ラウグエss 明晰夢って言うんだろうか。夢は見ている間に夢と気づくことが多い。きっかけ? 人によるんじゃないのかな。俺の場合は世界の輪郭がどこか曖昧になって、自分がそれに溶け出していくような、奇妙な感触のせいだと思う。結局、夢の世界って俺に属する物だから。
ただ、その時は目の前の男の人――見たことはないのになぜか懐かしい――があまりにもありありとリアルで、その人だけが世界から浮いているかのように見えた。相手は、俺よりずっと年上だった。十歳くらいは上なんじゃ無いかな。大人って訳じゃなかったけど。緑と黒のすこし不思議な感じがする服を着ていて、半ズボンから覗く膝を綺麗にあわせた体育座りをしてこちらを見ていた。
整った唇がパクパクと動いてみせたけど、音は伝わってこない。水の中に沈んでいるみたいに低く減衰して、ぼんやりとしか。それでいて他の感覚は却って鋭敏だった。恐る恐る伸びてきた手に、頭を撫でられる感じとか。指先が外耳を掠めるときの甘いくすぐったさとか。徐々に強くなってく、俺を抱きしめる力とか。
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