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    クルリ

    @rice_kajii

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    クルリ

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    pixivにあげたものの全年齢版です(後半の18指定部分カット)

    隣に立つ【隣に立つ】

     久しぶりの町だ。
     天の助ははしゃぎながらOVERの周りを走り、「鬱陶しい」という理由で鋏の餌食にされた。ルビーや蹴人、三文明は見慣れた光景にもう何も言わない。
     OVER城の面々は、ガンプとおちょぼ口君に留守を任せ外へと出てきていた。城にいてばかりではルビーや蹴人が飽きてしまうためである。日用品も買わなければならない。
     普段、こういった買い物などは、三文明に任せている。今回もOVER自身は城に残ろうとしたのだが、ルビー、蹴人、そして当然のように一緒に行こうとしていた天の助によって無理やり連れだされたのだ。
     活気のある大きな町だ。休日を楽しむ人々で賑わっている。今OVERらがいるのは、噴水のある中央の広場である。休憩する家族、噴水を眺めるカップル、人を集める大道芸人、平和を絵に描いたような光景だった。

     OVERは噴水を背にし、部下を集めて伝達する。
    「いいか、2時になったらまた公園に集合だ」
    「はーい!」
    「分かりましたOVER様!」
     満点の返事をするルビーと蹴人。
    「引率の先生みたいだな」
     余計なことを言う天の助。
     鋏を振りかぶるOVER。
     集まる視線。
    「お、OVER様!では、我々はそろそろ行きますね!」
    場をとりなすように黄河文明が言ったのを皮切りに、必殺五忍衆はそれぞれの目的地へと動き出した。

     広場に残されたのは、腕を組む城主と鋏に貫かれたところてんだ。大きな鋏を持つ鋭い目の男と、鋏に貫かれる青い生命体。異様な雰囲気に、そこだけ人が寄り付かない。
    「なあ、三バカ文明はともかく、ルビーとか蹴人は一人で大丈夫なのか」
     天の助は疑問に思っていたことを口に出す。
    「アイツらは曲がりなりにも必殺五忍衆だ。その辺の有象無象に遅れを取る奴等じゃない。それに、何かあったときの連絡手段は持っている」
    「そういや忍者だったな一応」
    「納得した~」と気の抜けた声を出す天の助。
    OVERはそんな天の助に何も言わず、彼に刺さっている鋏を消す。そして、五人が去っていった方向とは反対側へと歩いていく。
    「え、ちょ、置いてくなよ! おい待てってOVER!」
     自由になった天の助は慌てて彼を追いかける。
     彼らを見つめる目に、天の助は気づいていなかった。


    ***


    「ねー、どこ行くのさOVER」
     広場を抜けたOVERはそのまま町を出て、森の中へと入っていってしまった。一応道はあるものの、この先に何かがあるとは考えにくい。果たしてOVERはどこへ向かっているのか。今更引き返すこともできない天の助は、そのまま彼についていく。

    「……お前、外に行きたがってたじゃねえか。何かしたいことがあんじゃねえのか」
     暫く歩いたところで、今まで無言だったOVERが漸く口を開いた。しかし歩みは止めない。奥へ奥へと進みながらの言葉は天の助の疑問に対する答えではなかったが、受け取った彼は律義に考える。
    「いや、確かに外に行きたいとは言ったけどさ、まさかOVERが別行動するとは思わないじゃん」
    「?どういうことだ」
    「鈍いなー!」
     天の助は空を仰ぎ叫ぶ。馬鹿にされていると思ったのかOVERは鋏を構える。

    「うわ早まらんといて!違うって、おちょくったわけじゃなくて!だからさ、オレはOVERと一緒に買い物したかったの!」
    「……」
    「お前全然外でないだろ。たまには……その……デートとか……もいいなと思って……」
     途中で恥ずかしくなったのか、顔を赤らめながら小声で呟く天の助。つられてOVERの耳もすこし赤らむ。しかし天の助はそれに気が付かなかったようだ。
    「そうか」
    「言わせといて何だよその淡白な反応は!というかいい加減どこに向かってるのか教えてってば!」
     横で叫ぶ天の助。大声に鬱陶しくなったのか、OVERは立ち止まってその頭を乱暴に掴んだ。

