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    kaheita2021

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    大遅刻なコラ誕SSです。

    現パロ

    #ローコラ
    low-collar

    君となぞる幸せの輪郭 慎ましく今日を祝いたい。
     そのために病院の仕事も学会も全てを調整し手に入れた時間を、トラファルガー・ローは有益に活用していた。年に一回だけのこの日を、より特別なモノとするためにと、キッチンに立ち予定の献立を粛々と用意していく。
     ミキサーしたトマトと夏野菜をさらに裏漉ししボウルに入れ、一旦冷蔵庫へとしまう。
     オーブンの中には、ハーブを仕込んだ鯛の塩釜を入ってる。焼くのは後だ。今日の主役が帰ってくる時間に合わせて焼き上げるように、と思うと口端が緩むのを自覚する。
     朝の様子を思えば、ローや他の人の誕生日を忘れることはないのに、自身のこととなると意識が薄い恋人は今年も今日がなんの日か忘れていることだろう。
     ガラスの器に三種類の千切ったレタスを入れ、細く刻んだ人参と水に晒していた薄切りの玉ねぎと混ぜる。そこに細かく砕いたアーモンドを振りかければサラダが出来上がる。ラップをかけた器も冷蔵庫へ閉まったとき、携帯電話が短く鳴った。カウンターに置いていた画面を覗き見ればと「これから送っていく」という短いメッセージの通知が表示されていた。
     メッセージの送り主は、今ローが帰りを待つ恋人の兄だ。さっと洗った手を拭き、感謝の言葉を送り返す。主役の帰宅まで一時間もないな、とキッチンからリビングへと足を向けた。
     室内を装飾するのは気がひけた分、せめてとデーブルの上に飾った白い薔薇の花束。先立ってセッティングしていた皿とカラトリーを確認する。自分が座る方の椅子の下に忍ばせたプレゼントも確認し、ローは少し緊張する体をほぐすように息を吐いた。
     深呼吸ひとつ。再びキッチンへと戻るその口元は穏やかな笑みに彩られていた。
     仕上げよう、今日この日を祝うために。
      君となぞる幸せの輪郭
     駅から伸びる大通りに面したマンションが二人が共に暮らす場所だ。
     元々ローが一人で住んでいたが、一人では持て余す広さと、何より共にいる時間が一秒でも長く欲しいと。恋人となって一年経ったくらいに一緒に住まないかと提案したのがきっかけで今は共に生活している。
     そして、この部屋で祝う誕生日は今日が初めてだ。
     焼き上がりを告げるオーブンの音に重なるように、玄関の外から大きな音がした。わかりやすい帰宅の知らせに口元が緩む。ざっと作業の進捗を確認し、ローは玄関へと向かった。
     一向に開かないドアを開くと、床に座り鞄から飛び出したものを拾う待ち人の姿がそこにあった。「おかえり」と声を掛ければ「ただいま」と申し訳なさそうな笑顔で帰ってくる。
     当たり前のように伸ばされた手をとり、立ち上がる手伝いをする。それなりに上背のあるローよりも頭ニつ高い位置に咲いた金の髪に縁取られた笑顔は向日葵のようだと思う。
    「今日、おれの誕生日だった?」
     開口一番に「何の日だ?」と言われなかっただけ、去年よりましだが、案の定自覚していなかったことにローは小さく苦笑した。
     ドンキホーテ・ロシナンテは、そういう人だ。
    「あぁ、コラさんの誕生日だよ」
     ローは彼のことを本名に掠りもしない愛称で呼ぶ。理由はしっかり伝えたことはないが、口に馴染みがいいからと濁しても、そう呼ぶことをロシナンテは許してくれた。
    「ドフィにハッピーバースデーって言われて気づいたよ」
     これ、とロシナンテが差し出した細長い紙袋を受け取る。余計なこと言いやがってと彼の兄へ心の中で毒づいたのは、顔に出さず受け取った紙袋から取り出した仰々しい箱に入った物を確認する。銘柄はもちろん、製造年も申し分のない白ワインに少し癪に触る笑い声が耳の奥に聞こえた気がした。癪だが、自分が準備していた料理にも合うだろうそれを紙袋に戻す。
    「いい匂いがするな!」
    「食事の準備、もうすぐ終わるから待っててくれ」
     家に入った途端明るく響いたロシナンテの声に、自然と笑顔になる。
     しんとしていた部屋の中に、ほのかに色がついていくようなこの感覚を人は幸せと言うのだろう。そんなことを思いつつ、残る準備を進めるために三度キッチンへと向かった。
     一足早くリビングを覗いたロシナンテがローに振り向いた。その顔があまりに真剣な表情をしていたものだったから、ローの手も止まらざるおえなかった。
    「正装した方がいいか?」
     それはそれで見てみたいとも思うが、必要ねぇよと笑いながら返す。肩肘張らない二人だけの時間にしたい、そう伝えるとロシナンテは静かに笑った。
     
