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    op151696nn

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    op151696nn

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    我慢するサくんと船医との絡みが書きたかっただけの話。
    言葉はいらねェ!な両片想い発進ゾサ。

    #ゾロサン
    zosan

    Soundless Words 最初は小さな違和感だった。
     首の下あたり、胸の真ん中部分がちくりとした。
     それは痛みと言う程でもなく、強いて言えば鍋を洗うタワシの毛先がちょんと触れたような、そんなただの違和感。
     思わず反射的に、トレーを持っていない方の手で首元を撫でた。服の中に虫でも入ったのか。首元から胸まで、ざわりと手のひらで撫でてみる。
    「サンジどうした?痛むのか?」
     足元から船医が見上げてくる。それに「あー」と一瞬だけ目線をうろつかせて、「なんでもねェ」と手を左右に振った。
    「調子悪いなら言えよ」
    「いや、ほんとになんでもねェよ。ちょっと痒かっただけだ」
     そう言ってトレーの上に並んだグラスをひとつ差し出してやれば、船医は「それならいいけど」と顔を綻ばせた。

     しかしその『違和感』は、数日に一回、一日に一回、半日に一回、と頻度が増していき、最初はちくりとした可愛いものだったそれも、徐々に確実な『痛み』へと変わっていった。
     
    「これはおかしい」と確信したのは、最初の『違和感』から二週間後のことだ。この頃にはすでにタワシでちょん、なんて優しいものではなく、針でぶすっと刺されたような鋭い痛みを感じていた。
     料理中だろうと戦闘中だろうと、気まぐれにそれは襲ってきた。それでもまぁまだ堪えられる痛みだったし、日常生活に支障はない。
     だけど油断は、一瞬の気の緩みから起こった。
     朝食の給仕中、ビリッと胸に走った痛みにほんの僅かに顔を歪めてしまったのだ。その一瞬の変化を、優秀な船医は見逃さなかった。
     皆が食事に夢中になっている中、チョッパーはおれの腕を引いて医務室へ向かった。パタン、とドアが閉まるなり「サンジ、おれに隠してる事ねェか?」と真剣な顔で見上げてくる小さな船医に、これ以上誤魔化はききそうにない、と息をついた。
    「ちょっと胸が、我慢できねェ程の痛みじゃねェんだが」
    「いつからだ?」
    「二週間くらい前かな。だんだん回数が増えてきて、最近は数時間おきに」
     ぎゅっとチョッパーが眉をしかめたのを見て、しまったと後悔したが、出た言葉はもう戻せない。チョッパーは何かをぐっと飲み込むように目を伏せた後、おれの手を取り椅子に座るよう促した。
     ドアの向こうで船長が騒ぐ声が聞こえる。ああそろそろおかわりやらねェと。頭の片隅でそう思いながらも、医者の指示どおり素直に椅子に腰掛けた。
    「サンジ・・・我慢なんかしなくていいからな」
     小さな桜の花びらが、ちょこんと膝の上に乗った。
    「我慢するなよ。そのためにおれがいるんだから」
    「・・・・・・」
    「大事にさせてくれよ。サンジのこと。頼むから」
     最後は少しだけ声が震えていた。泣かせてしまったと思ったのに、顔を上げた船医の眼差しが余りにもひたむきで、「悪かった」という一言さえも喉でつっかえて出てこなかった。

     細かく症状を話すと、チョッパーはうーんと首をひねった。外傷もなければ、内診にも問題点はない。血液検査も異常はない。
     ともすれば、内因性の何かか、はたまたそういう作用を持つ何かの影響か。
    「最近変なもの食べたりしたか?」
    「いいや、ここしばらくは、みんなと違うものは口に入れてねェはずだけど」
     うーん、と再びチョッパーがうなる。そして、「せめて痛みが発生する規則性が分かればなぁ」と呟いてから「ごめんちょっと調べさせて」と困ったように眉を下げた。
     規則性、と呼ぶ程ではないが、おれはこの痛みの原因に何となく、本当に何となくだが心当たりがあった。
     カルテを見つめる船医の横顔を見て、その『心当たり』を正直に打ち明ける事ができないことを申し訳なく思った。

