ききみみ 「前からききたかったんだけどさ」
いつものBar Fで朝食のカレーを口に運びながら、樹果が話し出した。
「焔の耳飾りって、何かいわれのあるものなの?」
焔はきまり悪げに赤面していたが、水を一口飲んでから話し始めた。
「何もねーよ。まあ、ケンカが得意そうなニンゲンの格好らしいからな」
傷ついた焔の治療に携わっていたのを誰かから聞いたのか、大怪我をした後の焔は、樹果に対して、以前よりは無碍な対応をしなくなった。そういう所、乱暴そうだけど義理堅いのかもしれないな、と樹果は思った。
「初めて会ったころ、耳が俺とお揃いかなって、ちょっと思ったからさ、聞きたかっただけ」
「いや、似てねぇだろ」
焔が誰にともなく呟いた。
「そっか。まあお揃いは制服だけで十分だね!」
「お揃いといえるほど同じ着こなしはしていないんじゃないかな……」
半分眠りながらカレーを食べていた蘭丸が言った。うっかりするとカレー皿に前髪をつっこんでしまいそうだ。蘭丸の頭上でバックンが円を描くように飛んでいる。
「そういうことだけよく聞いてるよね、蘭丸は。俺のほうが耳いいはずなのにさ」
蘭丸は樹果のほうを見て、無言で首をかしげた。
「あれを外すとだな、火照瀬は普段の倍は喧嘩っぱやくなるんだ」
カレーをほとんど食べ終えてしまったうるうが唐突に話し出した。樹果が鋭い音をさせて息を吸い込んだ。
「冗談だ。僕もよく知らない」
すました顔でうるうはカレーを食べ終わり、食器を下げにカウンターに入ろうとする。
樹果はカレーを食べるふりをしつつ焔をみやる。なんで顔赤くしてるんだ? 調子に乗ってツボスコでもかけすぎたのかな。最近はケンカもしなくなった、けど、面白そうだからもっと焔とうるうのこと、カンサツしなくちゃだな。
カウンター内の中の寶と目が合う。
「俺の顔に、なんかついてる?」
「お弁当がついとるで〜」
寶は口の端を指してみせる。顔を赤くして勢いよく立ち上がった樹果の食器が、耳障りな音を立てる。