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    kuroi_y

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    kuroi_y

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    バレンタインに向けて書いていて無事遅刻したものを今になって発掘。ちょっとヴァンアニ風味。
    供養です。

    #黎の軌跡
    theTrailOfTheDawn
    #ほのぼの
    heartwarming
    #アークライド事務所
    arkrideOffice

    無題 黒、茶、ときに白。
     アニエスが差し出す細長い箱の中には着飾ったチョコレート達が行儀よく横に一列に並び、ヴァンを見上げていた。
     ナッツやドライフルーツの帽子を乗せてツヤツヤと輝くもの。ココアや粉砂糖で化粧したもの。ココナッツのコートを着込んだもの。
     独特の甘い香りで誘惑し、「私をお食べ!」とそれぞれがウインクを投げかける。
    「選べねぇ……」
     ヴァンは頭を抱えた。
     彼の頭が、舌が、今見ている全てのチョコレートが大変美味であると知っている。アニエスが手にしているのは、あの《アンダルシア》のチョコレートなのだ。
    「こういうのは早い者勝ちってな」
     ヴァンの横からひょいと手が伸びてきたと思ったら、続々と大きさの異なる手が現れて茶色の甘味達をさらっていった。
    「うまっ」
    「美味しいです!」
    「あ、これ中にキャラメルが入ってる」
     食べようかと迷っていた、ココアをまぶしたトリュフチョコレートがアーロンの口の中へ消えていくのを絶望の眼で見届け、それに続いた十代2人がいい笑顔で同じ様に堪能している様子にヴァンの表情が消えた。
    「アニエスが箱開けてから何分悩んでんだ、さっさと選べって」
     右手の親指と人差し指を舐めながらニヤリと笑い、赤毛の青年が事務所を出て行く。十代2人、フェリとカトルはそれぞれヴァンの左右に着いてチョコレートを指差し、あれも美味しそうだこれが美味しそうだと盛り上がり始めた。
    「なになに? 美味しそうじゃない! 私も一つちょうだい」
     賑やかな声と共にヴァンの視界に新たな手が現れ、目の前の箱から飴がけアーモンドが乗ったチョコレートが姿を消した。うなる声の方を向くと、ジュディスが満面の笑みを浮かべて立っていた。
     艶をつけられたナッツがガリッと口の中で砕ける音が耳に届き、一番初めにチョコレートの選択権があったはずの男は肩を落とした。
    「何よ、そんながっかりしちゃって。まだ美味しそうなのが残ってるじゃない」
     ご馳走様、とアニエスにウインクをしてチョコレート怪盗が去っていく。彼女が居た場所には仄かに柑橘類の香りが残され、事務所内の4人は映画女優の存在感に圧倒されてしばらく動けないままでいた。
    「ジュディスさんが来ると華やかになりますね」
     アニエスがにこりと向かいの3人に笑いかけ、ようやく時が流れ始める。
    「ヴァンさん、真ん中のが一番美味しいと思います」
    「僕は右端のをオススメするかな」
    「その2つしか残ってないだろうが。しかも」
     ヴァンが言いかけてためらった一瞬。口元に弧を描き、彼の両隣から少年と少女が駆けて出て行った。
     アニエスは不思議そうにその背中を見送り、箱の中へ目線を落として悟った。
     ハートの形のチョコレートが2つ、フェリとカトルが言った通りの位置に残されていた。
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