モブレされたサディがサディルシしようとする話 半透明のモニターに配列された、薄ら白く光る文字盤に音もなく指を滑らせる。時折、振動を伴う低い機械音が響き渡る以外は、一人の部屋は概ね静かだ。
十賢者の潜伏していた辺境の惑星での最後の交戦データを呼び出す。現地人以外と他惑星の人間と、同族で構成された集団だった。何度データをさらっても脅威どころか警戒するにも値しない程度の戦力しかない彼らが、十賢者の計画の不穏分子になることはない。残念なことに。
無味乾燥とした落胆と失望に苛まれながら、それでも私の口からは溜め息が零れ落ちた。機械の駆動音に掻き消されてしまうほどの小さな溜め息だ。そこへ、更に音を重ねるようにけたたましい足音が鼓膜を叩く。廊下からだ。
ミカエルか、ザフィケルか。頭に浮かんだ素体名をすぐに否定する。彼らにしては響く音が軽い。
やがて私のいる部屋の前で足音は止み、厚い扉が軽やかに開く。そこに立っていたのは情報収集用素体のサディケルだった。その立ち姿に、私の眉が自ずと寄る。
情報収集が主だった役目のサディケルは、場合によっては逆に情報の流布や破壊工作なども行う為、市井に紛れても目立たないよう無個性に整った顔立ちの青少年としてカスタムされた素体だ。本来なら耳のある側面に組み込まれた補聴器が更に人々の同情の目を引く絶妙なデザインとも言える。因みに、ランティス博士にこの案を出したのは私だ。我ながら良いセンスだと思う。博士も褒めて下さった。誇らしい。
だが、今こうして私の目の前にいるサディケルはどうだろう。ハニエルの配下として統一された緑色を基調とした服は無残に引き裂かれ、辛うじて身体にまきついている。ところどころ露出した肌には打撲や擦り傷の痕があり、血と、他の何かがない混ぜになった臭いが漂っていた。明らかに異常な出で立ちだ。
「……その無様ななりは何だ」
眉毛を寄せ、吐き捨ててから目を逸らす。博士の頭脳と私の少々の進言という黄金比がこうも崩されているのだ。何と言う侮辱的な冒涜だろう。こめかみを押さえて私は溜め息を吐いた。
「報告しろ……いや、いい。まずはその不快な――」
「路地裏に連れ込まれ、複数人から性的な暴行を受けました」
思い留まった私の声に被せるように、忠実な犬の淀みのない報告を受ける。様々な符号の一致からそのような予感はしていたので、やっぱりかぁという気持ちと、聞きたくなかったなぁ面倒くさいなぁという気持ちとが押し寄せてくる。
だが、顔に出してはいけない。上司なので。
「俗に言うモブレ輪姦というものです」
「言い直さなくて良い」
明朗快活な声音でサディケルは言った。