Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    namo_kabe_sysy

    @namo_kabe_sysy

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌻 ⛅ 🔶 💚
    POIPOI 132

    namo_kabe_sysy

    ☆quiet follow

    お題「花火」
    アル空です。線香花火であそぶ二人。いろいろふんわりしてるんでふんわり読んでください…
    #アルベドワンドロワンライ

    #アル空
    nullAndVoid
    ##アルベドワンドロワンライ

    えいえんはなび稲妻での任務を終えた空とパイモンが城下で宵宮に呼び止められたのは、夜に向かって走る太陽が橙に沈む頃だった。
    パイモンと目配せをした後に明るい笑顔を振りまく宵宮の元へ駆け寄ると、「これ、良かったら使い」と細長い木箱を渡される。
    何の文字も模様もない木箱を「爆発物じゃないよね?」と訝しむ空に、「そんなわけあるか!」と間を置かず宵宮からぴしゃりと跳ね返される。日頃花火を造っては打ち上げる彼女の生業を思うとつい……と苦笑で濁し、空はぱくりと箱を開いた。
    中には、細長く一本の棒状になった和紙のようなものが六本入っている。上部は金魚の尾のようなひらりとした色鮮やかな広がりがあり、下部は先端へいくにつれ、黒く尖った鉛筆の芯のようになっていた。
    「これは?」
    「線香花火や。この間依頼があって作ったんやけど、余ったからあんたにあげるわ」
    「どうやって使うんだ? 振り回したりできるのか?」
    パイモンがしげしげ木箱の中を覗き込みながら尋ねると、「どんな花火も振り回したらあかんで」と額をつつかれている。
    「なるべく風のない場所で座って、この黒くなってる方に火ぃつけるんや。すこーしずつ火球が上がってくるから、その小さい種をなるべく落とさんようにするんやで。じっとして、動かないこと。これが長く続けるコツや」
    言われ、空は収められている線香花火のひとつを拾い上げる。以前にも手持ち花火で遊んだことはあるが、その時手にしたものよりも頼りない細さだ。風がそよぐだけでふらふら揺れるそれを、これはパイモンには難しそうだねと言いながら箱に戻す。
    「なんだよ空ぁ! オイラにはできないって言うのか?」
    「えー、だって絶対落ち着いてられないでしょ。ふわふわ浮いてるだけでも微振動あるし」
    「うっ……それを言われると……」
    「あははっ! なんや厳しいこと言うなぁ! まあでも、確かにこの花火はじっとしてないとすぐ終わってしまうからなぁ」
    今度別の花火用意したるからと宵宮に頭を撫でられたパイモンは、それでもしばらくふくれっ面だったものの、機嫌直しにと宵宮が夕飯に誘えばすぐに表情をかえ、ご機嫌メーターを最大まで引き上げていた。
    「空、せっかくなら洞天で試してきたらどうだ? 今日はたしか、アルベドに会うんだろ?」
    「うん……でも」
    「なんや、約束あるんやないか! ほなら、二人の感想あとで聞かせて欲しいわ。頼んだで、空!」
    言うなり宵宮はパイモンを引き連れてさっさと食事処のある方へ歩き出してしまう。取り残された空はひとつ息をついて、洞天に繋がる塵歌壺を取り出した。