     砕いたアーモンドを散らし、塩胡椒で味を整えたオリーブオイルをかけたサラダ。
     夏野菜のガスパチョ。
     身の中にハーブを仕込んだ鯛の塩釜。
     献立的には主食はパンが一般的だろうが、お互い嫌いなそれが候補に上がることもなく。白米と共に。
     それら全てを見透かされたようにロシナンテが兄から貰ってきたワインは、憎らしいほど合うものだった。
     今日あった出来事など、交わす日常の会話に少しだけ特別な料理で彩る時間。
    「誕生日おめでとう」
    「ありがとう。祝われて喜ぶような歳でもないが」
     くしゃりと笑い掲げられたワイングラスに、ローはそっとグラスを寄せ小さく鳴らした。
    「ローとこうして過ごすのすごい幸せだ」
     何よりも嬉しい言葉に、今日この時間のための全部が報われた気がした。
     まだ、やらなきゃいけないことはある。
     グラスの中のワインを飲み込み、グラスを置いたローは椅子の下に置いていた紙袋を取り上げる。緊張で口元が強張るのを自覚する。
     テーブルの向かいに座るロシナンテを見やる。
    「誕生日に渡すもんじゃねぇとは思ったんだが……」
     どうしても、と繋げた言葉が詰まる。考えていた言葉が霧散していく。
     袋から取り出したラッピングされた小さなそれを手渡した。
     受け取ったロシナンテの指がリボンをほどき、包み紙を開くごとに鼓動が大きく早くなるのを自覚する。剥き出しになった小さなビロードの箱に、ロシナンテの赤い瞳が少しだけ大きく開かれた。
    「これ……」
    「受け取ってほしい」
     小さく呟いたロシナンテの声に、祈るように被せ伝える。緊張で心臓が爆ぜてしまいそうだ。
     開いた箱の中を見たロシナンテの表情が強張る。だが、それも刹那。箱から顔を上げたロシナンテの瞳が真っ直ぐローを見て、柔らかく微笑んだ。その笑みの綺麗さに、ローは胸に込み上げる喜びで目尻に熱が集まり溢れそうになるのを唇噛んで耐える。
     箱の中から取り出されたのは、指輪。
     シルバーの細身のボディの真ん中にピンクがかったゴールドのラインが入っている。シンプルなデザインのそれを、眺めた赤い瞳が眩しいものを見るようにスッと細められる。
    「こういう時って、左の薬指だっけか?」
     そっとロシナンテの唇から溢れた言葉に、ローは上擦った声で「あぁ」と返すことしかできなかった。宣言通り指輪が左薬指に嵌められていくのが、ローにはスローモーションのように見えた。
    「うわっピッタリ」 
     サイズはロシナンテが寝ている時に、こっそり測っていたことは自分だけの胸にしまっておこう。素材は、馴染みある信頼性と丈夫さを重視してチタンを選んだ。宝石のついたデザインとも悩んだが、余計な装飾をつけなくて正解だったと、ロシナンテの指に嵌まったそれを見て安堵する。張り詰めていた緊張がするすると解けていく。このたった数分が何時間も向き合う手術よりも緊張していたことに苦笑する。
    「ローのもあるんだろ?」
     指輪を嵌めた手ををひらひらと振るロシナンテの赤い瞳と目が合う。あぁ、と短く頷き答え、ズボンのポケットに入れていた袋の中から、指輪を取り出した。指先が少し震えていることに気が付き、目を閉じ小さく息を吐く。落とすなんて格好つかないことはしたくない。改めて指先に感じる指輪の存在を確認し、左の薬指へ滑らした。嵌めた手を上げロシナンテに向けて見せようと顔を上げると、目の前にロシナンテの顔があった。
     首元を滑ったロシナンテの手が後頭部へ周り引き寄せられる。グラスの倒れる音が聞こえた気がしたが、意識がそちらに向けることはできなかった。重ねられた唇の熱が自分のものかロシナンテのものか判別できない。触れて離れてまた触れて熱を持った息が絡みあい、体の奥から湧き上がる幸福感が目尻に集まり雫となって溢れ落ちた。
    「泣くなよ」
    「あんたもな」
     離れた唇の代わりにこつんと額を合わせ交わす笑顔。
    「最高のプレゼントだぜ」
     続いたありがとうに、ローも心からありがとうと返した。
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