厄日なこらさん【BD当日】「コラさん誕生日おめでとう。」
夜勤明け、自宅で軽く仮眠を摂ってから黒足屋が働くバラティエで特別につまみをテイクアウトさせてもらい、バラティエのシェフたちにおススメされた今日のメニューに合うちょっといい酒も買い込んでコラさんの家に向かった。プレゼントは前もって買っておいたが渡すタイミングがわからず、綺麗に包装された小箱は鞄の奥へしまい込んである。
チャイムを鳴らすと帰宅してばかりなのかワイシャツを着崩したコラさんが出迎えてくれた。少し時間が早かっただろうか。
「お、ロー悪いな。わざわざ家まで来てもらって」
そんなことないのにと思いながら、お邪魔しますと靴を揃えて部屋に入るとソファーの上にはコラさんの仕事用の鞄と包装された箱がいくつか並んでいた。
「適当にどかして座ってくれ」
その言葉に甘えて空いているスペースに腰を掛けた。ソファーの背もたれには脱ぎ捨てられた背広が引っかかっていた。皺になったら大変だからと言い訳をしながら手にとると煙草混じりのコラさんの匂いがした。大好きなその匂いをコラさんに気づかれないように少し吸い込む。弛んだ頬に気づかれないように「…皺になるぞ?」と注意するとコラさんが罰が悪そうに頬を掻いた。
「あー・・・、今帰ってきたばっかだったんだよ。貰ったもんも出しっぱなしだ。」
「いや、俺も早く来すぎた。悪いな…」
「バカ、そんなわけねぇだろ?もっと早くてもいいくらいだ。」
たまには合鍵も使ってやってくれと楽しそうに笑いながらコラさんがこちらに手をのばすので渋々と手に入れたばかりのコラさんの背広を手渡す、頭におかれた大きな掌がくしゃと髪を雑に撫でていく、背広と鞄を手にコラさんが寝室へ向かうのを残念な気持ちで見送った。
(…もう少し嗅いでいたかったのに)
少し乱された髪型を指で直しながら唇を尖らせる。視界の片隅に入る、ソファーに置かれたままの色とりどりに包装された小さな箱たち、誕生日プレゼントだろうか。コラさんは優しいし、スーツ姿もカッコいいし、仕事も出来るみたいだからきっと男女問わず人気があるんだろうなと仕事場にいるコラさんを想像する。
(…俺も用意したんだけど)
鞄からプレゼントを取り出す。少し拗ねた気持ちで黄色の包装紙にラッピングされた箱を指でプレゼントの山へと押し込んだ。
待たせたなと戻ってきたコラさんは、ダイニングテーブルに置かれたバラティエの惣菜を覗いて嬉しそうに笑っている。コラさんの好きなものを中心に頼んで正解だった。
「先に汗流してきていいか?それともローが先入るか?」
「いや、用意して待ってる。」
「…そっか、じゃあ少し風呂行ってくるな」
俺は入ってきたと言うと微妙な間があいたような気がしたが気のせいだろう。
慣れた動作でキッチンで手を洗い、コラさんが戻ったらすぐに始められるように惣菜を取り出して、皿に並べていく。酒は冷えてた方が美味いだろうとケーキと一緒に冷蔵庫にいれた。
「おぉー!すごいご馳走だな!」
いつものように烏の行水で戻ってきたコラさんが嬉しそうに後ろから抱きついてくる。ズボンだけで抱きついてくるのはやめてほしい。腕に素肌が触れて、心臓が煩いくらい脈打つから、心臓がいくつあっても足りない。耳の近くにコラさんの顔があるからかスンスンと鼻を鳴らしている音が聞こえてくる、触れた息が少し擽ったい。子供のような無邪気なその仕草すら可愛く感じてしまうのだから惚れた欲目なのかもしれない。
「いい匂いがする。」
「ん?まぁ出来立てだからな」
「いや、ローから。シャンプーの匂いかな?」
そう言いながら耳の後ろへ、コラさんが匂いの元を探るように鼻をぐいっと押しつける。「んっ、擽ってぇ…」形のいい鼻を擦り寄せられ、唇が首筋に触れた。電流が流れるように背中を痺れが走る。「ぁッ、も、やめろって…」詰めた息を吐き出して、コラさんを引き剥がす。危うくひとりだけ変な気分になりそうだ。振り向いコラさんを見上げるといつもの陽気な雰囲気と少し違い思わず触れた手が止まる。揺らめく紅玉にあの日の夜を思い浮かべてしまった。「…ぁ、」少し後ろに身体をそらすとダイニングテーブルに並べた皿がカチャと音を立てた。
「あ、ほら冷める前に食っちまおう?」
「….あ、あぁ。いやぁ、美味そうだなぁ」
2人の意識がダイニングテーブルへ向かう。
ここで切り替えなくてはきっと今の関係には戻れなくなってしまう気がした。