タイトル未定 扉は固く閉ざされた。
格好をつけて立っていられたのは、それまでだ。
重たい音を立てて扉が締まると同時、否応なしに理解した。取り返しの付かない隔絶が、塔の内外に横たわっている。
すべてを覚悟し選択したと、とても言えない。運命が、宿命が、使命が、波濤となって自らに押し寄せ、グ・ラハを飲み込んだ。抗えなかった。
シルクスの塔内部は薄暗く、あちこちを飾るクリスタルの青い輝きがかろうじて足元を照らすばかりだ。石畳は陰鬱な色に見える。ところが、眼前の門扉はクリスタルの青い光を受けながら、鈍い金色に輝く。顔を上げれば、身の丈十倍以上もある大門である。近づきすぎて、全体が見えない。
視線を落としてみても、いましがた己が閉じた扉は一部の隙もなく立ちはだかる。幾何学模様とつる草の匠意が見事な彫刻は、どこまでも無機質だ。
グ・ラハは扉に額を寄せた。ごつり、にぶい音が頭に響く。自らを落ち着けようと深く息をする。扉に吹きかけた息で、金属が淡く曇る。
嘆息は細く長く、やがて掠れた。嗚咽だった。
叶うなら、冒険者と旅がしたかった。
まだノアの仲間たちと一緒に行きたかった。
繰り返し見知らぬ土地を踏み、まだ見ぬ知恵に出会い、英雄たちの旅路を辿ってみたい。
それらを、シャーレアンでクルルに自慢する。彼女は苦笑いするはずだ。男の子って、見栄と無茶ばっかり。声が聞こえる気がした。
これは夢だ。淡い夢。
ふっと笑いがこぼれた。
数え上げれば未練に切りがない。
シルクスの塔の扉が開けば、目が醒める。
そこはどれだけ先の未来だ。
途方もない時間を思って、少し泣いた。
この時代の自分は、死んだも同然だ。そのような扱いを受けるだろう。短い嗚咽の間に、グ・ラハはこれを受け止めた。己が知るあらゆる風、あらゆる温もりをおいて、進むのだ。個人の決定を超えたものが彼を動かしていた。
「行かなきゃ」
グ・ラハは手の甲で強く目をこすると顔を上げ、歩き始めた。
塔の奥に、管制権を行使できる部屋がある。
そこで、自身にも時間停止の魔術をかけられる筈だ。
自らの時間を、塔の時間と共に止めるのだ。
そうすれば、ずっと先の未来で、英雄の名を探すことができるだろう。
あてのない暗闇のはるか向こうに星を見出すため、彼は青光りする道を進み、シルクスの塔深部へ姿を消した。