「ただいまーメビヤツー」
『ビ!』
「ただいまジョーン……? あれ、いねえ。クソ砂だけ?」
「あーっ。おかえりぃ、私のかわいい子」
「は?」
「ほら、こっちにおいで。ぎゅうってさせて」
「は!?」
「ね、ね、はやく」
「な、なにが起きて……」
「君も飲む? ……ああ、ダメか。これ、ブラッドワインだもん」
「……」
「? 来てくれないの。じゃあ私が行くね」
「ちょっ、なに!? なになになに!?」
「あー……ふかふかでツヤツヤ……」
(ジョンの腹毛と俺の髪を間違えてる……のか!?)
「う、嘘だろお前、酔うとそんな派手に間違えんの!?」
「ふふ。私が手入れしてるんだもん。当たり前かあ」
「……」
「好きー」
「……」
「すき。可愛いね。すき。だーいすき」
「……ゔう……っ、このッ! テメエいつまで間違えんだとっとと気付けや!! おらッ! 俺の顔見ろ! 顔!!」
「……?」
「……な、なんだよ」
「見てる」
「へ?」
「見ろって言われたから、見てるの」
「……俺ですけど」
「君だね」
「その、えっと。俺、なので」
「うん。君だ。私のかわいいかわいいロナルドくん」
「……いつから?」
「いつ?」
「テメエ、酔ったフリして俺揶揄ってんだろ! いつ酔い醒めたのかって聞いてんだよ!」
「いつ、だろう」
「……」
「一目惚れだったのかも」
「……ま、まだ酔ってる……?」
「きっと、あの日。君が私の元に訪れた時、恋に落ちたんだ」
「あのぉ……ドラ公さん……?」
「でなきゃ、ここに押しかけたりしないよ」
「……あっそ」
「すき。ロナルドくん、好きだよ。ねえ、君は? 君は私のこと、すき?」
「……」
「……そうでもなきゃ、追い出してるっての」
「そっか。ふふ。そうだよね。嬉しい。私たち、両思いだね」
「らしいな」
「ねえ、ロナルドくん。好きって言って」
「いやだ」
「えーっ。どうして」
「どうせ、明日には忘れてるだろ。今日のことなんか」
「忘れないよ」
「嘘つけ」
「ほんと。ねえ、聞かせて。君の声、で……」
「……」
「……」
「……は? 寝た?」
「……」
「マジで寝たの? ええ……マジ……?」
「……」
「好きだぜ、ドラルク」
「……」
「寝やがったテメエが悪いんだからな」
「……」
「バーカ」
◇
「お前もはや形保ててねえじゃん」
「死んでも死んでも頭痛が治らない」
「それでさっきから死にっぱなしなのか」
「人の形になると頭部が痛む」
「じゃあ仕方ねえな、そこで砂山になってろ」
「ー……気分悪い……」
「ヌヌヌヌヌヌ……」
「情けねえなあ。高等吸血鬼サマが二日酔いかよ」
「うるさいうるさい。君の声、無駄に頭に響く。黙ってて」
「……へーへー。わーったよ」
「──やっぱり覚えてねえじゃん」
「……? なにか言ったか、若造」
「別に。なにも」
『ビッ』
「うわびっくりした! メビヤツ? どうした急に」
『ビ、ビッ』
「なに映し、て……」
『すき。ロナルドくん、好きだよ。ねえ、君は? 君は私のこと、すき?』
「ヴァーーーーッ!?」
「ヌヤン♡」
「メビヤツ!? お前っ、こ、これっ!?」
『マジで寝たの? ええ……マジ……?』
「ーーッ!! だめ! メビヤツダメ! ストップ!! とめて!!」
『好きだぜ、ドラルク』
「……う、うう。違う、違うんだドラルク。これは……あの……」
「……」
「ヌーヌ?」
「やだ」
「ヌ!?」
「は? クソ砂、テメエ今なんつった」
「やだーっ!!」
「──ッ、そう、かよ」
「こんな適当な告白するつもりはなかったんだ!!」
「俺のことなんか、って……えっなに、告白?」
「ヌー」
「君からの返事だってスピーカー越しなんかじゃ嫌だッ!」
「砂山が蠢いてる……」
「ヌヌヌヌ」
「やり直しさせて……お願い……」
「……」
「今日はちょっと無理だけど……頭痛くて……でも明日……いや明後日には……」
「……っ、ふは。ざーこ。クソ砂の虚弱ヤロー」
「なっ、なに。ダメ? 今日告白しなきゃ断られるやつ??」
「いいや、待ってやる。何日でも、何年でも」
「ロナルドくん……!」
「ヌヌッヌヌ、ヌヌヌヌヌヌ!」
「うん……! 良かった! 良かったよ、ジョン!」
「ヌー!」
「あと、ついでに。先に返事しといてやるよ」
「返事? 告白の!?」
「ああ」
「喜んで、ってな」