    「痛え!!」
    「少し静かにしてろ。……お前、気が付かなかったのか。」
    「は?何が」
     OVERの手を無理やり振りほどき、天の助はOVERを見上げる。いつになく真剣な顔だ。ここにきて漸く天の助は、OVERがただ闇雲に森へ入ったわけではないことを知る。

    「広場で、何者かに見られていた」
    「え、それって……」
    「狙われているのは俺だ」
     淡々と事実を述べるOVERに対し、天の助は驚きを隠せない。
     そんな天の助の様子を一瞥し、OVERは周囲をぐるりと見渡す。
    「広場で明らかに俺達に向けられた視線を感じた。敢えて黄河達とは別方向に歩いてきたわけだが、気配が無くならないところをみると狙われているのは俺ということになる」
     何も言えない天の助に、OVERは簡単に経緯を語る。

     元とは言え、OVERはマルハーゲ帝国の四天王だった男だ。彼を討ち取ることで自身の力を証明しようとする者や、かつての報復を図る者など、未だに彼を狙う者は多い。
     三世が消えた後も、マルハーゲ帝国の残党や、帝国の後釜を狙う勢力による争いが後を絶たない。OVERはそういった争いの場に現れて両者を潰して回っているのだ。決して正義感からではない。自身の凶暴性を発散するためだ。何者にも縛られなくなったOVERは、気の向くまま戦いの場に降り立ち、圧倒的な力でもって周囲を切り刻むのである。

    「狙われて当然じゃねえか馬鹿野郎!」
     OVERの話しが終わるやいなや天の助が叫ぶ。「そんなことしてたのかお前」と息巻く彼をよそに、OVERは耳を澄ませ周囲を探る。鼻がひくりと動く。
    「そろそろ来る頃か……火薬の臭いはしねえが人数が多い。よくもまあこの短時間でこれだけ集めたもんだ」
     「ギギギ」と笑うOVER。特徴的な笑い声は興奮した時の彼の癖である。随分と楽しそうな彼とは対照的に、天の助はここまでついてきた後悔を隠そうともしない。
    「うわー!!嫌だー!!オレもルビーたちについていけば良かったー!」
    「ここまで来たんだ。お前も手伝えよ、天の助」
     「俺とデートしたいんだろ」と笑えば、顔を真っ赤にして天の助は叫ぶ。

    「嫌だー!!」

     情けないところてんの叫び声が、戦闘開始の合図となった。

     周囲の木々がざわめき、こちらに迫ってくる足音が聞こえる。
    「足音が聞こえる時点で雑魚だろうが、人数が多いと木が邪魔だな。移動するぞ。スピード重視でな」
    「『スピード重視』ってことは……あれをやれってことか……?」
    「そういうことだ。来るぞ」
     OVERと天の助が何か仕掛けると踏んだ敵が、一気に包囲網を狭める。隠すことのない相手の殺気が天の助にも感じ取れた。しかし、それよりも、隣に立つ男の研ぎ澄まされた殺気のなんと心地よいことか。共に並び立てばこんなにも心強いのかと、天の助は心を決める。
    「あーもう!わかったよ!乗れ!OVER!」
     地面に腹ばいになる天の助に、躊躇いなく乗るOVER。重心を前に傾け、真っすぐ前を見つめる。

    「舌嚙むなよ…!行くぜ!プルプル真拳奥義『ところてんジェット』!!!」

     途端、天の助が加速し森を駆ける。平坦な道でもスノーボードのように滑走することができる、寒天状の身体をもつ天の助ならではの技である。かなりのスピードが出ているが、OVERは風圧にも速度にも動じることなく天の助の上で鋏を構える。
     彼らを囲んでいた敵はこのまま逃がしてなるものかと慌てて追いかける。やっと城から出てきた獲物だ。ここで逃がすわけにはいかない。しかし、元Aブロック隊長と元マルハーゲ四天王の相性は抜群だった。男たちは2人の速度に全くついて行けない。よしんば先回りして追いついたとしても、この技の凶悪な効果の餌食になるのであった。