    「なぁサンジ、どっか悪いのか?」
     ふいに掛けられた声にハッとして、でも出来る限り動揺してない風を装って「何が?」と振り返ると、ウソップは「それ」とおれの胸元を指差した。
    「最近よくそうしてるよな」
     シャツの胸元を、ぎゅっと自分の右手が掴んでいる。無意識だった。慌てずさりげなく手を離して、ジャケットの胸ポケットから煙草を取り出した。
     その時視界に入った己の指先が、かすかに震えていることに気が付いた。ドキッとして刹那、部屋の隅から飛んでくる鋭い気配に、ああやばい、と背筋がこわばった。冷や水をぶっかけられたような感覚の中、それを誤魔化すために少しだけ乱暴に煙草を口に咥えた。
    「んー、たまたまだろ。それよりお前、今朝またキノコ避けたろ」
    「げげげ、あれはルフィがだな、どうしても欲しいっつうから」
    「ったく、ガキじゃねェんだから好き嫌いすんじゃねェ」
     墓穴を掘ったと言わんばかりに、ウソップが後退りしながらダイニングを出て行く。
    「なぁほんとに、悪いとこあるならチョッパーに診てもらえよ」
     出て行く間際、真面目な顔で振り返ったお人好しな狙撃手に「ああ」と適当に片手を上げて返事をした。
     パタンとドアが閉まる。途端、遠慮なく飛んでくる斬撃のような気配に、気が付かないフリをしてキッチンに戻った。
    「おい」
     無愛想な声が掛かる。
     尚も黙っていると、背後でガチャリと刀がぶつかり合う音がした。
    「おい、聞いてんのか」
    「・・・なんだよ」
     ゾロは、振り返ったおれを、カウンター越しに頭の先から足の先までゆっくりと見渡した。ゾロの視線が動くたびに、ぎゅううっと心臓を鷲掴まれたような息苦しさがして、それでもそれを悟られないように、必死で腹の下に力を込めた。
    「てめェ、それで誤魔化してるつもりか」
     低い唸り声が、ダイニングに響いた。心臓をナイフで刺されたような痛みが走る。
     誤魔化してるつもりだよ。頼むから、頼むからこれ以上、暴こうとしないでくれ。
    「チョッパーには相談済みだ。てめェには、関係ない」
    「・・・・・・そうかよ」
     痛みで目の前がチカチカする。うまく息が吸えなくて、煙草を思い切り吸い込んだ。煙はズクズク痛む胸に、ぎこちなく広がっていく。
     どうかこのままやり過ごせたら。この想いを押し殺したまま、どうか。
     次の瞬間、何かに頭をぐいと引っ張られた。痛みに耐えるのに必死で、反応が遅れてしまった。気が付けばおれはゾロの腕の中にいて、うまく回らない頭の片隅で、ゾロの腕に引き寄せられたのかとぼんやり思った。
     ゾロは手のひらでおれの頭を自分の肩口に押し付けた。押し付けられた鼻先から、今度はゾロの匂いが胸いっぱいに広がって、おれの心臓は更にズキズキと痛んだ。
    「・・・ゾ」
    「すまねェ」
     耳元で、ゾロは絞り出すようにそう言った。
     何に対する謝罪なのか、ゾロはそれ以上何も言わなかったし、おれも聞かなかった。
     ああ、こいつ全部気が付いてんだな。隠し事なんてできやしない。だだ漏れのおれの気持ちを、こいつなりに整理しようとしてくれてるのか。
     すまねェのはこっちの方だ。と、口にしたはずが言葉にならず。おれはただ、ゾロの腕の中で歯を食いしばっていた。
     そうしていないと、口を開けばこぼれ出てしまいそうだったからだ。
     お前が、好きだ、と。好きで好きで堪らねェ、と。
     そんな不必要な言葉が、この世に生まれ落ちてしまわないように、おれはただゾロの匂いに包まれて、痛む胸にひたすら耐えた。
     ただの憶測が、確信に変わった。
     この胸は、おれがゾロを想うたびに、虚しく痛むのだ。

