ハグの日 赤い髪、赤い瞳。魔法界では確かに珍しいが、魔法に関わっている。珍しくもないと言うと不思議そうにしていた彼女を思い出す。まあ、目の前に居るんだが。マグルが見ればそりゃ、驚きだろう。俺からすれば面白いもんだと思うけど。
さあ、そんな彼女──レイラは今、俺と相棒の目の前でモジモジしている。あまりお目にかかることの出来ない場面に、相棒と目を合わせ少しばかり肩を竦めてみせた。
どっちが俺かって? そんなことはどうだっていい事さ。問題はそんな小さな事じゃない。
「……え、と……その……」
先程からずっとこれだ。顔を赤くしたかと思えば険しい顔になったり、泣きそうになったかと思えば怒ったような顔になったり。いつもよりコロコロ変わる表情は、かなり面白いし飽きない。ずっと見てたいところだが、ずっと目の前でこうされてちゃ気になるのが男の子ってヤツさ。
最初は俺も相棒も悪戯でも仕掛けられるのかなんて考えたが、彼女はそれなりに俺達から悪戯の心得を教わっているし見続けている。楽しそうな顔をしてしまう事はあっても、基本的に隠すのは上手い。
「なあ、レイラ。そろそろ君の目的を教えてくれても良いかい?」
「その姿を見てるのは俺達にとっては、喜ばしい事なんだけどな」
「ああ、そりゃもう」
「ただ、君の珍しい目的が気になって仕方がないんだ」
俺達の言葉にレイラは目を合わせるものの、すぐに逸らしてはぎゅっと、目を瞑った。お、可愛い。
制服のスカートを握り締めたレイラは、勢いよく息を吸い込んだかと思えば両手をバッと広げた。
「……ハグするわよ!」
「「なんだって?」」
当たり前のように声が揃う俺達なんて今更気にもしないらしいが、どうやら想像通りの反応だったらしく少し、ムスッとした顔をしている。
所謂、照れ隠しだ。レイラに関して俺達は何だって分かるさ。ちょっと人に誤解されがちなレイラだが、大体こういう顔してる時は照れている時が多い。そんなレイラも勿論、可愛いし頬が緩んでしまうのが分かる。きっと今ユルユルしてるかもしれない。ついでに言えば、隣の相棒の表情もユルユルだ。俺も全く同じ顔してるのかと思うとちょっと笑える。あ、睨まれた。
そろそろ本当に怒ってしまうかもしれないので、ちゃんと問い掛けておく。怒ってても可愛いし、面白いんだけどな。
「で、レイラがハグしたいなんて珍しいこと言うなんて、どうした?」
「……何よ、嫌ってこと?」
「そんな訳ないだろ。そりゃ、俺達はもう大喜びさ! 今すぐにでもくそ爆弾撒き散らしたいくらいにはな」
「それは遠慮してほしいわね……」
「まあ、それは後でってことで……普段そういうこと言わない人間が、唐突に言うと驚くだろ? 理由が知りたいなんて思うの普通の反応だと思うぜ」
「……そ、そうよね……」
レイラは少し考えたフリをしては、口を開く。俺達はレイラの言葉に頭を抱えたくなった。
「……ま、マグルではね、その……ハグすると元気になるって言うの……さ、最近、二人とも忙しそうにしてるし、ちょっと元気無さそうだったから……ほら、ハグすれば、ちょっとは元気になるかな、って……」
ああ、困った。本当に困った。この可愛い恋人には困った。なあ、相棒。お前もそう思うだろ。うん、同じ顔してるな。