    「おいOVER!前方、何人か待ち伏せしてるぞ!」
    「構わねえ、突っ切れ」
     OVERの声に、「OK!」と威勢よく声を上げ、天の助は速度を上げる。いつの間にか黒いサングラスをかけた天の助からは、先ほどまでの後悔は消えていた。
     斧、刀、鎖など、様々な武器を持って二人を迎え撃とうとする敵の姿を視認し、OVERが鋏を振りかぶる。
    「極悪斬血真拳+プルプル真拳協力奥義!『極悪斬撃ジェット』!!」
     すれ違いざまに高速で放たれる斬撃。巨大な鋏の煌めきは誰にも捉えることができない。寄せ集められた強力な武器もまるで歯が立たない。前方で待ち伏せしていた者は一瞬のうちに無力化されていった。

     成す術もなく蹴散らされる敵を尻目に、天の助が興奮した声を上げる。
    「すごいぜ!オレたちの力にかかれば楽勝だな!このまま逃げ切れるんじゃねえか」
    「はあ?何言ってんだお前」
     OVERが足に力を込める。悲鳴を上げる天の助。
    「痛い痛い痛い!砕けちゃう!なにすんのよ!」
    「禍根は断ち切っておくのが筋だろ。放っておくのは性に合わねえ」
    「んまー!OVERちゃんの脳筋!ケツアゴリラ痛ててててて!!!」
     OVERは、再び強く天の助の背中を踏みつけ彼を黙らせる。

    「とりあえず木が邪魔で何人いるのか分からねえ。逃がすのも癪だ。広いところに出るぞ」
     OVERは鋏を振るって飛んできたモーニングスターを弾き返し、平然と言葉を続ける。
    「水の音が聞こえる。川沿いなら幾分か開けた場所もあるだろ。そのまま真っすぐ進め!」
    「チクショー!わかったよ!」
     天の助は自棄になりながらも目的の場所へと急ぐ。


    ***


    「着いたぜOVER。ここならいいだろ」
    「ああ、視界が開けて相手もよく見える。問題ねえ」
    「まあその分オレたちも狙われ放題なんだけどな」
     「やれやれ」と両手を広げ、周囲を見渡す天の助。幅の広い川が流れているため、周りは砂利や石が転がる開けた河原になっている。そして、自分たちが出てきた森の方からは、何やら追手の気配。

    「あのスピードで諦めてくれるかと思ったらそうでもないな……どんだけ恨まれてんだよお前……」
    「うるせえ。全員返り討ちにすれば問題ねえだろ」
     腕組みをして相手を待ち構えるOVERと、その陰に隠れる天の助。
     気が付けば、2人は再び囲まれていた。

    「やっちまえ!」と威勢の良い声を合図に、木の陰から一斉に敵が現れる。それぞれに武器を持ち、一直線にOVERへと向かってくる。
    OVERは鋏を出現させると高く跳躍し、全体を捉える。恐らく敵は40人から50人ほどだ。一人一人の戦闘力は毛狩り隊隊員とさほど変わらないだろう。しかし、銃などの飛び道具を持つ者も多数おり、まともに戦えば時間がかかる。
    ――中心で鋏を振り回して的になるより、ここは距離をとる方が得策か……

     OVERは再び天の助の傍に着地すると、鋏を構える。
     その姿を見ていた天の助は、OVERが飛び道具を危惧していることを察する。中心に降り立って鋏を振るった方が、OVERにとって効率がいいのにそうしなかったのが証拠だ。彼は「うぅ~~」と唸ると、覚悟を決めたようだった。

    「あー!もう!こうなったらやるしかねえ!」
     天の助がすかさず体を変化させる。大きな球状になった彼は叫んだ。
    「OVER!思いっきりやれ!」
    「! おう!」
     天の助の言葉を受けたOVERは鋏を振りかぶり、彼の身体を撃つ。

    「極悪斬血真拳+プルプル真拳協力奥義!『球砕斬』!!」

     OVERの鋏に勢いよく撃たれた天の助は、細かい破片となり弾丸のように敵に襲い掛かる。ボーボボが天の助で繰り出す「ところてんマグナム」を応用した技だ。球状になることで、鋏で射出しやすく、広範囲に攻撃を当てることができるのだ。
    前衛にいた飛び道具使いたちは弾丸のようなところてんの餌食となり、成す術もなく川へと落ちる。
    「……やるじゃねえか」
     OVERはニヤリと笑うと、鋏を振りかぶり突撃する。これで気兼ねなく暴れまわることができる。

