面倒 おれはオオサカに行ったことがない。花園さんが、オオサカに行ったことがないように。どうして、エセ・オオサカベンをしゃべるんですか。そう訊いたら「面倒が減るからや」と花園さんは答えた。花園さんの大きな背中で流しが見にくくて、暖かい、カレーの匂いが部屋中に篭って、だから眠いのに寝るのを我慢しようと、くすぐったくなるような気持ちだった。
花園さんが、布団で横になっているおれのほうを向いた。手にはカレーの箱を持っている。
「コレと一緒や。作り方は裏に書いてあるさかい、付け焼き刃でもゴマかしはきくんや。エセ・オオサカベンなら、イナカがどことか、わざわざ訊いてくる奴おらんやろ?」
イナカは、生まれたところ、または、育ったところの意味らしい。人間界に来たおれのイナカを知られると、いろいろ面倒らしい。ここはあくまで潜伏先。身元を知られてはならない。
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