「管理人室」。そう書かれたドアを前に、トトは違和感を感じざるを得なかった。3日分ほどの新聞やチラシが、郵便受けにパンパンに詰まっているのだ。
ここは、鴨の橋ロンという男が住まうマンションの一室。4連勤が明け、普段から事件事件とうるさい友人の様子でも見に行こうかと思い立ったのだが、ひょっとして、留守なのだろうか。はて、家を空けるという話なんてしていただろうか。そう思いSNSを開くと、そんな話をされていないどころか、3時間前に送った「昼頃に行く」というメッセージの既読すらついていない。
「……生きてるよな?」
モノローグのつもりが、無意識のうちにトトの口から最悪の考えが漏れ出す。ロンがもし普通の人間だったのなら、留守にしているのだと思っただろう。けれど、彼は言ってしまえばかなりの変人で、話を聞くにトトと出会う前は死んだように生きていたという。だからだろうか。鴨の橋ロンという人間が、ふと気がつくといつの間にかトトの前から消えてしまうのではないかと、そんな想像が容易くできてしまうのだ。
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