    「極悪斬血真拳超奥義!『デスサイズカッター』!!」
     強く地面を蹴り、周囲のものを見境なく切り刻むOVER。接近戦であれば、彼の奥義の右に出るものはそうそう無いだろう。多くの悲鳴を吸いながら、巨大な鋏は戦場を踊る。

    「……って、オレまで巻き込んでんじゃねえか!」
     先ほどの「球砕斬」から天の助が復活してみれば、戦場はすでにOVERの独壇場だった。
    2人の狙い通り敵の数を減らすことができたようだ。それはなによりである。しかし、縦横無尽に暴れまわるOVERの奥義のとばっちりを受けてしまうのは不本意だ。実際、くっついたばかりの身体が再び分断されている。いくらすぐに復活するとはいえ、このままでは再生する間もなく切り刻まれ続けてしまう。

    ――まあ、オレがいなくてもあとはOVERちゃんがどうにかしてくれるかな。 
     天の助は戦いの中心から少し離れることにした。敵の狙いはOVERなのだ。彼が中心にいる以上こちらには誰も目を向けない。少し高くなったここは河原の様子がよく見える。敵も残りわずかだ。隊長級の手練れが残ったようだが、もうすぐ決着も着くだろう。
     そのとき、ふと違和感を覚えた。
    ――もし、自分がOVERに恨みを持つ立場だったら、これで終わりにするだろうか……
     OVERが城から出るのを決めたのは今日だ。それなのにこの戦力を集めることができている。10人、20人ならともかく、最初に振り切った敵も含めて50人以上を急に集めるのは流石に無理があるだろう。常にOVERの動きを把握されていて、この戦力もずっと前から準備していたものだとしたら、OVERにすぐ倒されることを想定していないのはおかしいではないか。

     天の助はハッと顔を上げる。OVERはやっと引きずり出した少しだけ骨のある相手に集中している。これが、この状況が目的なのだとしたら……
     天の助は顔を上げて何かを探す。そして、自分の予想が当たったことに愕然とする。さらに、OVERが最後の敵を倒そうとしているのを見て、時間が無いことを悟った。天の助はバネのように勢いよく立ち上がると、OVERの元へと駆ける。

    「OVER!避けろ!」
    「な!?」
     天の助がOVERを突き飛ばしたのと、パシュと軽い音がして天の助に何かが刺さったのはほとんど同時だった。
     狙撃だ。
     OVERは反射的に何かが飛んできた方向に鋏を投擲する。命中。断末魔が上がる。
     狙撃手を一撃で倒したOVER。しかし今はそれどころではない。OVERは自身を突き飛ばした天の助を振り返る。
    「天の助!」
     彼は地面に倒れ伏したまま、微動だにしなかった。背中に何やら透明な小さな鉛筆のようなものが刺さっているのが見える。そして、謎の物体が刺さった個所から、じわりと彼の半透明の体に混じる黒い液体……

    「クソっ!失敗か!」
     OVERの後ろで、それまで戦っていた男が吐き捨てるように叫んだ。そこでOVERは、敵の目的がその薬品を自分に撃つことだったのだと悟る。人数が多いが雑魚ばかりだったことにも合点がいった。OVERが戦いに集中していれば戦力はどうだって良かったのだ。
     
     OVERの怒りメーターが発動した。
     周りに転がる仲間を見捨てて逃げようとする男に対し、怒りを原動力にするOVERは一切容赦をしない。
     一度の跳躍で男の目の前に着地をする。「ひっ」と息をのむ間に、OVERは男を地面に押さえつけ鋏を当てる。一瞬の出来事であった。
    「おい!てめえら何を撃った!」
     純度の高い怒りと殺気を隠そうともしないOVER。巨大な鋏を突き付けられた男は抵抗することもできず質問に答える。
    「び、媚薬だ……!」
    「……媚薬だと?」 
     予想外の答えにOVERの眉が吊り上がる。怒りに満ちた目で睨まれ、男は恐怖のあまり言葉を詰まらせる。
    「……あ、お、お前が悪いんだ……!お前さえいなければ俺達の組織は勝てたのに……!」
     男はOVERへの恨みを思い出したのか徐々に饒舌になっていく。正攻法では勝てない。しかしこのままやられて終わりでは組織の面目も保てない。そして、今回の計画では、OVERに高濃度の媚薬を撃ちこむことで彼を辱め、あわよくば彼を狙う他組織に売る計画だったことを明かした。
    「用意した薬はお前のために濃度の高いものを用意した!今頃お前の仲間は地獄の熱で苦しんでいるだろうさ……!」
     どうやら最後に残ったこの男はこの計画の主犯だったらしい。OVERは男の背中を踏み潰すことで一度黙らせる。
    「下衆共め」
    「ほんとにな!」
    「!?天の助!」
     いつの間にか隣に立っていた天の助に、OVERも男も驚く。

