朝ちゅんマホロアに「ワドルディから美味しそうなお菓子貰ったんだけどボク甘い物好きじゃないしマルクが食べてくれない？」とお願いされたから、マルクは嬉しそうに自分のココアとマホロアの珈琲を淹れていた。お菓子はラングドシャとベリーパイ。どちらもマルクは大好きなお菓子だ。飲み物の準備が整い意気揚々とマホロアの元に運んでいると、いきなりくんっと足首を掴まれる感覚がしてマルクは転んでしまった。バシャリと色の濃い飲み物があたりに溢れ散る。マホロアは「あっ」と短く悲鳴を上げた。ローアの操作パネル周辺に置いてあった彼の書きかけの論文を汚してしまっていた。
「ごっごめんなのサ！」
「…あーあ、コレ提出しなきゃいけない論文だったんだケド…。また書き直しカァ…」マホロアはガッカリしながら辺りを魔法で片付け始める。そういう細やかな魔法をマルクは上手く扱うことができない。マルクは謝ったもののまだ許されていないように感じて焦る。どうすればいい？どうしたらマホロアの怒りを解くことができる？マルクは友人を失うことを何よりも恐れていた。
「マ、マホロア…ごめん、なさい…。許してちょーよ、何でも…するから」
マホロアの瞳を直視できず床を見つめながらマルクは小さく再度謝った。片手に爪を食い込ませる、義手だから痛みは感じないが。
「…ヘェ、じゃあボクのお願い聞いてクレル？」
マホロアは暫く無言で何か考え込んだ後、マルクに微笑みかける。
「ボク、なんだか疲れちゃったナァ」

気がついた時にはもう朝で、ベッドの上で寝ていた。隣に体温を感じる。少し衣装をはだけさせたマホロアがマルクを抱きしめてスヤスヤと眠っていた。かくいうマルクもリボンは床に投げ捨てられ、ブラウスのボタンはほとんど外されている有り様だった。マホロアにぎゅっと抱きしめられていて苦しい。少し身じろいだらツキツキと下腹に痛みを感じた。腕や太腿を見遣ると点々と赤い痕が花弁のように散らばっている。
「…う、痛い…」
マルクはあの後マホロアに体を求められた。グリルの顔がちらつき本当は嫌だった。青い顔をして中々答えられないマルクは、マホロアの「何でもするって言ったジャン」という一言で逃げられないと悟り、重たい首を小さく縦に振った。痛かった、怖かった。外側からも内側からも侵食されていく感覚に狂おしいほどの恐怖を、でも自分の蒔いた種であり逃げることなど許されない状況に悲しみを抱き、マルクは耐えるようにぎゅっと両目を瞑った。しかし生理的に漏れてしまう声と涙を止めることはできなかった。自分の声が脳裏に焼き付き嫌でも思い出してしまう。
「…マルク、起きたノォ？おはよう、マルク」
目を覚ましたらしいマホロアが、微睡む猫のようにとろんと甘えた表情と声音でマルクに語りかける。
「昨日のマルク、可愛かったヨ」
マホロアは微笑みマルクの柔らかな髪を優しく撫でた。やはり夢じゃなかった。ボクは、ボクは…グリルに顔向けできないことをしてしまったのではないか？マルクの両目から昨夜枯れたはずの涙が滴り落ちた。



　マルクはなんて愚かで哀れで可愛いそうな子なんだろう。嬉しそうに珈琲を持っていたのに何も無いところで盛大に転んで、ボクの論文を汚して、自分で自分の首を締め上げて。ボクが少し怒った雰囲気を出したら怯えて自分の体を差し出してくれた。ボクはマルクが欲しかったから、アイツから奪ってやりたかったから嬉しくて、恐怖と悲しみで塗れたマルクの表情を堪能しながらその小さな体を蹂躙した。あまりにもショックだったのかマルクが途中で気を失ってしまったから、その隙にたくさん体の至る所に痕をつけてあげた。目を覚ましたマルクはさらに悲惨で、自分の体を視認した途端トイレに駆け込み嗚咽を漏らしながら吐いていた。「グリル…グリル…」とアイツの名前を呼びながら泣いていてイライラしたから、ベッドに連れ戻して汚れた論文を見せつけてあげた。自分の罪に顔を青ざめさせるマルクは、ボクに従順でとても可愛い。「許して…許してちょーよ、マホロア…」シーツに小さな水溜りを作りながら懇願するマルクはとても滑稽で可愛くて可哀想だった。