「えーっ、なんで俺だけ〜?」
五枚のポチ袋を前に、樹果は頬を膨らませた。
動物の絵がついたもの、和紙のもの、「妖精の焔」アニメのもの、女児向けの可愛らしいもの、黄緑色のドット柄のもの。
「まあまあ、こういうのは貰えるうちに貰っておいたほうがええで~」
シルバーを拭きながら、寶は笑みを隠せずに樹果を見守る。
「みんなして、俺のこと子供扱いしやがって……しかも蘭丸にまで」
バーカウンターに置かれた動物柄のポチ袋を指差しながら樹果は解せないというような表情だ。
「ええやないの、愛の証やで。樹果くん愛されっ子やねえ」
「俺、こういう愛は別にいいんだけど」
言いながら、貰ったポチ袋を揃え直した。
「寶はどうなのさ、お年玉、貰ったことあるの?」
予想し得なかった質問に息が詰まり、あの薄い粥の味が舌先に蘇った。街の喧騒と、母の筋張った手から渡された端の欠けた椀。
「もちろんや。わいのパパ上は金鋼族の大首領様やったからな。カワイコちゃんからモテモテのモテや。そのカワイコちゃんの中で一番イケてるカワイコちゃんがワイのママや! 一目あった時ときからもうズキュンや!」
嘘をつくのは得意だし、そう悪いとも思っていない。家族の愛情に包まれて育ってきた子に気まずさを味あわせるよりは良いことだろう。
「わいは金鋼族の御曹司様やで〜。もう新年のたびにわい宛に金の延棒が届いて、置き場所のうなってそこらに積み上げてるからもう危のうて危のうて」
「うさんくさ」
樹果はとくに笑うでも怒るでもなく、弄んでいたポチ袋から視線を外した。
「寶、カレー飽きたよ。今日くらいウーバー頼んでみない? 金ここにあるしさ」
「そんな、せっかくもろた大事なお金ちゃんを」
「愛ならわかちあっても減るもんじゃないだろ。豊穣さんたちは誘っても来ないかもしれないけど……てか、誰かチルカの連絡先知ってるの?」
制服の尻ポケットから携帯を取り出しつつ、樹果はふと手を止めた。
「これだけ、取っておいてもいいかな?」
樹果は黄緑色のドット柄のポチ袋をつまみ上げた。
「ええんやないの」
シルバーを拭く手が止まったことを悟られないように、寶はなるべくのんびりと答えた。