    稲妻の景色を取り込んだような庭は、あちらこちらに薄桃色の桜を咲かせた樹木が植っている。時間が止まったかのようにいつまでも咲き誇る木々は、邸宅の周りを囲むような形に調整されていた。室内からでも淡い桃色をいつでも眺めることができるように。その香りが届くようにと空が設計したのは数ヶ月前のことだった。
    ようやく見慣れた景色になってきたなと、広い砂浜のような場所に建てられた邸宅の前まで行くと、扉に寄りかかるようにして立っていたアルベドが、空に気づいて顔を上げた。
    「やあ、やっぱりキミだったか。足音でもしかして、と思っていたよ」
    「ふふ、気づかれちゃった? 相変わらず、耳がいいね」
    「キミに関することだからだよ、他のすべてには……どうだろう。あまり適用されない気がする」
    またそんなこと言って、と空が照れ臭く笑うと、アルベドは空の抱えた木箱に目をやる。
    「それは?」
    「線香花火っていうやつ。ここに来る前、宵宮に貰ったんだ。試してみてって」
    「ふむ……?」
    ぱくりと木箱を開けて中を見せると、アルベドは興味津々な様子で何度か頷いている。
    「あまり数がないようだけど、ボクとふたりで使っていいのかい?」
    「いいと思う。あ、それと遊んだら感想聞かせてって言ってたから、一言くれるとありがたいかな」
    「わかった。ちょうど海辺にいるし、そこで試そうか」
    洞天に入る前、橙色をしていた太陽はこの庭ではすでに沈んでいて、化粧をした月が星を両手に抱えて空を彩っていた。これなら花火もよく映えるだろうと言うアルベドの言葉に肯首して、二人は砂浜で膝を折る。
    木箱から一本ずつを手に取ると、アルベドがマッチで小さな火を灯す。それを焚べた薪にうつして篝火を生み出し、空に「なにか注意することはあるのかな?」と静かに尋ねた。
    「ええと、あんまり動かないようにじっとしてること……だって。あと風のあまりない場所がいいとか」
    「なるほど。風は…うん、ボクの後ろから吹いているから、ボクが壁になるよ。動かないように、というのは気をつけるしかなさそうだけれど」
    そうだね、と空は同意して、それじゃあ始めようかと尖った先端に火を点ける。アルベドも空に続いて、柔らかく細い線香花火に命を灯した。
    「……わ、」
    「これは……」
    見た目の想像を裏切らないとても小さな球が生まれると、それは次第に破裂音を出し、ぱちぱちオレンジの明かりを爆ぜさせていた。動かないように、と意識していた空だったが、それがかえって緊張を大きくし、微かだが手首を動かしてしまう。あっ、と叫んだ瞬間、生まれた球は砂の上に落ち、眩い光を失っていた。
    空の声につられるように、アルベドの火も落ちてしまう。ふたりで目を合わせて「失敗したね」と笑い合うと、決まっていたように二本目を取り出して火をつけた。
    「ねえ、勝負してみない?」
    「勝負?」
    「そう。どっちが長くこの花火を維持できるか」
    「ふふ、いいよ。勝った方は何ができるのかな?」
    「んー……負けた方になんでもひとつお願いごとができる、とか?」
    「なんでもか」
    それは少し怖いねと、まったく思ってないような顔で呟くアルベドの顔を盗み見た。
    今日の約束は、ただ会うことまでしか決めていない。何をするか、というのは待ち合わせてから決めたいと空が申し出て、アルベドが抵抗もなく「いいよ」と言って成立したものだ。
    実験が忙しくなっていることはスクロースから聞いていたのに断る素振りのかけらも見せないアルベドに、空は申し訳ないような、それでもたしかな喜びを胸に抱いていた。
    アルベドから目線を落として、手元で弾けるオレンジの花、その中心にあるぷくぷく膨らんでいく火球を見守る。まだ落ちないでと祈るような気持ちで凝視していると、ぽた、と空の先にあるアルベドの花火が地面に落下していった。
    「よっし、俺の勝ち」
    「もう一本あるけど、再戦はできない?」
    「えー、どうしようかなあ」
    「お願い、空。もし今度もボクが負けたら、お願いはふたつにしてくれて構わないから」
    問いかける翡翠色の双眸に、一瞬だけ呼吸を奪われた感覚になる。おどけたような、それでいて静謐さをたたえた美しい青色に抗うことはできず、空は「いいよ」と短く返す。
    そうして、最後の火が宿る。
    最初は大人しい花は段々と、火球から離れた場所で弾けるように咲いていく。幾つもの長さの線を散らして、月と星々の灯りよりも激しく燃えては消えていく。ただ黙って繊細な花火を見守っていると、ふとアルベドが息をついたことに気がついた。
    「アルベド?」
    「スケッチの道具があればよかった」
    「……スケッチ?」
    なんのことかすぐに理解の及ばなかった空に、アルベドはその反応をあらかじめわかっていたような顔で「ああ」と頷く。
    「キミの滑らかな肌を照らす花火ごと、絵にしておきたい。どこか儚い姿のキミを残しておきたい、……そう思ってね」
    「――、」
    伏せられた長いまつ毛の下にある翡翠は、たぶん穏やかなままだろう。
    声音でわかる。言葉でわかる。手元を全く動かさないまま紡ぐアルベドに、こくん、と空の喉が鳴った時。
    「あ」
    ぱたりと、アルベドの火球が先に落ちていく。
    その種を追いかけるように空の線香花火も生命を終えて、金魚の尾鰭が笑うように揺れた。
    沈黙のカーテンが靡いていた。海辺に近い場所にいるため、緩やかな潮騒はずっと耳に届いていたけれど、アルベドも空も、しばらく口を開かないまま靡く静けさに寄りかかっている。
    勝負は空が二度勝っている。アルベドから提案された、負けたらお願いはふたつきくからという言葉を持ち出して、空は静寂から身を起こした。
    「……ひとつは、君にあげる」
    「……お願いのこと?」
    「うん。……それで、俺のお願いなんだけど」
    「ああ」
    なにかな、とたおやかに踊るミルクティー色がふわりと微笑むと、空は眉を下げて「あのね」と続けた。
    「アルベドが俺にしたいこと、してほしい。君が望むことなんでも、してあげたい。……ものすごく簡単にいうと、わがままを言ってほしい、かな」
    「――それは、お願いになってる? キミのためになるものなのかな?」
    「なるよ。……それはね、俺を満たすことなんだ」
    告げてから散らばった花火の残滓をまとめていると、「空」と、とても近くで名前を呼ばれた。片手を取られ、ほんの少し体が傾く。なあに、と口を出るはずだった言葉は出力されず、かわりに、アルベドの唇が温度を乗せるようにして重ねられた。
    「……それなら、ボクのお願いもキミと同じ。キミがボクにしたいこと、なんでもしていいよ。キミが望むもの全部、ボクもあげるから」
    砂に落ちた火球がもし体内にあったとしたら、この瞬間に最も多くの花を咲かせたに違いない。ばちばちと一気に燃えてそのまま膨らんだ想いは恐らく、今夜灯した花火より、ずっと長く爆ぜ続ける。
    それが永遠であればいいのにと、目を細めながら思う。そんな祈りが含まれた吐息をまぜて、アルベドの唇へ、キスを贈った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💖💖💖💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works