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    前 浪

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    前 浪

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    ナゴヤと稲妻マーク⚡️の話📿🌔⚖️
    チームを組んでまだ間もない頃の三人
    (2022,11/27 CDデビュー3周年作文)

    ⚠️CP要素はありませんが、ひとじゅしと同じ生産ラインです。ご了承ください。

    #ひとじゅしアクセサリー

    blouson, pierce, pins 少し狭い路地を一歩入れば、さっきまで全身を包むように聞こえていた喧騒が一気に遠くなった。十四は、先を歩く自分の目線より少し低い背中のナゴヤ城を見失わないように小走りで追いかける。
    「っと、ここだ」
    「こんなところにお店があるんっすか?」
    「おうよ。知る人ぞ知るってやつだ」
     空却が立ち止まった少し古い建物はまだ昼間だというのに薄暗く、この路地へ迷い込んだ人を誘うように口を開けて佇んでいた。行くぞと中へと進む空却の後に続く十四は、不安そうに眉を下げながら左腕ではアマンダを抱え、右手ではそっと前を歩くスカジャンを掴んだ。
     空却が足を止めたそこには店の名前も書いていないアルミ製の扉が一つ。そして躊躇いもなくそれを開いた。
     扉の向こうは一軒のアクセサリーショップだった。黒い内装によく映えるシルバーアクセサリーが所狭しと並び、ビルの佇まいとは真逆の激しいパンクロックのBGMが、だが控えめに流れている。
    「らっしゃ……おお、空却か」
    「よぉ、邪魔するぜ。今日は弟子を連れてきた」
    「……どもっす」
     その高い背を丸くしたまま、十四は空却の後ろから顔を出して軽く会釈する。店の奥のカウンターにはツーブロックヘアーの男性がいた。耳には空却と同じ拡張や開けられるだけ開けたであろうたくさんのピアスと、そして耳だけでなく鼻や眉にもボディピアスが付いている。
    「弟子も随分派手だな」
    「どの口が言ってんだよ」
     空却の軽口にハハハと笑って見えた舌の上にもピアスが、そしてカウンターに乗せた手のシルバーリングとブレスレットが光る。さすが、シルバーアクセサリーショップの店員だけあるなと、十四は店の中を見渡す。
    「まぁ、弟子くんもゆっくり見てってよ。リングのサイズの微調整もするし、ピアスのパーツ交換の相談ものるから」
    「ありがとうございますっす!」
     ピアスだらけの見た目は厳ついが人の良さそうな言葉に十四の人見知りと身体の強張りは少し和らいだ。
     雑多な印象を受ける店内は十四が普段通うショップより品揃えが多いが一つ一つ丁寧に陳列されているわけではなく、少し雑多な印象だ。壁に並ぶピアスも、華奢なデザインなものより無骨なものが多い。十四は次のライブ用にこれまでとは少し趣向を変えたいと、気になったものに手を伸ばしては鏡の前で合わせてみる。その背後ではガムの咀嚼音と金属同士が触れ合う音が断続的に聞こえていた。
    「あれ……?」
     BGMがアウトロでギターの音とともにフェードアウトしていく瞬間、そう呟いた十四の声は空却の耳にしっかり届く。
    「なんだ? 何か見つけたか?」
     ギシギシと床板を踏み締めた音に振り向いた十四は、近づいてくる空却に「ちょっといいっすか」とその手に持ったものを前にかざして見比べる。
    「空却さん! これ……!」
    「いいもん見つけたじゃねぇか、十四ぃ!」
     パンクロックに劣らない空却の笑い声が店内に響いた。
     