    「馬鹿な!あの薬を喰らって平然としているだと!?」
     「いやそんなはずは」などと呟きながら酷く混乱する男。情報とは異なる様子に戸惑うOVER。
    「お前、今の話聞いてたよな。大丈夫なのか」
    「いや、別に平気だけど」
    「……そうか」
    「食品だからかなー!なんか体に入ってきたときはびっくりしちゃったけど、今は全然何も感じないわ」
     あっけらかんと笑う天の助。黒い液体が混ざっていたようだが今は影も形もない。
    「……そうか」
     天の助の体に関して真面目に取り合う方が難しいのだ。OVERは改めて男に向き直る。

    「これでてめえも仕舞だな」
     しかし、絶体絶命の状況にも関わらず、男は先ほどとは異なり余裕の表情を見せる。
    「まだだ!俺達はまだ終わっちゃいねえ!てめえらが話しているうちに最後の手段を使わせてもらったぜ」
    言うと男は口から小さい機械のようなものを地面に向かって吐き出す。嚙み砕かれた形跡のあるそれに、天の助が顔を近づける。
    「何これ」
    「これは小型の発信機さ!この発信機の信号が切れたら、こちらでの作戦が失敗したことを意味する。その場合は最終手段としててめえの部下を人質に取らせてもらうことになってんだよ。今頃俺の手下共が貴様の部下を捕えてる頃だろうさ」
    「ほう」
    「てめえの部下の中には子供もいたよなあ!余裕でいられるのも今のうちだぜ!」
     天の助は、まさに雑魚のセリフだなあと思ったが言わないでおいた。

    その時、OVERの腰から軽い電子音が流れた。通信機だ。OVERは手慣れた手つきでスイッチを入れる。流れてきたのは天の助も聞きなれた声だ。
    「あ、OVER様。オレです。黄河文明です」
    「なんだ」
    「買い物中に輩に襲われたので、一応返り討ちにしておきました。我ら必殺五忍衆は全員無事です。もしかしたらOVER様のところにも現れるかと思い連絡した次第です」
    「ご苦労。俺のところももう終わった。ただ、2時までには戻れそうもないから少し待っていてくれ」
    「畏まりました」
     通信が切れる。

    「まあ、そういうことだ。諦めな」
     OVERは、青ざめる男に鋏を突き付けて宣言する。
    「GAME OVERだ」


    ***


    「いやほんと、災難だったな今回は」
    「全くだ……」

     OVERと天の助は顔を見合わせる。
     ここはOVER城の浴場である。一度に10人ほどが入れる広さの湯船には、現在OVER一人が浸かっている。天の助は湯の熱で溶けてしまうため、タライにぬるま湯をはりそこに入っていた。

     天の助はひたひたと半透明の手で湯を弄びながら、今日のことを考える。
     とても濃い一日であった。まさか敵対していたOVERと自分が共闘するとは思いもしなかった。
     目の前に立ちふさがるOVERではなく、隣に立つOVER。元マルハーゲ四天王で、凶悪で、下手なこと言うとすぐに切り刻んでくるその男が、隣にいる。それなのに、こみ上げてくるのは恐怖ではない。頼もしさや、ドキドキするような高揚感、そして、そんなOVERを好きだと思う気持ちだった。
     30年以上売れ残ったところてんは、食べられること以外の幸福があることを知った。

    「……OVERちゃんさあ」
    「なんだ?」
    「オレ、ここに来て、OVERと一緒に喋って、一緒に戦って、一緒にいろんなことして……今すごく……幸せだなあと思ってるよ」
    「……そうかよ」

     それ以上の返事はない。しかし天の助は満足だった。

    ――こんどこそ、ちゃんとデートに誘ってみよう。
     果たして彼はどんな顔をするだろうか。
     目を反らすだろうか。起こるだろうか。それとも……

     天の助はその答えを知るために、口を開いた。
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