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    nyanpiyo_fumetu

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    nyanpiyo_fumetu

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    過去にTwitterに上げたカハクSSの再掲。第二章。カハ最後のシーンを題材にしているので、悲しくて辛いという方はごめんなさい…🙏軽いカプ表現あります。

     #2 echo
     
     僕は何もない空間を必死で駆けていた。
     最後、一目フシに……、会いたかった。
     恐らくフシはあの酒屋にいるだろう。あの場所に意識を集中する。椅子にもたれかかるフシの姿を遠くに捉えた。その隣には……、懐かしい姿のボンが見えた。
    「ボン……?」
    ボンは僕の姿を見つけると目を見開き叫んだ。
    「カハク⁉︎ お前⁉︎ 待て、フシ! まだだっ……!」
     ボンは慌てふためいた様子でフシに呼びかけたが、叫び声と共にフッと消えた。ボンが……。なるほどそういうことか……。
     あの粉砕場に復活したカイが現れた時、何故か分からなかった。僕が全て奪ってしまったフシに、何故そんなことができたのか。しかし、ボンが霊体としてここにいたとなれば。彼も僕と同じくフシのために命を投げ打ったのだ。
     彼もまた……、フシのためなら命の惜しくない人間だった。悔しいけれどレンリルに勝利がもたらされたのは彼のお陰と言える。恐らくボンは……、僕とフシの間にいずれ起きることを、ある程度予想していたのだろう。だが、何も言わずにいたのだ。ボンには頭が上がらない……、と思ってしまった。
     
     フシは少年の姿に戻っていた。フシから奪った器を返すことができたようだ。良かった、これでもう僕の役目は終わりだ……。しかし、ほっと胸を撫で下ろすこともできない。
     フシは眠っているようだった。無防備な、小さな子供の様な寝顔。レンリルに向かう途中エコと三人で過ごした時のフシ。この酒屋で疲れ切って眠っていた時のフシ。僕はいつも、フシの寝顔を眺めいていた。せめて幸せな夢を見て欲しいと。
     いつもと変わらない、無垢な寝顔だ……。
     足元を見ると、同じ様に眠っているマーチの姿があった。何故だろう、彼女は生き返ったはずではないのか? 何故ここに……。
     マーチがフシを救おうと必死に叫んでいる姿は忘れない。僕は彼女のお陰で自分を取り戻すことができた。
    「ありがとう……。マーチさん」
     彼女の前に膝をついて死を悼む。
     過去の僕達一族が犯した過ちも……、あなたに謝らなくてはならない……。
     ふと僕の背中をトントンと叩くものがあった。驚いて振り向くと悲しそうに微笑むエコの姿が見えて驚いた。
    「エコさん⁉︎ 」
     エコはいつもと変わらず明るく微笑んでいた。でもエコは……、生きていない、僕が見えている訳だから……。まさか……。 
    「あなたが、あなたが亡くなるなんて……。間に合わなかったのか……、僕のせいだ! あなたが死ぬ必要なんてなかったのに、ごめん、ごめんね……」
     僕はエコをぎゅっと抱きしめた。
     エコは微笑みながら優しく僕を押し戻すと、ぼくの手に自分の手を合わせた。エコの思い描くイメージが伝わってくる。そうか、今なら望めばエコの言いたいことがわかるのだ。
     フシとみんなが食事を囲んでいる。
    「おれの夢はね、みんなの夢を叶えることだよ……、おれは皆を平和な世界に連れて行きたいんだ……」
     エコはニコニコとして僕の服の裾をクイと引っ張った。僕に待てというのだろうか。
    「エコさん、あなたは待つのですね。フシの作る平和の世が来るまで……」
     今度は嬉しそうに大きく頷き、また裾を引っ張る。ウンウンと嬉しそうにするエコを見ていると、
     ……僕は、ここで待てば、またフシに会えるのだろうか……?
     しかし、本当にそれでいいのだろうか。人の尊厳は、フシの人間性はどうなる? それに、恐らく僕は歓迎されないだろう。僕はまた……、フシを傷つけないとも限らない。自信がなかった。僕が生き返ったら左手はどうなるのだろう……。確証がなかった。
    「フシ……、僕はもう……」
     僕はフシのすぐ傍に立ち、頬に触れようと右手を差し出す。しかし触れているという感覚は乏しい。そして、短く口付けする。やはり、以前のような感触はなかった。
     あのキャンプの夜のことが脳裏に浮かぶ。抱き寄せたフシの舞い散る黒髪は、月明かりで艶やかに輝いていた。思えばあの頃から僕はフシを傷つけてばかりだ……。
     そして、フシと最後に会ったあの時。
     琥珀色の透き通る瞳の中に、恍惚とした僕の姿が見える。フシはフシの形が無くなるまで、僕のことを見つめ続けていた……。
     ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
    「一緒にいたかった、ずっとあなたと……。僕を許してください。あなたを傷つけてしまった……。あなたを守るという約束を果たせなかった。ごめんなさい……。うっ…うう、ごめんなさい……フシ……」
     フシの足元にうずくまりとめどなく涙を流した。しかし、僕の涙で彼の膝が濡れることはけしてなかった。水滴はゆっくりと落ちて、やがて空気に溶けて無くなった。
     エコはそっと僕に寄り添った。生身の人間のような感覚はないが、暖かい心地だけは伝わってくるような気がする。そうだ、こうして僕のせいで悲しい思いをする人がいるのだから泣いてばかりはいられない……。決断の時だ。
    「エコさん、僕は行かなければ…… 」
     エコはびっくりした顔で僕を見上げる。さっきより強く裾を引っ張る。恐らくここに残れと言っているのだろう。
    「かは!」
     突然エコが僕の名を呼んだ。思いがけないことに驚きもしたが、同時に嬉しさが込み上げた。
    「僕の名前覚えてくれたんだね。ありがとう。僕は行かなくては……、ごめんね……」
     エコの頭を撫でて、強く握りしめた拳を優しく制す。
    「僕がここに来たことは……、フシには内緒だよ」
    頭を撫でながら小さくエコに伝えると、エコは泣き出しそうな悲しい顔で微笑んだ。

