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    namo_kabe_sysy

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    お題「バカンス」
    長期休暇をとる、というところでしかお題に沿ってないかも。あとものっすごいうっっっ…すらアル空意識しています📝
    #アルベドワンドロワンライ

    #アル空
    nullAndVoid
    ##アルベドワンドロワンライ

    新任務、(やや長期)休暇の取得ジンが呼んでいると、研究室のノックをしてきたスクロースの言葉に従って実験の手を止め、騎士団本部のエントランスに程近い部屋を訪ねると、デスクに肘をつき両手を組んだジンが、疲労を滲ませた面持ちでアルベドを迎えた。
    「やあ、スクロースからキミが呼んでいると聞いたのだけど……何か問題でも発生したかな?」
    たとえばどこかの湖で「どっかーん!」という無邪気な声と共に爆発音を聞いたとか、とやや遠い目をするアルベドに、そうではないがその心配は多少ある、とジンはため息をついた。
    「問題というのは、アルベド。君の勤務時間についてだ」
    「ボクの?」
    「スクロース、それからティマイオスから話を聞いたんだ。ここ数ヶ月、まともに休みを取っていないと」
    「そう……だったかな」
    あまり気にしていなかった、とアルベドは思案顔をする。
    実験が終わればまた次の実験が待っていて、それらをこなすことで手一杯だったのは確かだ。だからといって健康面を疎かにしたつもりはない。何事も器である体を使わねばならないことは数百年の生命活動の中で十分に理解していた。食事も睡眠も適宜とっていたし、そのおかげで体調を崩すこともなく過ごせている。
    まとまった休暇はなかったように思うが、アルベドからすればさしたる問題ではなかった。やるべきこともやりたいこともありすぎて、時間はいつだって足りない。休む暇などどこにもなかった、というのが正しいかもしれない。
    ジンは息をついて肩を落とすと、「これは私の管理不行き届きだが」と声音を震わせる。
    「アルベド。すまないが、明日から一週間の休暇をとってくれ」
    「……明日から、一週間?」
    「ああ、これはお願いではなく決定事項として扱って欲しい。スクロースたちには君が不在の間、彼女たちのできる範囲で君の実験を請け負うと承諾を得ている。……というか、彼女たちから声があがったからそのような調整になるのだが」
    「待ってくれ、今取り掛かっている実験はそろそろ一区切りつくんだ。それが終わってから……」
    「という君の話を鵜呑みにしてはならないともまた聞いている。ついでにリサからもだ。……そういうわけだから、一週間は工房への立ち入りは禁止。休暇の期間としては短いと思うが、クレーのことも含めてこちらでなんとかするから、君は君の休みを満喫してきてくれ」
    話は以上だと、色素の薄い髪を束ねた代理団長から告げられて、アルベドは反論を試みる時間も与えられずに退室することとなった。

    研究室を訪ねてきたスクロースとあまり目線が合わなかったのはこういうことかと、私室に戻ってから合点がいった。
    彼女なりに相当考えた上での決行だったのだろう、それでも申し訳なさが拭いきれないためにあんな態度に現れてしまったのだなと、スケッチブックや錬金ノートをまとめつつ結論を出したアルベドはふと、デスクの端に置かれた洞天への通行証に目をやった。
    ここ最近はモンドの工房に籠ることが多く、あまり触れていなかったものだ。異邦の地からやってきた大切な人が渡してくれた、美しい庭に通じる特別な鍵。
    それは、アルベドのもうひとつの拠点となっている工房へ繋がる鍵でもあった。
    「…………」
    少ない手荷物をまとめたアルベドは、通行証に触れ瞳を閉じ、意識を集中させる。ぐにゃりと足元が歪に曲がりくねると、そのままどこかへ吸い込まれるような感覚に身を委ねて、再び体の重みと形を認識できるのを待った。
    数秒のあと。さわりと耳を撫でていく風と、草木の擦れ合う音に囁かれて瞳を開く。そこには邸宅へ続く石畳と、玄関前に佇む洞天の妖精が、半分眠った様子でアルベドを迎えていた。

