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    まりこ/hld_op

    @hld_op

    降風が大好きです!!

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    まりこ/hld_op

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    3月の本のために書いていたけど行き詰まったものです。この話自体は未完でとつぜん終わります。

    #降風
    (fallOf)Wind

    片想いの話 僕の物語がひとつの終わりを迎えたのは、春、桜が散る頃だった。
     例の組織が壊滅して一ヶ月。膨大な事後処理にようやく終わりが見え始めたある日、僕と風見は公園のベンチに並んで座っていた。天気の良い、あたたかい日だった。広い芝生を挟んで向こう側には桜の木があって、家族連れが弁当を広げているのが見える。
     風見に話さなくてはならないことがあってわざわざ呼び出したのに、僕はなんとなく言いあぐねて、青い空を見ている。
     風見は、何の話なのかわかっていたと思う。揃えた膝の上に、軽く握った拳が乗せられていた。そんなに畏まらなくたっていいのに。
    「じきに正式な辞令が出るが、君はゼロの連絡役から外れる」
    「はい」
    「君には世話になった」
    「いえ。降谷さんと仕事ができて、光栄でした」
     風見の声はいつも通りに落ち着いていた。僕はこの声がとても好きだった。いつかこんな日が来ると分かっていたのに、もう聴けなくなると思うと途端に惜しくなる。だから、笑おうと思った。
    「やっと、君を解放してやれる」
     風見は不思議そうに首を傾げた。
    「いつか言ってた人、まだ好きなんだろ」
    「覚えてたんですか」
    「無茶を言った自覚はあったからな。……君なら、きっとうまくいくさ」
     風見は眉を下げて笑う。その顔が、泣いているように見えた。

     風見が恋をしている。それを知った日のことは、よく覚えている。

     抱えていた仕事がひと段落して、思い切り料理がしたい気分だった。とはいえ、食べてくれる人間がいないと張り合いがない。そういう時に声を掛ける人間は一択だ。風見を誘うと、ちょうど早く上がれそうだという。
     日が落ち切る前に、風見は日本酒を手土産に持ってやってきた。
     和洋とりまぜてずらりと並べた料理をふたりで食べて、酒を飲む。僕は風見とこうやって食事をする時間が好きだった。彼は、僕が顔を取り繕わなくて良いほとんど唯一の相手だ。
     そんな風見から、恋愛相談をされた。
     酔っていたから、相談というか、うっかり口を滑らせたというほうがいいのかもしれない。
    「降谷さんは、好きなひといないんですか」
    「いない」
    「……だと思いました」
     その言い方に、なぜかとても落ち着かない気持ちになった。風見は、酒で唇を濡らしてから、ぽつぽつと話し始めた。
     好きな人がいること。自分はそのひとにとても釣り合わないこと。せめて友人としてそばにいたいと思っていること。
     ぼんやりと話を聴いていた僕のグラスは、知らぬ間に空になっていた。
    「君に釣り合わないなんて……どこかの国のお姫さまでも見初めたのか?」
    「当たらずとも、ですね」
     くすくす笑う風見を置いて、僕は最近彼が関わった要人警護の案件を必死に思い出していた。海外からの女性の賓客は無かったが、随行した外交官や通訳には女性もいたはずだ。いや、友人に昇格したいというのなら、少なくとも相手とは顔見知りではあろう。
    「……沖野ヨーコ?」
    「推してますけど、それとこれとは違います。まぁ、だれでもいいじゃないですか。どうせ叶わないんだし」
    「気になる」
     なぜだろう。僕はどうやら今、とてもショックを受けている。僕が知らない間に風見が恋をしていたことも、その相手を僕に言わないことも。
    「降谷さん、そんな怖い顔しないでくださいよ」
    「え、ああ、すまない」
    「変なの」
    「相手は誰なんだ? 教えてくれ。誰にも言わないから」
    「ええ? やですよ」
    「僕が知っている人?」
    「言えません……降谷さん、なんでそんなに気にするんですか?」
     たぶんこれも酒のせいで、僕は正直に話してしまう。
    「君に、僕の知らない側面があるのが嫌だ」
     風見はそれを聞くと笑って、笑いすぎて滲んだ涙を拭った。
    「僕が降谷さんの全部を知らないのと同じで、僕にだって、降谷さんが知らない秘密のひとつやふたつ、あるんですよ」
    「君は僕の右腕なのに?」
    「そんなふうに思ってくださってたんですか。うれしいです。……でも、僕も一個の人間なので」
     風見がふわりと微笑む。
    「降谷さんの知らないところで、恋をしたりもするんです……。まあ、叶いそうもないし、忘れて明日からもがんばりす。お皿、片付けますね」
     風見は勝手に吹っ切ったらしいけれど、僕は納得がいかなかった。
     シンクで洗い物を始めた風見の背後に立つ。僕より背が高い背中に、そっと額をくっつけた。
    「降谷さん?」
    「僕の知らないところに行かないでくれ」
    「ええ?」
    「相手が君に振り向いても、そいつのところに行くな。君は僕の右腕なんだから」
    「酔ってますか?」
    「うん」
    「どこにも行きませんよ。目を離すとすぐ無茶するんだから……」

     ※

     あの時も、風見は同じ顔で笑っていた。
     急に風が強く吹いて、桜の花びらが舞う。
    「さびしいか?」
     僕はさびしい。
    「そうですね、少し」
    「結婚式には呼んでくれ」
    「はい。……降谷さんのには呼ばないでくださいね。お偉方に囲まれては肩身が狭いので」
    「薄情者め」
     握手をして別れて、それっきりだ。

     僕は時々風見の夢を見る。当たり前のように風見がそばにいたころの、懐かしい夢。

     三年経っても風見から結婚式の招待状は届かず、僕のほうも送る予定は立たなかった。
     見合いはいくつか受けたが、一人暮らしが長かったせいか、他人と一緒に暮らすというのがどうしてもピンと来ない。のらりくらり躱わしているうちに、釣書を渡されることもめっきり減った。

     風見に再会したのは、やはり桜の季節だった。



    (おおむねこういう雰囲気?ニュアンス?の小話が3月の新刊に収録されています。このお話とは細部は違いますが、ほぼ同じ話なので、よかったら続きは本でみてやってください!)
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