    またあの黒い不吉な気配を近くに感じた。僕の場所を嗅ぎつけた様だ……。
    「さぁ、黒の方、約束の時です」
     僕の声掛けに音もなく黒尽くめの男が現れる。彼は僕の前に立つと額に手をかざし、心に語りかけた。
    ……では、目を閉じ、なりたいものを想像しなさい……。迎えが来る前にお前のファイを解き放とう……。
     僕は無言で目を閉じる。とうとうこの時が来た。やがて身体の感覚が、そして記憶が失われていくのがわかった。最後の力で薄く目を開け瞼の端でフシの方へ視線を投げたが、涙でぼんやり滲んでよく見えなかった。手を伸ばし駆け寄ってくるエコの姿が何となく見えた。
    「フシ……。さようなら……、僕のこと……、わすれ……」
     
     彼の最後の言葉は掠れて空に消えた。エコが駆け寄ったとき、既にカハクの姿は跡形もなく消えていた。
     
     
     
    *******

     
     
     ……? なんだ……?
     遠い遠い記憶の断片が蘇った気もしたが、何かわからずに消えてなくなった……。
     
     行きつけの書店から足速に家に向かう。先日取り寄せを頼んでいた本が手に入った。フシに関する書物はかなりの数読んだが、まだまだ読み足りなかった。
     ——ドン!
     手に入れた本のことで頭が一杯で、通りがかりの人にぶつかってしまった。ヨロヨロとよろめき手近にあったガードレールに手をつく。
    「あ、ごめんなさいっ!」
     ぶつかった瞬間長い黒髪がふわりとなびいた。彼女は僕に謝りながらそそくさと走り去る。
    「ちょっとフシ〜! プラネタリウムそっちじゃないよ! も〜! 勝手に先行かないでよ〜!」
     聞き間違いかな……まさか……。
     「フシ」という言葉に反応してしまった。おそらく僕のフシオタクの度が過ぎて、なんでもそういう風に聞こえるのだろう。そう思ったら笑いが込み上げた。これはまずいなぁ、ふふっ……。なんでも程々にしないと、幻聴まで聴こえるようになったなんて。
    「あ、雪……」
     先ほどぶつかってからガードレールにもたれかかったままだった。そのまま何気なく空を仰ぐ。遥か上空からチラチラと粉雪が落ちてくる。今日はここ最近で一番の寒さになるらしい。
     自分の息で目の前が白く煙る。
     何気なく先ほどの彼女が走り去った方へ目をやると、もやの向こう側に雪のように白い少年が駆けて行くのが見えた。
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