    広々としたホールを抜けて、アルベドは人気のない廊下を進み工房の扉の前に立った。
    ジンは工房への立ち入りを禁ずるように言っていたが、あれはモンド城の、という意味だろう。あるいは雪山の拠点もそうかもしれない。どちらも仕事を進める上で過ごす場所として認識されているはすだ。
    けれどこの洞天にある工房では、アルベドが個人的に興味を持った実験ばかりを行なっている。……仕事に関連する研究を全くしていないことはないが、それでも七割は趣味で使っている部屋だ。この中でならお咎めもないだろう。
    そう思って、ドアノブをひねると。
    「あっ! やーっぱりここに来たぞ! アルベド!」
    空中を浮遊するパイモンと、
    「半信半疑だったけど、予想は大当たりだったね……」
    苦笑してはちみつ色の三つ編みを揺らす空の姿があった。
    「……二人とも、どうしてここに」
    塵歌壺自体、持ち主は空だ。この庭の中をすべて整えたのも彼であり、つまるところ管理者と言っても差し支えないだろう。そんな彼がいつどこにいても異論はないし、おかしなことでもない。ただ、特に時間を潰せるものもない部屋に揃っている理由がわからず、アルベドは首を傾げた。
    「ジンたちに頼まれたんだ。休暇を与えたはいいけど、どこかでこっこり実験を進めるような気がするって。それでアルベドが仕事をしないように、オイラたちがそばにいて、様子を見てようって話になって……」
    まさかそんな手回しをしているとは。おそらくだが、ジンではなくこれはガイアの提案だろうと察しがついた。
    ジンよりもガイアの方が洞天に訪れている上、この工房にも立ち入ったことがある。それで覚えていたためにパイモンと空を派遣したのかもしれない。
    しかしガイアもしばらく休暇などなかったように思うが、それを差し置いてもこちらの休暇取得が優先されるのか、と思うと、こっそりと仕事をするのはさすがに躊躇われるなと、アルベドは二人に苦笑を返した。
    「見透かされてしまったか」
    「てことは、もしかして実験する気でいたの?」
    「そうだね。スクロースたちに任せたとは言っても、彼女たちがすべて対応できる訳でもないから。少しでも進めておこうかなって、ここに来たんだ」
    「はあ……休暇を取るよう言われたはずなのに、さっそく労働にあてようとするなんて」
    だめだろそれじゃと、空は首を振り、じとりとした双眸を向けてくる。
    「危なかったな空、オイラたちが来るのが遅かったら、今頃錬金装置もたくさん働いてたぞ……」
    げそりとしたパイモンが四肢を力なくぶらつかせている。わーかほりっくって言うんだぞ、とあまり耳にしない単語が飛んできたが、話の流れからしてあまりいい意味ではないのだろうなとは感じた。
    「しかし、休暇といっても久しぶりだからかな、何をするかあまり決めていないんだ」
    スケッチの道具は持ってきたけれど、とデスクに広げると「絵を描こうよ」と空が隣に立って微笑む。反対側にはパイモンがくるりと寄り添ってきて、「オイラもそれがいいと思うぞ!」と明るい声で賛同する。
    二人の言葉に背中を押されて、アルベドはスケッチブックを開き、白紙のページを探すためにぱらぱらとめくった。
    そういえばいつが最後だったろうかと黒鉛に塗られたページの日付に目をやると、およそ三ヶ月前の日付になっていた。そこにはアカツキワイナリーの葡萄棚と、晶核となる晶蝶が優雅に舞っている絵が描かれている。
    たしかこのエリア周辺に足を伸ばした時、気分転換になるかと思いペンを握ったのだっけ。本格的に忙しくなる前、静寂な心のままに、手を動かしていたような。
    「……あまり、余裕がなかったのかな。まさかこんなに絵を描けていなかったなんて」
    ぽつりとアルベドがこぼすと、空とパイモンがそれぞれに口を開いた。
    「そうだね、俺からしても珍しいなと思うし。……絵を描く時間の捻出もできないくらい忙しかったってことでしょう? だから尚更、今回の休みを満喫して欲しいんだよ」
    「そうだぞ〜、オイラたち、アルベドには元気でいて欲しいからな! 追い込みすぎて疲れて倒れた、なんて、アルベドだって嫌だろ〜?」
    「まあ、アルベドはそのへんうまくやるとは思うけど。……でもとりあえず、今日から一週間は仕事のことはみんなに預けて、ゆっくりしよう?」
    「そうそう! オイラたちといっぱい遊んで、美味しいご飯も食べようぜ!」
    「パイモン、最後の一言が本音でしょ……」
    食い意地張ってるんだから、と呆れ眼の空に頬を膨らませたパイモンが「ご飯食べたら元気になるだろ!」とムキになっている。間に立っているアルベドのことを気にかけることもせず繰り広げられる二人のやりとりに、アルベドはついに堪え切れず小さく吹き出し、久しぶりに肩を震わせ、笑顔をこぼすのだった。
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