかしいねぇ……」
     二人には聞こえない声量で。
     店は客の出入りが少ない、暖かい日の午後のことだった。
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