酷い男2(読ロド)｢わかった、もう、お前の事は抱かねぇよ｣

流石に泣き出すとは思ってなかったのか、少し青い顔をした彼のその一言で、あっけなく私達の歪な関係に終止符は打たれた。あれ以来、退治人君からの呼び出しは来ない。ほっとした様な、惜しいような複雑な気持ちだけどこれで良かったんだと思う。そう言えば、私との相性がいいからと暫く他の女性達とは連絡をとっていなかったようだけど、関係を絶った今はどうなのだろうか。元に……戻ったんだろうなきっと。私一人抱けなくなったからって、相手に困るという事を知らない男だ。ああ、せめて私が女性であれば違ったんだろうか。そうしたら、彼とももう少し違った関係が築けたかもしれない。しかし考えても詮無い事は仕方がない。解放されたはずなのに重たく感じる身体を引き摺って棺桶に入り、それから私は二週間近く眠りについた。


光が射し込んでくる感覚に、意識が強制的に浮上する。誰かが外側から蓋を開けたのだろう。時折城に紛れ込んでくる子どもか、はたまた尾ひれの付いた噂を聞きつけたヴァンパイアハンターか。恐る恐る目を開けようとしたその時、土埃とーーー血の匂いにがばりと身体を起こす。
｢おー、起きたか｣
銀色の髪に青い瞳。軽快な口調だけど、その一挙一動は洗練されてまるで隙がない。何より面影が退治人くんに似ていた。いや、そんな事はどうでもいい。
｢……どうして貴方から、ロナルド君の血の匂いがするんですか｣
恐らく悪い人ではない。私に対する敵意がまるで無いのだ。しかし、目の前の男から匂う退治人君の血の香りが、私から冷静を奪い取っていく。
｢答えによっては、この城から出られると思わないでください｣
いつもは理性で抑えている竜の本能が、耳元で囁く。喰らってしまえと。背中がザワザワする。服の下で、自分の体が変化していくのを感じる。ああ、いけない。力が暴走しちゃう。この城が壊れちゃったら、退治人くんがもう遊びにきてくれなくなっちゃうかもーーー
｢だあーーーストップストップ！！あんたとやり合う気はないんじゃ！！そんな事したらロナルドに殺される！！！｣
それから退治人くんに似た彼は、早口でここに来た経緯を捲し立てた。最初は信じられなかったけど、話し終えた後で
｢ま、色々言いたいことはあるとは思うが、とりあえず付いてきてくれんかの｣
という彼ーーーもといレッドバレットさんの差し伸べる手に、気付けば縋りついていた。