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    G_monatomane

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    G_monatomane

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    対てまりさん爆弾の全貌

    花吹雪の中、あなたを見つけたてまりちゃんへ

    手紙なんて柄じゃないけど、どうしても伝えたかったら書いてみました。字、読めなかったらごめん。

    卒業、おめでとう。三年間、てまりちゃんと過ごせて楽しかった。それに最後は同じクラスだったし。体育祭も文化祭も、参加したのは最初で最後だったけど。花道たちとふざけて、笑って。なんだろう、高校生らしいってやつを味わえたのは、てまりちゃんのおかげ。

    初めて会った時、好きですって言われてびっくりしたよ。大体の女子はおっかなそうな目をして逃げちゃうからさ。すごい子だな、って思った。
    その後もずっと、何度も好きだって言ってくれたよな。数え切れないくらいに。花道がフラれた回数よりも多いよ。ほら、あいつは51回で止まったから。そう考えるとすごいな、てまりちゃんは。
    いつも、困ったような顔してごめん。本当は、嫌われることの方が多かったから嬉しかったんだ。

    連れ去られそうになった時、すぐ助けられて本当に良かったよ。てまりちゃんに怪我がなくてすごく安心した。恐い思いをさせてごめん。
    知ってた?あれ、流川の友達が知らせてくれたんだよ。バレー部のエース。自分が出ていっても何も出来ないからって、俺のこと探してくれたんだって。かっこ悪いから内緒にしろよ、って言われてたけど、もう最後だからいっか。

    屋上で授業サボってただけなのに、ノート見せてくれてありがとう。あれのおかげで俺たち、赤点一個で済んだから。まぁ、花道は四個くらいあったけどな。あいつにはとっておきのカテイキョーシがいるから。

    喧嘩した後に手当してくれたこと、今でも覚えてる。あんな可愛い絆創膏、生まれて初めて付けたよ。多分、これから先もないと思うけど。いつもドジってて、廊下で教科書ばら撒いてる子とは思えないくらい、手際が良くてさ。びっくりしちゃったよ、ほんと。

    前に一回、弁当分けてくれたよね。おにぎりと卵焼き、美味しかった。タコのウインナーも。いつも適当に済ませてたから。ああやって、誰かの飯食べたの久しぶりだった。

    長々とごめんな。本当に書きたかったことは一個だけだった。踏ん切りが、つかなくて。

    ずっと好きだったよ、てまりちゃんのこと。こんな俺のことを好きでいてくれてありがとう。告白、応えられなくてごめん。

    さよなら、てまりちゃん。またどこかで。

    ***

    『さよなら、てまりちゃん。』

     そう書かれた手紙を握りしめた、くしゃりと便箋が歪む音。誰もいない教室にたった一回、響き渡る。続く再会への希望は、彼の中には多分ないのだろう。三年間、ずっと片思いしていたから分かる、分かってしまう。
     最後、忘れ物がないか確認してこいと友達に言われて戻ったのが良かった。ありがとう、この恩は一生忘れない。あとで何か奢る。
     そうじゃなかったら、この手紙は来年の誰かが勝手に読んで、焼却炉の中で炭になっていたと思う。

    「…………」

     宛先しか書かれてない封筒、差出人は不明。だけど、中身を読んでしまえば誰がこの中に入れたのかなんてすぐに分かってしまう。見覚えのある筆跡、そして私のことを「ちゃん」付けで呼ぶ人なんて、この学校の中じゃたった一人だけだから。
    鼻の奥、つんって痛んだ。ずるい、なんて言葉で片付けられない。
     二枚分の便箋が、開けっ放しの窓から入る風に揺らされた。視界がぼやける、視線を移せばまだ賑わう校門前。女の子たちが群れを成して、黄色い声が響いた。あれは多分、流川くん。その隣に、あの人を呼びに行ってくれたバレー部のご友人さん。
     そんな強い風に含まれるのは、大好きなあの人が大切な彼の花びら。

    「っ!」

     何かに弾かれたみたいに、下駄箱へ急いだ。上履きのまま、外へ飛び出す。良いよ、別に。もう今日で捨てちゃうから。
     踵までちゃんと履いて、黄色い声の向こう側へ走る。全速力ってこんなに疲れるんだ、体育の授業も無くなった今、運動不足は否めない。
     輪の中にいた二人の視線、ほんの少しだけ浴びながら。

    「……頑張れ、軒下さん」

     誰かが呟いた声はきっと空耳だろう。バクバクと早い心臓がうるさい。荒い息とじんわりと滲んだ汗、セーラー服に付いる赤い花。証書を入れた音のなる筒、鞄の中に入れっぱなし。
     今日で最後、本当におしまいの日。鳴り響くチャイムの音も、聞き納め。

     だからもう一度、勇気をください。身体が砕けるような恋を、繋ぎ合わせたい。

    「あ——————」

     私、ずっとあなたのことしか見てないよ。片想いが辛い時も、苦しい夜もあったけど。次の日、おはようって声かけられたらそんなこと、全部忘れちゃうくらい。
     料理も最初は下手くそで、包丁で手を切ったこともあった。それでも、菓子パンばかり食べてるあなたのことがなんとなく心配で。お節介、って分かってても、練習の成果を押し付けてしまった。
     眠気を堪えながら書いたノート、見やすいかな? って蛍光ペンでマーカーしたら目がチカチカしちゃって。屋上で渡したノートは作り直した方、見やすいねって言ってくれて嬉しかった。
     他校の怖い人に囲まれた時、傷だらけになりながら守ってくれたこと。忘れることなんて出来っこない。何も出来ない非力な私は、せめてその傷を隠すことくらいで。
     誰にも知られることのない、私だけの秘密の気持ちを。

    「……っ、水戸、くん!」

     ずっと眺めていた後ろ姿に、今年一番の声を上げた。
     さよなら、なんて言わせない。またね、とかありえない。バレンタインのお返しだってもらってない。
     短めの学ランも、リーゼントも。みんながいる時は小さく見えるんだよな、って言ってたその背中も。何かを守るために振う、すごく優しい手のひらだって。
     振り返る彼の表情は、やっぱり困っていた。そんなのお構いなしに、膝についた手のひらをのけ、前を向く。強めの風が吹く、前髪をひらりと揺らした。

    「……てまり、ちゃん」

     黒い瞳と糸が繋がる。何度も結んだから、至る所に繋ぎ目が出来てる気がした。大切な、私の宝物。

    「大好き、です! 今も……これからも‼」

     桜吹雪が空に舞う。その中に紙の欠片も混ざっていた。
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