     ◆◇
     
     お疲れ様でしたという声とともに、一人また一人と職員が事務所を後にする。退勤の騒がしさが落ち着いた頃、獄もふぅと息を一つ吐いた。示談か裁判かで長く揉めていた案件が漸く落ち着きそうで、その達成感から少し重さのある書類をデスクで整える音さえ軽やかに聞こえる。
     背もたれに身体を預け後ろに大きく伸びをした。身体を巡り始めた血流のじわりとした感覚も心地良く、このままどこかで一杯呑んで帰ろうかと自然に顔が綻ぶ――
    「よう! ヤクザ弁護士! 邪魔するぜ!」
    「ひとやさーん! お邪魔しますっす」
     ――途端に獄の眉間に深く皺が刻まれた。
    「もう今日は営業終了だ。ガキは帰りやがれ」
     獄はしっしっと無遠慮な来訪者を追い返す手振りをする。
    「お仕事が終わったなら、ちょうど良かったっす!」
    「よーぅし、このままここでB.A.T.のミーティングを始めよーぜ」
     そんな獄の態度も声も全く無視して、当たり前かのように来客用ソファに並んで座った空却と十四。獄はこれでもかと大きく深くため息を吐く。
    「いいかガキども、俺には我慢ならんもんが二つある。一つ、当てにならない渋滞予測。二つ、プライベートの時間を邪魔さ「実は今日はひとやさんにですねー」
     十四は、獄が指を立てて「一つ、二つ」と列挙するいつもの口上をまるで聞こえていないかのように割って入る。青筋を立てながら、聞けよ! と張り上げた声にキョトンとした目で立っている獄を見上げた。
    「ついでにそうやって人の話を聞かねぇバカガキどもなぁ……」
    「獄ぁ」
     空却は十四の隣から獄の顔を覗き込んだ。
     大きな犬歯をチラつかせ、ニタリとしたその表情は腹立たしく、獄の額の青筋はさらに増えそうになる。
    「営業時間外っつーことは、拙僧たちはお前の仕事の邪魔は一切しちゃいねぇ。それにミーティングも本来なら寺に呼び出すところをわざわざこっちから足を運んで、おまえのその貴重な時間とやらを少しでも無駄にしないようにしてやってんだ。感謝してほしいぐらいだぜ」
    「三流坊主見習いが、一丁前に屁理屈言いやがる」
     獄はハッと鼻で笑い飛ばすが、どこに同調したのか力いっぱいうなづいている十四が視界に入り、それ以上空却に悪態をつくのをやめた。
    「んで、『リーダー』、ミーティングって何すんだよ。まだ予選どころかエントリーすら正式に始まってねぇだろ」
     並んで座る二人の向かいのソファに獄は深くゆっくりと腰をかけた。すでにタバコを口に咥えていて、座ったと同時に火をつける。
     空却の元には中王区直々にマイクが送られてきている。選定メンバーの連絡さえ済ませればあとは向こうがブロックエントリーまで勝手に進めてくれるはずで、今はまだミーティングをするほどでもないだろうと獄は吸い込んだ一口目の煙を天井に向かって吹かす。
    「話し合いっていうか、今日はチームに大事なものを持ってきたんすよね」
     隣の空却と顔を見合わせ、膝に乗せていたバッグの中から十四は手のひらサイズのケースを取り出した。獄と二人の間に置かれたテーブルの上に載せれば非常に軽いプラスチックの音がする。
     自分の方へと差し出されたので獄はタバコを灰皿に押し付けるとそれ受け取り些細に眺めた。
     黒い台座に、透明なアクリルのカバーから覗くそれは、ケースのどれよりも重厚な輝きを放っていた。「開けていいぜ」という空却の声にカバーを開ける。
    「ピンバッジか?」
     指輪かチャームかと思っていたが、中のメラミンスポンジに軸とキャッチが埋まっていた。
    「これが今日から拙僧たちナゴヤディビジョン、Bad Ass Templeのしょうちょ「空を割く轟音と光を放つ鋭き刃……これはすなわち我ら三銃士が決闘において敵を薙ぎ払う象徴(シンボル)となるであろう!」