     痛むのはいつも、ゾロを感じた瞬間だった。視界にあの緑頭が入り込むたび、背後で気配が揺れるたび。それが日に日に強く、多くなっていくのを感じながら、それでもこの想いには蓋をするしかなくて。でも自力ではどうしても殺しきれなかったこの気持ちに、ゾロは軽蔑するでもなく、黙って蓋を被せてくれた。
     それだけで、十分だと思った。痛みを抱えて、生きていける、と、ゾロの分厚い肩に目頭を押し付けながら、そう思った。

     翌日、おれはまたチョッパーと医務室で向かい合っていた。チョッパーは、「サンジの痛みの原因が分かった」と少し言いにくそうな顔でおれに告げた。
     過去にも似たような症例があったのか。だとしたらそいつも辛ェ想いをしたんだな、とぼんやり思っていると、チョッパーは意外にも「ゾロがな」と口火を切った。
    「ゾロが、昨日教えてくれたんだ。サンジの症状は、自分のせいかもしれないって」
     そうか、と頷きうつむいた。
     チョッパーはしばらくおれの反応を見ているようだったが、おれがうつむいたまま何も言わずにいると、ふうとひとつ息をついた。
     コトリ、とペンを机に置く音が響いて、そしてチョッパーの丸椅子がギギギと鳴った。
    「サンジ、落ち着いて聞いてくれよ」
     少し硬い蹄が、背中をふわりと撫でた。そのまま腰から背中の真ん中あたりまでを何度も優しく上下する。あえてなのか、チョッパーはおれの背後に立っていた。顔を見られなくて良かったと思った。
     あれからゾロとは、顔を合わせていない。昨日の夕食の時も今日の朝食の時も、あいつはおれの前に姿を現さなかった。いつも言葉の足りないやつだが、それがあいつなりの答えなんだと、そう自分に言い聞かせていたのに。
     チョッパーは再び、「ゾロが」と切り出した。反射的に昨日のたくましい腕の感触がよみがえる。
     小さな細い針が、ぷつんと胸に刺さった。
    「前に立ち寄った島で、ほら、二週間くらい前に上陸した島があったろ?そこで変な酒を勧められて飲んだんだって」
    「・・・・・・変な酒?」
     全く予想外の話の方向に、思わず後ろを振り返った。パシパシと目を瞬くと、チョッパーは「うん」と頷き話を続けた。
    「どうやら島に伝わるお伽話みたいなものらしくて、ゾロもどうせ作り話だろって気に留めてなかったみたいなんだけど」
    「ちょ、ちょっと待て」
     頭がついていかなくて、話を遮った。心拍数が上がる。どういうことだ。この痛みの原因は『おれ』じゃないのか。
    「それで、その酒を飲んだらどうなるって?」
     結論を急いた。
     チョッパーは丸い目で真っ直ぐこちらを見ていた。
    「言葉にしなくても、想う相手に気持ちが伝わるって」

     展望室へのロープを踏み締めながら、心臓は相変わらずどんどこ叩きつけられるようで息苦しいが、もう絞り切られるような『痛み』ではない。
     早く、早く、と早る気持ちに、我ながらガキみたいだと苦笑した。
     展望室へするりと身を乗り上げると、ゾロが鉄団子を振り回す手を止めて振り返った。その目が、おれに向いている隻眼が、「来てくれるな」と語っている。
     胸が痛い。目が眩みそうなその痛みに、心底ホッとした。
     煙草を思い切り吸い込む。胸に広がった煙は、体中を巡ってきちんと外へ吐き出されていった。
    「ゾロ」
     チリ、とゾロのピアスが揺れる。一歩、一歩、とその距離を詰めた。

    『相手も自分と同じ気持ちだって分かれば症状は治まる』
     色々と小難しいことを説明した後、チョッパーは最後にそう言った。
     なんだか気恥ずかしくて、やっとこさ「そうか」と口元を引き締めて返事をしたが、優秀な船医はおれのその表情を見て何かを察したらしい。
    『ゾロのこと、頼むな』と、少し照れ臭そうに笑った。

     珍しく怯えたような顔をしているゾロに、何から話すべきか。
     痛ェよ。おれもお前と同じ気持ちだ。お前のことが好きだ。なぁ、おれ達、、
    「ゾロ」
     言うより前に、手が伸びた。汗まみれの緑頭、乱暴に手繰り寄せて。もう言葉なんて必要ない。
     さぁ、答え合わせをしてやろう。
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