     大袈裟な身振りと芝居がかった物言いに自分のセリフをを遮られた空却が大きく舌打ちをすると、十四はヒッと小さく息を呑んだ。
     ピンバッジは光沢仕上げのちょうど人差し指ほどの大きさで、稲妻の形をしている。と、獄は手の上のこれに急に既視感を覚えた。わかりやすい稲妻のデザインは珍しい形ではない。だがこの感覚はそこから来るものではなく、ごく最近どこかで全く同じものを目にしたはず――
     ふっと顔を上げると、目の前では掴みかかる空却と、喚く十四の姿がある。
     抵抗する十四のせいで空却の着ているオーバーサイズのスカジャンは片方の肩がはだけるほどズリ下がり、襲いかかる空却を長い腕で押し除けヤダヤダと頭を振る十四の耳元ではピアスが大きく揺れる。
    「あ」
     そう呟いた獄の声に二人の動きが止まった。
    「言っただろ、拙僧『たち』の象徴だって」
     獄の目は空却のスカジャン、そして十四のピアス、そして最後に手のひらにのるピンバッジを順に見る。
     ずり落ちた袖を引き上げた空却のスカジャンの胸元、そして乱れた髪を整える十四の両耳たぶに、全く同じ稲妻があった。
    「今日二人で行ったアクセサリーショップで見つけたんっすよ」
    「本来は十四のと同じピアスの一部なんだがな、店のヤツに頼んでみたら、パーツ変えてピンバッジにしてくれた」
    「でもなんでこの形なんだ?」
    「雷は『神が鳴く』とも書くし、その光や音のから邪悪なものを追い払うイメージがある。『迅き雷、落ちて全てを薙ぎ倒す』ってな。拙僧たちも疾風迅雷、豪快に戦ってやろうじゃねぇか」
     そう意気込む空却に、獄は黙ったまま指先のバッジをくるりと回す。
    「ひとやさん、お仕事でアクセとかつけにくいかもっすけど、せめてバトルの時だけでも良いんで……」
     じっと指先を見つめてはいても、その向こう側を見ているような、感情の読めない獄の目におずおずと十四が言う。
    「誰が付けねぇって言った?」
     獄は立ち上がると、ハンガーにかかっている愛用のライダースに手を伸ばす。
     袖に腕を通した獄が振り向くと、バイカラーの黒い左襟にはいつも通り、ひまわりを模した弁護士バッジが、そして白い右襟には稲妻のバッジが新たに付いていた。
    「同時に二つも付けるとは、欲が深けぇな。さすが銭ゲバ」
    「生憎俺は弁護士として無敗の称号は既に手にしてるんでな。だったら次はディビジョン代表としての無敗だろ」
     ハッと鼻を鳴らす獄に、空却は大きく両方の口端を吊り上げた。
    「これで三人お揃いっすね!!」
     立ち上がり、十四は大きく両の手を上げた。
     空却の胸元、十四の耳、そして獄の右襟でそれぞれ稲妻が光る。
     すると途端、十四の腹が大きく鳴る。
    「ヒャハハ! 拙僧らが雷を落とす前に腹の虫が鳴きやがった」
    「だって、お昼食べてからここ来るまで何も食べてないじゃないっすか」
     空却の笑い声に十四がアマンダごと腹を抱えるようにして身を屈めた。
    「飯、行くか。話はそこでもできるだろ」
     獄が空却を見やると、待ってましたとばかりにギラリとその金色の瞳を光らせて、勢いよく立ち上がる。先ほどまで顔を伏せていた十四も同じように目を輝かせて獄の顔を見つめていた。
    「お前がそこまで言うなら仕方ねぇ。場所変えるか。拙僧、肉な」
    「お肉!! やったぁ!!」
    「お前ら、金出すのは俺なんだぞ!」
     早々に行き先を決め、来た時以上に騒がしく飛び出していった二人に大きくため息を吐きつつ、そのあとを追うようにして獄も事務所を後にした。
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